良く分からない世界に生まれ変わってしまったので、せめて平穏な人生を目指します
何故か子供の頃から不運ばかり。
誕生日には、怪我を負ったり、理不尽に親から叱られ、子供の頃はろくに祝ってもらったこともなく。
いじめられっ子が居れば、庇って自分がいじめのターゲットになり、しかもいじめはエスカレート。
ゴマすりは本当に苦手なので、学校でも社会に出てからは上司からも、理不尽な目に遭う事数知れず。
社会に出てからの男運も最悪で、良いなと思った相手については、必ずと言ってよいほど誰かに邪魔をされ、何とも思っていない相手からは、しつこく頼まれて、一度だけ映画を観に行っただけで付きまとわれ。
もうこんな人生嫌だ!と思うも、もう来世も何も要らない、今生だけは我慢するから、だから今生が終わる時に、全て消え去りたいと思っていたのに、何故か良く分からない世界に生まれ変わってしまいました。
だったらせめて、今度は平穏無事な人生を送りたいと奮闘する主人公の物語です。
(ここはどこだろう?私は誰?って、私が誰かは分かっているけど、でもここはどこ?)
気が付くと、見慣れぬ部屋で寝ていた。
(天蓋付きのベッド…生まれてこのかた、天蓋付きのベッドでなんて寝たのは、友人と行ったイタリアはフィレンツェのホテルと、旦那と行ったローマのホテルだけだったな。
旦那と行った、ローマの天蓋付きベッドなんて微妙だったなぁ。
イタリアのホテル、基本はツインよりもダブルで、そのホテルも当然のようにダブルベッドで、それでオーガンジーのような透ける生地の天蓋…あの頃の私たち、もうそう言うんじゃなくて願わくばツインの方が良いくらいだったんだよね…でもあのホテルにはツインは無いからダブルにしたんだけど。
まあ縦横が混乱するくらいに大きなベッドだったので、ベッドの両端に寝たけどね…。)
しかし何故、記憶にない天蓋付きのベッドで寝ているのか、見当もつかず、取り敢えず起き上がろうと、ベッドに手を付いて気が付いた。
(何か私の手、小さくない?というか子供の手?どういう事?)
起き上がって自分の両手を見ると、どう見ても小さい…。
しかも顔の前に落ちてきた髪は、どう見ても金髪…。
(え~と…私、金髪に染めたことは無いけどなぁ…そもそもアレルギーを発症して染められないし)
分けが分からず、ベッドから起き出して、見慣れぬ部屋を眺める。
天井が高く、沢山の真っ白な本棚に囲まれた部屋は、とても広く、どう見ても私が住んでいた2DKのアパートではない。
いやそれよりも、私自身がどうなっているのかと、部屋を見渡し、鏡を探す。
クローゼットと思わしき扉を見つけ、開けてみると、何だ?!これは?!というドレスまで入っている。
今どきっぽくないバリエーションに、嫌な予感がする。
そこに鏡も見付け、見ると、知らない子供が映っている。
(誰?これ?)
手を動かしてみると、鏡の中の子供の手も動く。
とっさに考えた。
(何かの間違いだから、もう一回寝る…これはきっと夢だよ…寝て起きれば元通りだよきっと!)
同時に、それは現実逃避であると、薄々気付いていた。
夢であると思うには、あまりにも様々な感覚があり、リアルだったから。
(でも…どうしろと?!っていうかこれ、誰???)
ベッドに横たわり、現実逃避しようとしたけど、それも出来ず、途方にくれた。
ハッキリ言って怖いけど、どうしたら良いかもわからないけど、様子を見るしかない、そんな諦めの溜息が出た。
さっきまで私は私が誰か、分かっているつもりだったけど、でもどうやら私は、私が思っていた私ではないらしい。
最近、流行っているのか、アニメやあちこちで“転生モノ”というのを見掛ける。
事故にあって死んだと思ったら、異世界へ転生していたとか、殺される数年前に転生していやとか、そんな話。
そういえば昔、どこぞの女性アイドルが、熱愛報道のあった男性アイドルとの別れの会見で「生まれ変わったら一緒になろうねって約束しました!」なんて泣きながら言っていたな。
でもあの当時も今も、生まれ変わったら別れた男と一緒になろうなんて思わないでしょって思った。
男は男で、人生で一番良かったと思える女と一緒になりたいと思うだろうし、女も同じ。
そして一番良かったと思える相手とは、そもそもそんな簡単に分かれないと思うわけだ。
でも何よりも私は、生まれ変わりたくはない。
こんな辛いのは、今生で十分。
今生が終わったら、もうお願いだから、消滅したいって思いながら生きていた。
そして記憶にある数日前、残業で遅くなり、疲れてぼーっとした頭のまま、交差点で、信号が変わるのを待っていた私へめがけて突然暴走車が突っ込んできた。
(あ、私、死ぬかも…ようやく人生が終わるんだ)
と思った、その先の記憶はありません。
気が付けば“今”だった。
(困った…どうしたら良いんだろう?本当に私は誰?)
ぼーっとしながら、取り敢えず誰か来ないかなと待っていると、ドアが開き、メイド姿の高校生くらいの少女が入ってきた。
ベッドの上に座る私を見ると、途端に叫びながら飛び出していった。
「奥様!お嬢様がお目覚めになられました!」
(お嬢様って私の事?というか、奥様とかお嬢様って呼ぶからには、やっぱりメイドさんだよね?多少なりとも裕福な家の子供って事?)
