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虎帝妃の書  作者: 五十鈴 りく
⑦Eilidh 1132年10月5日~10月6日

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22/53

⑦Eilidh ―エイリッド― ⑴

 獣は煙を嫌うと言うけれど、煙なんてどうやって出せばいいのだろう。

 煙草か。そんな小さな煙では駄目かもしれない。


 エイリッドは色々と考えたが、煙が嫌いなのは人間も同じだ。煙たいし、目が痛くなる。

 庭で落ち葉を焼いている煙が流れてくるだけで嫌だ。


「難しいことを言うわね」


 ため息が零れる。疲れたのでエイリッドは書を閉じた。

 そうして、ベッドに転がってぼうっと考える。


 レノックス夫人を殺害した犯人は捕まっただろうか。

 あの光る目は犯人のものなのか。


 それから、サイラスはマルヴィナに託した手紙を読んでくれただろうか。

 エイリッドは肩を抱くようにしながら横を向く。


 サイラスはもう、いつでもエイリッドを優先してくれた昔のサイラスとは違う。期待しすぎてはいけない。


 わかっていても、エイリッドはサイラスのことを考えてしまう。それは、エイリッドの人間関係が希薄で、何年も交流のなかった幼馴染が一番上に来てしまうという悲しい事実だった。


 ただ、ひとつ喜べるのだとしたら、サイラスは青年になって虐められることはなくなったのだろうということ。自分の身は自分で護れるようになった。

 だから、エイリッドを心の支えにはしないのだ。


 それを寂しいと思ってはいけない。喜んであげるべきなのだ。

 それなら、エイリッドもサイラスではない他の支えを見つけるべきだ。


 ただし、それがとても難しい。エイリッドにとって、大好きになった大東国の入り口にはサイラスがいたのだから。


 雪月の孤独に身を重ねてしまっていたけれど、彼女には(ばん)という宦官の理解者が現れたようだった。エイリッドもそういう相手でいいからほしかった。


 父も兄もネイトも違う。エイリッドの話を真剣に聞いてくれない相手などどうでもいい。

 ただ笑わないで話を聞いてほしかった。




 翌日、誰かに呼び出される前にエイリッドは屋敷を抜け出した。

 仮病を使おうかと思ったけれど、様子を見に部屋に来られてしまってはすぐに嘘が露見しまう。部屋にいなかったと言われたら、庭で本を読んでいたとでも言って逃れよう。


 けれどこの時、屋敷の窓からモイラがエイリッドを見下ろしているのに気がついた。モイラはすぐに奥へと引っ込んでしまう。エイリッドが出かけようとしているのを咎めるつもりはないのだろうか。


 思えば、モイラにも親しい友人と言える相手はあまりいない。

 もしかするとエイリッドよりも孤独なのかもしれない。それを知っているくせに、エイリッドはモイラに対して何もしない。


 他人の孤独に寄り添うというのは、そう簡単なことではないのだ。

 自ら手を差し伸べることをしないエイリッド自身が孤独だと感じても、それは仕方のないことだろうか――。


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