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超克の艦隊  作者: 蒼 飛雲
マーシャル沖海戦

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第12話 九七艦攻猛攻

 「『赤城』隊ならびに『飛龍』隊敵五番艦、『加賀』隊ならびに『蒼龍』隊敵六番艦、『雲鶴』隊敵七番艦、『瑞鶴』隊敵八番艦。全機突撃せよ!」


 第三次攻撃隊指揮官兼「瑞鶴」艦攻隊長の嶋崎少佐の命令一下、六隻の空母から発進した五四機の九七艦攻が四群に分かれる。

 敵五番艦に向かう「赤城」隊それに「飛龍」隊は合わせて一四機。

 敵六番艦に向かう「加賀」隊それに「蒼龍」隊は一五機。

 敵七番艦に向かう「雲鶴」隊は一三機。

 そして、敵八番艦に向かう「瑞鶴」隊は一二機。


 一航艦の「赤城」や「加賀」それに「飛龍」や「蒼龍」に比べて二航艦の「瑞鶴」それに「雲鶴」の稼働機はかなり多い。

 これは、昨日の戦いで二航艦の艦攻のうちの三分の一が索敵任務にあたっていたことで損耗が少なかったこと。

 それに「瑞鶴」と「雲鶴」がともに被弾損傷した「翔鶴」の艦攻を収容していたことによるものだ。


 目標とするのは八隻ある敵戦艦のうちの後方にある四隻。

 これは一航艦の南雲長官ではなく、第一艦隊の高須長官からの指示によるものだと嶋崎少佐は聞かされている。


 太平洋艦隊の戦艦群は第一艦隊との砲雷撃戦を見据えているのだろう。

 対空戦闘に不向きな単縦陣を組んでいる。

 つまり、やるなら今だ。


 嶋崎少佐以下、「瑞鶴」隊の一二機の九七艦攻が最後尾に位置する戦艦に急迫する。

 左舷からは嶋崎少佐が直率する第一中隊の六機、右舷からは石見大尉率いる第二中隊が挟撃を仕掛ける。


 一方の敵戦艦は取舵を切った。

 左舷から迫る「瑞鶴」第一中隊のほうがわずかに先行していると判断し、そちらへの対処を優先させたのだろう。

 火箭を吐き出しつつ「瑞鶴」第一中隊へとその艦首を振り向けつつある。

 敵戦艦はセオリー通り、自身を迫りくる九七艦攻と正対させることで被雷面積の減少を図っている。

 敵戦艦の意図を一瞬のうちに読み取った嶋崎少佐はわずかに機首を右に振り、そして今度は左へと向けなおす。

 敵戦艦はなおも回頭を続けるが、しかし「瑞鶴」第一中隊の機動がそれを明らかに上回っている。


 その「瑞鶴」第一中隊が必中射点に到達する直前、嶋崎少佐は後方に爆発とそれに伴う音と光を知覚する。

 部下の一機が敵の対空火網に捉えられて爆散したのだ。

 回頭中の対空砲火は当たらないとはいえ、さすがにここまで近づけば被弾機が出るのは仕方がなかった。


 「撃てッ!」


 嶋崎少佐以下、五機に減った「瑞鶴」第一中隊が次々に腹に抱えてきた九一式航空魚雷を投下していく。

 魚雷を放てば後は逃げるだけだ

 九七艦攻は敵戦艦の火箭から身を守るために超低空を飛翔する。

 五機の艦攻のうち、その多くは敵戦艦の艦首やあるいは艦尾を躱すが、中には大胆にも敵艦の上を飛び越える機体もある。


 それでも、敵戦艦の至近を通過するためにどうしても被弾機が出てしまうのは仕方がない。

 艦尾を躱そうとした一機が敵の機銃弾の洗礼をまともに浴びてマーシャル沖の海面へと叩き落される。

 部下の死を悼みつつ、それでも嶋崎少佐は操縦に集中する。

 敵対空砲火の有効射程圏から離脱するためには超低空飛行を維持する必要があるからだ。

 その嶋崎少佐の耳に歓喜混じりの部下の声が飛び込んでくる。


 「目標とした敵戦艦の左舷に水柱、さらに一本! 右舷にも水柱、さらに一本!」


 一ダースの九七艦攻が戦艦を狙い、そのうちの四本が命中したというのは悪くない成績だ。

 しかし、相手が二〇ノットそこそこしか出せない低速戦艦であることを考えれば、あるいはもろ手を挙げて喜ぶわけにはいかないのかもしれない。


 (それでも、致命の打撃は与えたようだな)


 最後尾を行く戦艦が見る見るうちに減速、煙を吐き出しつつその喫水を深めている。

 その様子に嶋崎少佐は航空機が持つ威力を改めて思い知らされる。

 そして、その頃には他隊からの戦果報告も挙がってきている。


 「『赤城』隊ならびに『飛龍』隊、敵五番艦に魚雷五本命中、撃沈確実」

 「『加賀』隊ならびに『蒼龍』隊、敵六番艦に魚雷六本命中、沈みつつあり」

 「『雲鶴』隊、敵七番艦に魚雷四本命中、目標は大破炎上」


 敵の五番艦から七番艦を狙った他の艦攻隊はそのいずれもが「瑞鶴」隊と同等かあるいはそれ以上に数が多かった。

 そんな彼らが仕損じることなどあり得ない。


 (わずか五四機の艦攻で戦艦を、しかも二隻を撃沈し同じく二隻を大破か。そして、大破した二隻もおそらくは助からない。マレー沖海戦の戦果と合わせ、もはや考えるまでもなく戦艦の時代は終わったな)


 一航艦ならびに二航艦の艦攻隊が挙げた戦果に満足を覚えつつ、嶋崎少佐は帰投命令を発する。

 しかし、集まってきた機体はどう数えても四〇機に満たない。

 しかも、その多くが胴体や翼に無残な被弾痕を残している。


 (勝つには勝ったが、しかしその代償はあまりにも大きすぎるのではないか)


 防弾装備が貧弱な九七艦攻による肉薄雷撃は、言ってみれば相手との差し違えだ。

 対空砲火という火矢が四方八方から吹き飛んでくる中、しかし自身は無防備なまま槍を構えて突っ込んでいるのと何も変わらない。

 そして、同じことをあと二度繰り返せば、一航艦それに二航艦の艦攻隊はその戦力を完全に摺り潰すことになるだろう。

 大戦果を挙げた直後なのにもかかわらず、嶋崎少佐はその冷酷な現実に恐怖にも似た感情を覚えていた。

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