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超克の艦隊  作者: 蒼 飛雲
第三段作戦

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第49話 砲撃戦開始

 真珠湾を背にしつつ、こちらに対してT字を描く第一任務部隊。

 圧倒的不利な状況の中においてなお、守るべきものを守る。

 そういった彼らに胸中で称賛を贈る。

 しかし、一方で第一艦隊を指揮する山本長官は一切容赦をするつもりはない。


 敵の戦力構成はすでに把握していた。

 一、二、三番艦はこれまでに見たことがないシルエットを持つ戦艦だった。

 低い煙突が艦橋に溶け込んでいるかのような独特の艦上構造物。

 おそらくはこの春から相次いで就役を開始した「サウスダコタ」級と見て間違いないだろう。

 そして、四番艦は二本煙突だから、こちらは「ノースカロライナ」もしくは「ワシントン」のいずれかだ。

 「サウスダコタ」級もまた「ノースカロライナ」級と同様に三連装砲塔を三基搭載している。

 つまり、敵は四艦合わせて三六門の四〇センチ砲を装備している。


 すでに各艦の目標は指示していた。

 敵一番艦に対しては「大和」がこれに当たる。

 敵二番艦には「長門」と「陸奥」、敵三番艦には「伊勢」と「日向」、そして敵四番艦には「山城」と「扶桑」。

 また、敵の七隻の巡洋艦に対しては第四戦隊と第五戦隊それに第七戦隊の八隻の重巡が対応する。

 さらに、二〇隻の敵駆逐艦には「神通」それに「那珂」が率いる水雷戦隊をぶつける。


 頭を抑えられた不利を覆すべく、第一艦隊の七隻の戦艦は回頭、舳先を敵戦艦のそれに合わせる。

 観測機はすでに発進させていた。

 各機ともに所定の空域に達し、観測任務に就いている。


 天候は快晴とまではいかないものの、さほど悪くはない。

 海象もまた同様に比較的穏やかだ。

 つまりは、超距離砲戦が可能な条件が揃っているということだ。


 「各艦ともに距離二五〇〇〇メートルで砲撃を開始せよ」


 山本長官の命令に、意外な感を抱く幕僚はいなかった。

 二五〇〇〇メートルというのは、砲撃戦で言えば長距離の部類にあたる。

 それでも、今は観測機が使えるのだから、もっと遠くから撃ちかけてもいいはずだ。

 しかし、第一艦隊は敵艦隊の撃滅以外にもオアフ島に艦砲射撃を実施することが求められている。

 だから、可能な限り無駄弾はこれを避けたい。

 二五〇〇〇メートルという距離は、そういった状況における最大公約数あるいは妥協点。

 山本長官の周囲の者たちは、そう解釈していた。


 彼我の距離が三〇〇〇〇メートルを切り、さらに二七〇〇〇メートル余りにまで近づいた時、米戦艦が砲撃を開始した。

 おそらくは、三〇〇〇〇ヤードをその砲戦距離に設定していたのだろう。


 「当たりはせんよ」


 嘲笑混じりの参謀の声が山本長官の耳に入ってくる。

 光学測距儀は方位精度こそそれなりだが、しかし距離精度についてはこれをたいへん苦手としている。

 遠距離砲戦の場合、大気の状態によっては数百メートルの誤差さえ生じることも珍しくない。

 多くの者がそういった考えを抱いている中、米戦艦の初弾が着弾する。

 「大和」の前方に多数の水柱が立ち上る。

 やや後れて、後方にもまた同様に水柱がわき立った。


 「!」


 声にならない驚愕のうめき声が、そこかしこで吐き出される。

 「大和」に照準を合わせた敵の主砲弾は、直撃はもちろん夾叉すらも得てはいない。

 しかし、着弾位置はそれほど大きくは外れておらず、特に距離に関しては初弾とは思えないほどに正確だった。


 「敵は電探射撃を実施しているものと思われます」


 情報参謀の言に、山本長官は小さく首肯して了解の意を伝える。

 その情報参謀は海軍甲事件をきっかけにつくられた役職だった。

 情報の誤謬が組織に致命的とも言えるダメージを与える。

 このことを悟った帝国海軍が、組織改革の中で真っ先に手を付けたものの一つだった。

 情報参謀はその誰もが最新の軍事技術の吸収に余念がなかった。

 そんな彼らの働きは目には見えにくいものの、それでも戦果拡大やあるいは被害軽減に貢献するところ、極めて大であった。

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