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第1話 新たなる出発

2022年2月 Vandits field体育館

 2022年シーズン、Vandits安芸JFL元年・シルエレイナ高知なでしこ2部リーグ元年となる今年の(株)Vandits。サポーター達は昨シーズンが終わった段階からSNSを通じてクラブへの期待感を表していた。


 Vandits安芸に関しては昨シーズン文句のつけようのない成績でJFL昇格を決めた。その中でチームの精神的柱を担っていた及川と中堀の引退。得点源であった飯島のシーズン途中での海外移籍。来シーズンへの大きな変化はあった。

 しかし心配された得点源は2020年に大学卒で加入したFWの棟田が覚醒。飯島の抜けた後からの8試合で13ゴールをあげると言う活躍ぶりで、見事にその穴を埋めて尚余りある実力を見せた。また同じくFWの沖もゴールエリアでの存在感を見せ始め、高卒加入から続けていたフィジカルトレーニングがやっと形として見え始めてきた。


 シルエレイナ高知に関しては不安材料すらない。強いてあげるとすれば学生選手の経験不足だったが、シーズン途中でなでしこリーグから二人の選手(八木早苗・酒井彩芽)が加入した事で厚みを増し、そして年間を通してリーグ戦以外に練習試合を組んで試合数をこなすと言う方法で経験を無理やりにでも積んでいく形を取った。

 なでしこ2部との入替戦で苦戦が予想されていたが、それすらもあざ笑うかのように問題なく勝利。もしかするとクラブ側からすれば、チーム発足二年でなでしこリーグの加盟基準を満たせるかと言う事の方が不安が大きかったかも知れない。


 そして迎えた新シーズン前の新体制発表会。前年度・前々年度の内容からある程度のスタイルは予想していたサポーター達だが、会場であるVandits fieldの体育館に入ってまず度肝を抜かれた。


 体育館内には建設用足場を使った即席の席が作られており、体育館前方のステージからせり上がるように参加者用の座席が作られていた。最前5列ほどは体育館床に席を構えている状態だが、どうやらそこが譜代衆・国人衆企業用の座席のようだ。


 後列のせり上がり席も見づらいと言う事は無く、むしろ見下ろすように会場全体を見られるので意外にも席は後列から埋まっていった。今回もサポーター席は抽選制で競争倍率40倍を潜り抜けた100名が今か今かと開始を待つ。


 国人衆席に案内された三原洋子はここで違和感に気付く。今までの新体制発表会のようなステージ上に司会者が立つ席や選手が並ぶ為のひな壇などが作られていない。そして一番の違和感はステージ下に譜代衆の席と向かい合うように作られた長机と椅子の数々。

 それはまるで株主総会を思わせるような風景だった。


 サポーターが全員席に落ち着いたタイミングでクラブスタッフに案内されて譜代衆の方々が席に着く。顔が知れている譜代衆の方達にはサポーターから「よっ! 矢ノ丸!!」とか「御大(おんたい)(笹見徳蔵の事)!! 今年もお願いします!!」などまるで歌舞伎でも見に来たかのように声がかかる。

 それに譜代衆の皆様も応じてサポーター席に向かって深々とお辞儀をすると、サポーターからは大きな拍手が起こった。


 そして発表会が始まる。司会の阿部桜が入場し、長机横に構えられた司会席で進行を始める。(株)Vandits運営統括部およびデポルト・ファミリア上層部の呼び込みを行うと、サポーター達は今年は間違いなく今までと違うと確信する。

 席に並んだのは冴木和馬を始め運営部・経営陣メンバーとVandits安芸・シルエレイナ高知の監督・チーフトレーナー・キャプテン・副キャプテンが座ったのだが、全員がまさかのスーツ姿だったのだ。

 冴木達がスーツなのは分かるが、監督や選手までもがスーツなのにはさすがに戸惑った。しかし予め渡されている進行表には新ユニフォームの発表も予定されているので、それは別の選手が務めると言う事なのだろう。


 そこからはまさに株主総会ばりの内容だった。昨シーズンのクラブ運営の流れと損益の発表、もちろんチームの成績なども発表はされているが、終始に関しては大まかではあるにしろどのような分野でいくら儲けて、どのような分野でいくら使ったのかをきちんと示されている。


 ステージ上に設置された大型スクリーンでも画像で説明が補足され、サポーターからするとそこまでする必要があるのかと言う気持ちで見ていた。そして昨シーズンの報告が終わるといよいよ今シーズンの計画発表だ。


 今シーズンからはVandits安芸に関してはJFL進出によりホームゲームを入場料を取って開催する事が出来る。そうだ、やっとチームとしての大きな収入を得る事が出来る。そして冴木和馬から入場者数の目標が発表された。


 「シーズンを通して目指すのはもちろんJリーグ加盟条件であるホーム戦平均入場者数2000名をクリアする事。これは絶対条件であると考えています。」


 サポーター達から大きな拍手が起こり、冴木は深々と礼をする。


 「しかし、これだけは我々が声高に叫んでも実際に皆様にスタジアムに足を運んでいただかなければ実現は出来ません。その為に我々は昨年同様、やれる事は全てやります。」

 「「「「「おぉ~~~~!!!」」」」」


 冴木が司会の阿部に目線を送る。すると阿部が譜代衆席の横に構えられたいくつかの席に座っていたスーツ姿の男性達をステージ上に案内する。冴木と常藤が同じくステージ上に上がり説明をする。


 「皆様、高い位置から失礼いたします。只今壇上に上がっていただきました。皆様をご紹介させていただきます。手前から芸西村村長の橋本純一様、続きまして香南市市長の関裕司様、夜須町町長の権藤(たかし)様です。」


 それぞれに会場に向かって礼をし、会場からは拍手が起こる。


 「実はこの度、芸西村村長の橋本様よりご提案をいただき、来シーズンホーム戦からスタジアムフードエリアである『陣中食事処』に芸西村・香南市のキッチンカースペースを構えていただける事になりました。」


 この発表にサポーターからも大きな拍手が起こり両長は嬉しそうに深々と礼をした。


 「今シーズンに関しましては芸西村と香南市で一つのキッチンカースペースでフードを提供していただき、今後の反響を見てまた大きく展開していければと考えております。」


 譜代衆からも拍手が起こり、反応としては上々だった。そして次の発表だ。


 「次に今シーズン全てのホーム戦、練習試合に置きまして当クラブはシャトルバスの運行をする事といたしました。これには以前同様に芸陽バスさんのご協力をいただき、予約状況も含めて最大観光バス3台で夜須駅からスタジアムまでの15分おきに1台づつ出発する形で皆様を安全にスタジアムまでお連れ致します。それにご協力いただいたのが夜須町様です。夜須駅前のヤシィ・パーク内にあるバスロータリーを試合当日お借りし、そちらからバスの乗降をしていただける形を整えました。これは今シーズンの大評定祭から始めてまいりますですので、ぜひご利用ください。尚、片道300円。往復500円となっております。」


 大きな拍手に夜須町長と譜代衆席に座る芸陽バスの社長がサポーター席に向かって礼をする。ここで壇上に上がっていた面々が各自の席に戻る。そして各トップチームの監督が今シーズンの目標を掲げるが、もちろん『Jリーグ昇格』と『1部昇格』以外にあり得ない。それはサポーター達も当然だった。


 しかし冴木和馬が統括部長として今シーズンの最初の動きとしてあげた事に会場の全員が唖然とする事になる。


 「JFL昇格を機にVandits安芸はチーム名を変更いたしました。」


 会場が静まり返った。

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