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道程

作者: kyonkyon

少年は旅にでた。

電車に乗る小さな旅だ。


少年は退屈をしていた。

今年で彼は10歳になろうとしていた。

彼は何よりも空手で強くなることが好きだった。

理由はたった一つのシンプルな理由だった。


「僕は孫悟空のように強くなりたい。」

彼はドラゴンボールの主人公、孫悟空に心酔していた。

目の前の困難を修行で乗り越えていく。

それが発展途上の精神を持ち、この先の苦労を言葉でなく心で理解するには程遠かったので自分は修行をする無敵の精神を持っていた。


彼には問題がすごく多かった。

人の心を分からず、目の前の困難は考えた先に言葉が出なくて手が出てしまう非常に不器用な少年だった。

手が出た後はどうして自分が手を出したのかさえ分からなかった。


親からも教師からもクラスメイトさえも否定された彼は小さな家出を試みたのだ。

少年はドラクエも好きだった。

本は理解できなかったが攻略本をみてストーリーを理解しきれないが冒険が何より楽しかった。

自分も村を出てみて、せめてスライムでも倒したら帰ろう。


少年は電車に乗り込んだ。

「全然人がいないな。」

さすが村を通る電車だ。人なんて利用する方が珍しいのだろう。

だが不器用な少年はじっとするのが嫌いなので電車の中を歩き回る。

せめて探検でもしていこう。

すると、高校生位の男がいた。

「うわ、人がいる。」

「うわって……君、お化けじゃないんだから」

青年は呆れていた。

「お兄さん、今日はなんで電車にいるの?」

「僕はこれから学校に行くんだ。」

「どうして?今日は日曜日でしょ?」

少年は日曜日に学校があるのが不思議で仕方がなかった。


「今日は生徒会の仕事があるんだ。僕は議長でね、資料を作らなくちゃいけない。それにその街には僕のバイト先があるんだ。そこでも頼りにされてるから頑張らなくては行けない。」

少年は働いたこともないし、生徒会もサボるのが当たり前だったので理解は難しかった。

「そっか、お兄さんはどうしてがんばるの?」

「それはきっと、将来のために頑張り方を練習してるのかもしれないな。」

青年は遠い目をしていた。ただ辛そうではなく頑張ることが好きそうな感じがした。

少年も体を鍛えるのが好きだったのでそこだけは理解出来た。


「わかったよ!お兄さんは修行をしてるんだね!僕も帰ったら正拳突きの練習をするよ!」

「いいことだね、でも例え自分より強いひとが沢山いても比べちゃだめだよ。修行は自分との対話だ。より辛くさせてもダメだ。」

「忠告ありがとう!覚えておくよ。」


少年は忠告を理解しきれたかは定かでは無いが自分のための言葉だと刻んだ。

「じゃあ、僕はここで降りるから……気をつけてね。」

「ありがとう、たのしかったよ。また会おうね!」

青年は電車を後にし、またしばらく電車は揺れた。


景色は登坂のまっさらな田園地帯。

いつも見ている景色とはさほど変わりはしないが少年にとっては長い道のりに感じた。

少年の心情はぼんやりしていた。


景色が少し賑やかになった。

ビルが立ち並ぶ、都会の風景であった。

一人の男が電車に乗った。

「え……」

少年は驚愕をした。自分の常識外の見た目をしていた。

「お兄さん、なんで化粧をしてるの?」

「こんにちは。そうだねぇ、自分を隠すためかもしれない。」

「なんで自分を隠すの?」

「君はGACKTって知ってる?」

「知ってるよ!ドラマとかテレビで見る人だね!」

「あの人も化粧をしてるんだ。さほど珍しくないよ。」

「そうなんだね。わからないな。」


青年は少し遠い目をしていた。

「僕は女性に恋をした。」

「好きな人がいるんだね。僕もいるよ!さりなちゃんっていうんだ!でもあの子は僕に興味が無いみたいなんだ。」

「どうしたら振り向いてくれると思う?」

「強くなればいいのかな?」


青年は苦笑をした。

「ははっ、それもひとつの答えだ。実際強い男はモテる。」

「お兄さんは強くはならないの?」

「弱くはないよ。少林寺拳法で全国大会にも行かせてもらった。」

「えー!すごい!僕は今空手しかしてないから分からないけど、大会で勝ってるならさぞ強いんだろうね。」

「そうだね。でもね、好きな人に振り向いてもらうならその人に振り向いてもらうように相手の好みになったり、お金を沢山稼いだり自分を変えるためには色んな挑戦をしなきゃ行けない。」


