表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

密約

 夜。

 村の灯火がすっかり消えた後、ソウタはひとり外れの林へ向かって歩いていた。冷たい夜気が肌を刺す。昼間の惨状のせいで村人は眠れず、すすり泣きやうめき声があちこちの家から漏れている。


 だが、ソウタの足取りは迷いがなかった。

 ――待っている。そう確信があった。


 林の奥。月明かりに照らされた開けた場所に、頭目がいた。粗末な外套を羽織り、煙管を咥えている。昼間のような荒々しい笑みはなく、薄く口角を上げたまま、警戒の色を瞳に宿していた。


 「……なんだ、てめぇは。ひとりだけで命乞いか?村の奴らが見たらなんて言うだろうな。」


 「あんたに相談があるんだよ。」


 ふたりの視線が交錯する。

 沈黙の後、頭目がふっと笑った。


 「面白ぇ奴だな。村人の代表にでもなったつもりか?」


 ソウタは小さく肩をすくめた。

 「俺はただの旅人さ。……ただ、今日見て確信した。あんたたちは村を潰す気はない。食い物や銅貨を巻き上げて、恐怖を植えつける。それだけだ」


 「……」


 「つまり、俺たちの利害は一致してる。あんたらは“生かしておきたい”。俺は、“生き延びたい”。なら――協力してもいいんじゃないか?」


 頭目は煙を吐き出し、目を細めた。

 「協力? ……ほう。村人どもを裏切るってのか?」


 「裏切りって言葉は好きじゃねぇな」

 ソウタは口元に薄い笑みを浮かべる。

 「村にいるだけの俺だからこそ、伝えられることがある。どこに食糧を隠してるか、誰が反抗的か、どこを狙えば一番効くか……。あんたらが効率よく搾り取れるように“手を貸す”。その代わり、俺だけは――安全にしてもらう」


 《……危険な賭けですね》

 共犯者の声が冷ややかに囁く。

 《しかし、成立すれば村も野盗も利用できる。あなたらしい選択です》


 頭目は煙管をトンと鳴らし、笑った。

 「なるほど。詐欺師みてぇな口ぶりだ」


 「事実、俺は詐欺師だ」

 ソウタは静かに言い切った。

 「人の心を揺さぶり、欲を突き、動かす。それが俺の武器だ」


 頭目の目が光る。沈黙が数拍続き――やがて、彼は低く笑い出した。


 「……面白ぇ。いいだろう。しばらくはお前の言う通りにしてやる。ただし、裏切ったら……わかってんだろうな?」


 「もちろん」

 ソウタは涼しい顔で答えた。

 「俺は勝ち馬に乗る主義だ」


 夜の林に、ふたりの笑い声が交わる。

 その声は、村人たちの知らぬところで、静かに新たな絆を結んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