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クラウディアの冒険

ルドヴィカの家に預けられた“クラウディア”から見た話です。



いつ頃からか、僕の身に危険が迫るようになりました。

それまで、別に特に身体が弱かったわけではなかったのに、原因不明で頻繁に高い熱を出して、寝込むようになったり。

お茶会などへ呼ばれて出掛けると、攫われそうになったり。


そしてついにある日、何故か女の子の格好をさせられ、父に呼ばれました。

詳しいことは何も分からないけど、とにかく僕が危険だから、父の知り合いの人に僕を預けることになったと言われました。

僕はまだ幼いから、知らない人が見たら、女の子か男の子かも分からないから、この先、女の子の振りをするようにと言われました。


貴族なので、身の回りの世話をする人がいるのだけれど、僕には僕が生まれた時からずっと付いていてくれた乳母がいて、その乳母の従姉妹のルチアが専属でついてきてくれるらしい。

乳母の従姉妹と、そして預けられる先の父の知人だけは僕が本当は男の子だと知っているけど、他の人には決して言ってはいけないとしつこく言われました。


そして父の知人は、僕が男の子だと知っているので、何とか剣術や護身術、紳士としてのマナーも家庭教師を付けてくれるそうですが、諸事情により、男装して身を隠す事もあるからという理由でという事になりました。

父の知人の娘さんも、僕と一緒に同じことを学ぶらしい。

まあ僕も一緒に淑女教育も受けることになるんだけど。


連れていかれた先は、山に囲まれた、まるで陸の孤島とでも呼びたくなるような、本当に山ばかりの地域でした。

紹介されたご令嬢は、ルドヴィカという名の、僕と同じ年の子でした。

でもおおよそ御令嬢らしからぬ子でした。


最初こそは僕もかなり警戒し、あまり喋らず、会話もろくに成立せず、この先が苦痛だなと考えていました。

男だってバレるんじゃないかとビクビクしていたからっていうのもあるんだけどね。

そもそも女の子とか苦手だったし、僕は。


ルドヴィカも、人見知りなのか、最初はそれほど喋らず、大人しそうに見えました。


見えたんだけどね…普通に話すようになり、更に仲良くなってみると、本と紙とペンを与えられたとき以外は、これがなかなかにご令嬢らしくない子でした。

木があれば登る。

木が無くても登れそうな柱があれば登る。

登れそうな崖があれば登る。

もう本当にサルですか?!というくらいに野性的な子で、僕のことも男だってバレるんじゃないかとか何とか言う前に、そこまで人のことを疑り深く考える子ではなかったみたい。


僕の名前はクラウディアという事になっていたので、僕たちは互いにディアとヴィカと呼び合いました。


「私、ディアが来てくれて、本当に良かった!

ディアのお陰で剣術とか習えるし、何よりもお友達になれて本当に嬉しい!」


と、はにかんだ笑顔で言ってくれました。

本当は剣術とか習いたかったけど、ご令嬢がやるものじゃないと反対され、やらせてもらえなかったそうです。

やらせてもらえる事が嬉しくて、なぜ僕と一緒ならやらせてもらえるのかとか、そんな事はどうでも良いって言っていました。

人見知りの野生児との日々は、例え本当のことを言えなくても、僕の心を癒してくれました。


ヴィカは、ある部分ではとても冷めた子で、彼女の家族が彼女に無関心に見えても、まるで気にしていないようでした。

それに僕にはとても優しかったんだけど、時々、凄く冷たくなる子でした。

侍女の一人が、僕たちの目の前でうっかりお皿を割ってしまったのに、ヴィカは冷めた目で見ただけで、何も言わなかった。

かと思えば、怪我をした野鳥を拾ってきて、カエルとか苦手なのに、半泣きになりながら自ら取ってきて、餌にとあげたりと、鳥が元気になるように面倒をみてあげたり。

ある面では優しい子なんだけど、ある面では本当に冷めた子で、良くわからなかった。

それでも本当はやっぱり優しい子なんだと思う。

彼女が時々凄く冷たくなる理由が分からないけど、でも本当は優しい子だと思う。


そんなある日、ある程度の時間が出来たので、ヴィカと山を探検する事に。


既に何回も邸の裏の山を散策はしていましたが、いつも邸が見える範囲までと決められていて、邸の近くしか歩き回っていなかったし、そもそも小路を散策するのみだったので、僕たちは冒険と称して知らない場所を探すことにしました。