少年は頑張り方をまだ心得えてなかった。

心の発達が遅れてる彼としては未知の領域だった。


「もしかして、その化粧も?」

「ああ、その子は化粧をしてお金を稼ぐ男が好きなんだ。もちろん女の子の話題もわかって話が面白いとなおいいのかもしれない。」

「そっか、お兄さんは僕のできないことを沢山できるんだね。」

「僕もたくさんかっこいい人達に教わって練習をして声をかける練習をしたんだ。」

「じゃあ僕の修行に似てるかもしれないね。」


少年は少し共感ができた。

でも青年はどこか寂しそうな顔をしていた。

こんなにできることが多いのに、何が彼をそんなに辛くさせるんだろう。

「でもこの生き方は少し違うのかもしれない。少し疲れた。」

「大変だったんだね。」

「すごく大変だった。少し休んで別の生き方も考えてみるよ。ありがとう、君に会えてよかった。」


青年は電車を後にした。

華やかなビルたちは見渡したら寂れて来たような感じがした。

青年のつけてる香水が少し電車で香ってくる。

シトラスのいい香りだ。

少年はシトラスとも知らず爽やかな香りだと感じた。


暫くは電車は地下を通る。

少年としては景色は単調な闇だった。

ガタンゴトン……と、不気味に電車の音が反響する。

少年は夜が少し苦手だった。

本当にあった怖い話をみると、母親か弟にくっついて寝るほどだった。


話し相手がいれば紛れるのだけれど、そう思った少年の小さな願いは次の駅で叶えられるのだった。


次は普通の青年だった。

スーツを着ていて、どこか顔が寂れていた。

「こんにちは、お兄さん。」

少年は声をかけたが青年には聞こえてなかった。

「スーツのお兄さんは、今日は仕事かな?」

「あ、僕に話しかけてたんだね。無闇に声をかけたら危ないよ、大人は怖いもんだ。」


やっと青年は返事をした。

今までのお兄さんとは違って無気力で何も興味がなさそうだった。

「どうしてお兄さんは疲れてるの?」

「沢山失敗をして、逃げたらとても苦しい目にあった。いまはそのツケを返すために頑張らなくちゃいけない。」

この男だけは尊敬するのは難しかった。

今までの男と違って光がなかった。

「お兄さん、生きてるのは楽しい?」

「楽しくは無いさ、寧ろ死んだ方がマシかもしれない。」


青年は……どこまでも卑屈だった。

「お兄さん、顔は笑顔なのに……目が笑ってない。」

「おや、坊やはよく見てるね。僕は笑顔が今は仕事なんだ。そうしてるうちに何をしてる時が笑顔なのかんから無くなったんだ。」


「僕も学校で嫌な事があったら逃げるんだ。それで狭い部屋で隠れてる。お兄さんは嫌なことからも逃げないで居続けて、少し疲れちゃったんだね。」

青年はハッとした。

「ありがとう、でもね。こんな僕でも頼ってくれる人がいるんだ。中にはとても辛い思いを話してくれる人がいる。昔は人の話は聞くの苦手だったのにいつの間にから上手になった。」


「それはすごいね、僕は友達作るのすごく苦手なんだ。」

「きっと本当に関わり方を考えるとなにか掴めるかもしれない。僕は時間はかかったけど、そんなことを繰り返したら弁が立つようになった。」


少年はこの男に光は無いと思ったがそれは違うことに気がついた。

光は無いが彼はその中でも何かを模索している。

自分にとっての修行をしているのだ。

「きっとお兄さんもいいことがあると思うよ。僕が願ってあげる。」

「ありがとう、ところで坊やはもう夜だけど帰らなくていいのかい?」


トンネルを抜けた先は、もうすっかり夜になっていた。

満月が当たりを照らしている。

「今日は帰りたくないんだ。」

「そっか、親と喧嘩したのかな?」

ドンピシャだった。青年は人を見る事に長けていた。

「すご!なんでわかったの?」

「心が読めるようになったからかな?」

「え、超能力者だったの?」

「ううん、目とか喋り方とか、状況を見ると分かるようになるんだよ。沢山本を読んでみな?」

青年はニヤリと笑った。


「本かぁ……苦手なんだよね。読書の時間は寝ちゃうんだ。」

「大丈夫、好きな本を読んでみな。漫画でも図鑑でも。そうするといずれ分かるもんだよ。

それに坊や、両親とは仲直りしな。」

「え、どうして?いつも怒るんだよ!鬼だよ。」

「両親もきっと何かに葛藤して、苦しみながらも君のためにお金を稼いで君にゲームを買ってあげて、ご飯を作ってくれている。僕は大人になったのに親孝行すら出来ていない愚か者だ。」


