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地獄の番犬ケルベロスの婚活問題

作者: 斉藤寅蔵

 ある日、ギリシャ神話の主神であるゼウスは、冥界近くにある死神タナトスの家を訪れていた。


「ゼウス様お久しぶりっす。なんかありました?」 

「いや最近冥界の門番をしているケルベロスが凶暴化して門を通るのに難儀してるという苦情がやたら上がっとるんじゃ。あの門は天界と冥界をつなぐ要所じゃから物流も滞ってきとってな。なんとかしたいんじゃがなんでケルベロスが荒れとるのか理由もわからん。ケルベロスと昔馴染みのお前ならそこら辺知っとるかと思ってな」


 ケルベロスは通称地獄の番犬とも呼ばれ、三つの頭に蛇の尻尾を持つ犬型のモンスターだ


「ああ、あいつ妹のオルトロスの婚約が決まったんすよ。で、『犬の出世頭として地獄の番犬なんて称されるくらい頑張ってきたけど、気付けば妹に先を越され、言い寄ってくる雄犬もいない。正に負け犬ね。犬だけに……っていろんな意味で笑えんわ!何よこの状況!』って具合に荒れちゃいまして」

「そんな理由!?っていうか雌だったのか……」


 ゼウスも初めて知る新事実であった。


「それどうにかならんのか?」

「俺もケルベロスとは昔馴染みですから片っ端から雄犬に声かけてみたんですけど『じゃあお前、頭が三つあって尻に蛇が生えたヒト型の生物と付き合えんの?』って返されちゃいますとね」

「ううむ、確かにな」

「まあ、あの外見は気にしないって奴も何匹かいたんですけど」

「気にしない奴何匹かいたの!?すげえな!?」

「でもケルベロス自身も言ってましたけどあいつは犬のトップエリートなんですよ。『俺じゃケルベロスさんと釣り合わないし』って尻込みされちゃって」

「そういうのもあるのか……」


 原因は分かったが今すぐ解決できる問題でもないと判断したゼウスはタナトスに頼み込んだ。


「おまえ人間の魂を刈り取るのに世界中飛び回っとるじゃろ?行った先でなんかケルベロスに釣り合いそうな奴いたら声掛けてくれんか?ワシの神力が必要なら協力するし」

「えー、まあ俺もどうにかしてやりたいとは思ってましたしやりますけど。あんまり期待はしないでくださいよ?」


 ◇◆◇


「いやー、探せばいるもんですね。まさかトウテツなんて東方の神獣が婿に来てくれるなんて」


 トウテツとは古代中国に伝わる神獣で、頭に角が生えた虎と牛と人を合わせたような外見をしており、一説では龍の子ともいわれる。


「まあ、そうじゃな……」

「見た目犬ではないしどうかなと心配してたんですけど、会わせてみればお互い一目惚れとはね。苦労した甲斐もあったもんです。ゼウス様ももっと褒めてくれていいんですよ?」

「ああ、よくやってくれた……が、それはそれとして、じゃ。なんかトウテツが来てからワシの疲労が激しいような気がするんじゃが心当たりはないか」

「ああ、それはゼウス様から繋いだパイプを通して神力をトウテツに吸わせてるからでしょうね」

「えっ!?トウテツに吸わせてる!?」


 トウテツが関係あるにせよもう少し間接的な因果関係かと思っていたゼウスは驚く。


「どうして!?」

「トウテツのトウもテツも『貪り喰う』って意味なんですよ。そのくらいのエネルギー吸わないともたないんです」

「いやなんでワシの神力!?」

「だってゼウス様言ったじゃないですか。『ワシの神力が必要なら協力する』って」

「だからって無断で繋ぐ!?何その無料ワイファイスポットみたいな扱い!」

「言っときますけど繋いだの俺じゃないですからね。ゼウス様に気付かれないようトウテツと繋ぐなんて能力ありませんし」

「え?じゃあ誰が?」

「いやあ、先日たまたま(ヘラ)様にお会いしまして」

「へ?」

「で、(ヘラ)様にご相談しましたら『トウテツがゼウスの神力を吸えるよう、私がパイプを繋いどくわ』とのことで」

「だからなんで勝手に!」

「あ、そのヘラ様からのご伝言です。『最近またあちこちの若い娘の寝室に通ってるようだけど、そんな元気が有り余ってるならケルベロスちゃんの幸せのためにその無駄な神力を提供してもいいわよね?』とのことです」

「あ……いや、それは……」

「俺これから仕事ですんで、それじゃまた」

「タナトス!ちょっと待つんじゃ!……あ、いかん、神力が切れ……て……」


 こうして多少のゼウスの犠牲と引き替えに、ケルベロスの婚活問題は解決し、冥界の門は平穏を取り戻したのであった。

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