それでも僕よりはその山を知っているヴィカに任せて、道なき道を上へ上へと登っていきました。


そして辿り着いた先、周囲を藪や背の高い草で囲まれて、奥が全く見えない場所に、大きな岩を見つけました。

子どもが二人、寝転がれるくらいの大きな岩で、そこに寝転がると、囲まれた木々のその先には青空が見え、小鳥のさえずりと、風が木々を揺らす音だけが聞こえ、まるで別世界の様でした。

すっかりリラックスした僕たちは、不覚にもそのまま寝てしまいました。


ふと気が付くと、周囲は月明りのみで暗く、一瞬、どこにいるのか分からなくなってしまいました。

見ると僕の隣にはヴィカが幸せそうに眠っていました。

起こさなくちゃとヴィカに手を伸ばそうとしたその瞬間、誰か若しくは何かが居るのに気が付きました。

(ヤバい!ヴィカを起こして逃げなくちゃ!)と思いながら、目を凝らして何がいるのかを確認すると、全身を緑の光で覆われたような、髪の長い大人の男の人と女の人が、微笑みながら立っていました…何故か藪の上に…。


「誰?」


と声を掛けると、二人が岩のところまで近寄ってきました。

そして優しそうな声で、女の人が言いました。


「私たちはこの森の精霊です。

ヴィカは幼い時から私たちの加護を得ているの。

だからこの子が森に来ていると分かったのですが、こんな時間に森に居たことは無かったので、様子を見に来ました。

もう遅いから、邸の近くまで送りますから、今日は帰りなさい。」


僕は安心すると同時に、少しだけ欲を出してしまいました。

精霊ってよくわからないけど、きっと神様みたいだから、願い事を叶えてもらえるかもと。

良く考えると願うにしても、身の安全とか願った方がとは思うけど、あの時は、これしか考えられなかった。


「あの…お願いがあります!

僕はこの先もずっとヴィカと一緒にいたいのです。

でもきっと僕は、元の街へ帰らなければいけなくなります。

それでもまたヴィカに会いたいし、一緒に居たいんです!

その願いをかなえてもらえませんか?!」


自分でもちょっと何をお願いしているのか、よくわからなかったけど、とにかくヴィカと離れたくない一心で頼みました。

すると、今度は男の人の方が言いました。


「君の言う通り、そう遠くないこの先で、君たちはいったん別れることになるだろう。

でも君が強く願い続ければ、再び会えるだろう。

そして君とヴィカ、二人ともが願えば、ずっと一緒にそして幸せになれるだろう。

君にはそんな加護を与えてあげるよ。

でも忘れてはいけないよ。

もしも君たちが大人になった時に、他の人を選んでも、不幸になるわけではない。

道は沢山あるんだよ。選ぶのは君たちだ。

分かっているのは、君とヴィカがお互いに一緒に居たいと思った時、君たちは穏やかな幸せを掴めるという事だけだよ。」


そういってその男の人の手のひらから、緑色のふわふわした光の玉が二つ出てきて、一つは僕の身体の中に、もう一つはそれでも眠り続けるヴィカの身体の中へ入っていきました。


そして「さあ帰ろう…。」と言って、男の人は幸せそうに眠り続けるヴィカを抱き上げ、女の人は僕に手を差し伸べて、手を繋ぎ。


次の瞬間、僕たちは邸の近くの山道の入口に居ました。


森の精霊の姿は既に無く、僕は慌ててヴィカを起こしました。


僕たちはお茶の時間にも帰らず、もうすっかり日が落ちていたので、邸は大騒ぎで、捜索隊が組まれて出発しようとしていたところでした。

山で眠ってしまったと言うと、まだ寝ぼけ眼のヴィカが完全に目覚めるくらいに、凄い勢いで叱られました…特にヴィカが…。



こんにちは。恵葉です。

不慣れながらも初めてのそこそこの長さのお話に挑戦している最中です。

先ずは最後まで書ききる事を目標としておりますが、少しでも面白いと思っていただける人が居れば嬉しいです。

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