青年はまた遠い目をしていた。

後悔の目だった。

「ありがとうは無理に言わなくていいよ、でも一緒にいて安心させてあげな。僕はかれこれ3年近く親に会えていない。電話で母親の声を聞くと……涙が出てしまうんだ。」

「そっか……お兄さんは色々なことを知ったんだね。

わかった、帰るよ僕。」

青年はフフっと笑った。

「それがいいよ。切符を見して?」

青年は切符を見つめる。

「この線路を通れば君は帰れるよ。」


青年は道を指さす。

「ありがとう、お兄さんもお母さんにありがとうをして帰ってあげてね!僕との約束だよ。」

「ああ、絶対そうする。元気でね。」


青年と少年は別れた。


次に乗った電車は穏やかな緑色の電車だった。

中はとても明るく、ふかふかの座席だった。


さっきの冷たい電車とは打って変わって温かい印象をする。

「こんにちは、もう暗いけど大丈夫かい?」

今までで1番年齢が上の青年がいた。

どこか自分と似ていて、明るく知的な青年がいた。

「家出のつもりだったんだけど、途中で色んなお兄さんと話をして帰ろうと思ったんだ。」

「そうか!降りる駅は一緒みたいだし途中まで送るよ!」


青年は目も笑った笑顔をしていた。

「ありがとう、お兄さんは仕事帰りかな?」

「僕は今日は休日なんだ。さっきまでたくさんの旅をした。」

お兄さんからは、化粧をした青年の自信と寂れた青年のような知的さと学校に向かう青年のようなストイックさを感じた。


「すごいね、お兄さんは旅が好きなんだ。」

「好きだね、今年は富士山に登るのと宮古島でリゾートに行くのが夢なんだ。」


男は生きる希望に溢れていた。

大きな木を見るようだった。

「お兄さんは、辛い事とかないの?」

男は苦笑をした。

「あるさ、沢山ある。思えばとても長い旅をしていた。自分の弱さを認めて、たくさんの人にも負けたし裏切られることもあった。」

「それなのにどうして笑顔なの?」

「今まで頑張った自分がいたから、心から自分を好きになれたんだ。」

「今日あった人に後悔をしてるお兄さんがいたけど、お兄さんは後悔はないの?」

「後悔はしてもちゃんと宿題として次の日には片付けてるんだ。そうすると後悔はいずれいい事だったと思えるよ。」

少年は今日の後悔を男に伝えた。

「今日家出したんだ。帰るのがすごく怖い。」

「ああ、わかるぞ。俺もたまに家出する。」

「お兄さんでもするの?」

「するさ、時には一人でいたくなるもんだ。

その度に帰ったらこういう、ごめんサウナいってたってな。」

「そんな軽くでいいの?」

「そんな軽くでいい、人は思ったより気にしないぜ。いいか坊や、帰ったらこういうんだぞ?」


男は少し息を貯めた。

「ちょっと自分探しの旅に出てたと。」

「何を馬鹿な事を言ってるの。」

正直、僕にとっては面白かった。

男は真剣な眼差しでこっちを見ている。

見ていてとても気持ちがいい。

「ああ、俺は馬鹿だ。でもな馬鹿って夢中になれるんだ。坊やも夢中になるのはすきだろ。」

「好きだよ。特に修行をするのが好き。」

「俺は馬鹿の修行の真っ最中だ。人を笑顔にするのが修行だ。」


男の話はどこまででも面白かった。

気がついたら、電車の旅は終わりを告げていた。

「おっと、坊や。ここで降りるんだよな。今日の一日旅路をテーマ付けるとしたら、そうだな……道程だな。」

「どういう意味?」

「自分の前には道が無くて、自分の後ろに道ができるんだ。」

「今日は電車の旅だったよ。」

「まあレールはあったかもしれない。でもね?今日あった人達の話はそれぞれ歩んできた道だ。それを坊やはレールで追ってきたんだ。まあよく考えてみな。」

「うん、全くわからない。」

「世の中分からないことがあっても恥ずかしいことじゃない。でも分からなくても心に刻むといずれ分かってくるもんだよ。今日あった人たちの道程もいずれわかる日が来るかもしれない。」


少年は半信半疑だった。

「ほんと?僕もたくさんバイトをしたり、化粧をしたり寂れるのか。」

正直少年にとってはやりたくないことばかりだった。

「でもな、きっとそれも良かったと思える日が来るんだよ。冬に春が来るように。夜に朝日が来るように、終わりがいずれ来るもんだ。その時の事が根っことなって自分という木を大きくしている。俺もまだ道の途中だ。」


男もきっと辛い思いをしたのだ。

だからこんなにも大きいのだと少年は確信した。


「わかったよ、覚えとくね道程。」

そうしてくれと男は相槌を打った。


そして、僕は男と一緒に列車を後にした。

ホームを出るまで振り返ることはなかった。

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