と取り敢えず情報を処理。
(あ~メモを取るノートが欲しい…いや本音を言えば、タブレットが欲しい。)
再びどたばたと騒々しい音とともに、今度はまだ30過ぎくらいだろうか、何故かドレスを着た綺麗な女性と、更にはさっきの少女の他に、同じようなメイド服を着た年配の女性も入ってきた。
「ようやく気が付いたのね!?」
綺麗な女性が声を掛けてきた。
どうして良いかも分からず、取り敢えず恐る恐る聞いてみた。
「あの…ここはどこでしょう?あなたは…誰?」
「「「…。」」」
その場にいた全員が絶句して固まってしまった。
質問したことが悪かったかなと思いながらも、現状が全く分からない私には、やっぱり聞くしかなかった。
その後は、蜂の巣を突いた様な騒ぎになり。
私はそのままベッドに押し込められ、暫くすると、医者なのか何なのか、年配の男性がやってきて、私の目をのぞき込んだり、あれこれ聞いたりした。
聞かれても何も答えられないんだけど。
でも私が思っていた私、東京で暮らしていた私については、言ってはいけないと思い、黙っていた。
その後、更に先ほどの奥様と呼ばれていた女性と同じくらいと思われる髭を生やした男性と、それよりもずっと若い、高校生くらいの少年がやってきた。
もしかしたらだけど、奥様と呼ばれていたのは私の母で、髭の男性は父なのかもしれない。
一緒にいた少年は…そう考えると兄なのか。
(あ~分からない…。)
暫くすると、先ほどの髭の男性がやってきた。
その男性の言うところによると、やはりその男性と奥様、少年は、私の父と母と兄で、私はその国の子爵家の娘らしい。
(でも私、そんな国、聞いたことも無いんだけど…その前に私、世界史も日本史も地理も苦手だったわ)
そんな事を考えながら、でもそもそも実在した国かどうかも分からない。
分かった事は、私はどうやらどこかに“転生してしまった”ということ。
(何でこうなった?!)
不思議な事に、良くありがちな転生モノ同様に、何故か言語には困らず。
私は7歳だという事は分かったが、それまでの記憶はないものの、言語だとか生活習慣とかは、なんとなくすぐに分かったので、記憶に残っていたのだと思う。
それ以上に日本人として30数年間生きた記憶の方がハッキリしているけど。
(それにしても困った…これから私はどうしたら良いのか?)
取り敢えず私、記憶喪失という事で落ち着きました…いや、落ち着いていませんけど。
その後の調べによると、私の名前は、ルドヴィカ・フォンターナ・ドーロというらしい。
因みに兄はルドヴィコ…兄の名前をそのまま女性名にしちゃうってどうなのよ?!ちょっと酷いよね。
私の名前はどうでも良かったのか、考えるのが面倒だったのか。
まあ良いけどね。
どうやら我が家は地方貴族で、一応大したことないけど領地も持っているらしい。
そして王都の貴族の子弟が多く集まる学院へ兄が入る事になり、一家で王都へ出てきて、家族で散歩に出掛けた先の公園で木に登り、落ちた…落ちて頭を打った…厳密に言うと、おでこを打った…。
そして木に登って落ちたって…私、日本人の時にもやっているな…。
うん、記憶している限りで3回は木登りの最中に落ちているよ。
しかも初回は何と!顔を切った!女の子なのに…。
あれね…落ちる瞬間だけは覚えているの、私。
兄が庭先の木に登っていて、真似して登っていて、バランスを崩して頭から落ちてしまったのよね。
そして目前にコンクリートの側溝が見えてきて…そこで記憶は途絶えてる。
当時住んでいた家の横に側溝があって、木から落ちた時に、その側溝の角に顔を打って、切って、病院へ駆け込み、顔を縫ったらしいのですが、運よく眉毛のところだったので、目立たなかったらしい。
大人になるころには、もうすっかり分からなくなっていました。
しかもその後も凝りもせずに木登りして落ちているし、私。
もはや猿だね!猿だったね!前世での幼い頃の私!
あ、そういえば進学して上京した時に、最初の一年間だけ寮生活を送って、一度、ちゃんと時間通りに寮へ帰ったのに、寮監のミスで門も玄関もカギが掛けられていたことがあって、あの時、高さ2メートル以上あった鉄柵を、泣く泣くよじ登って乗り越えました。
誰か通りかかって見られたら、完全に不審者だよ!って思いながら。
そして玄関のチャイムを鳴らしまくって、寮監が気が付いて開けてくれたから良かったものの、気付かれなかったら私、また鉄柵をよじ登らなくちゃいけなかったのか?!と今更ながらにちょっと私、バカだったなと思う。
それはそうと、兄はそのまま王都に残り、寮生活になるらしい。
母も兄が心配なので、王都のタウンハウスに残るとか。
私は…どうやら領地へ帰ることになる…?
ん?!うちの母、私の事は心配ではないのか???
何にしても、転生した“今”の記憶が無いので、どうしようもない。
言葉とかは出てくるのだが、生活についての記憶というかは残っているのか?分かるのだが、家族や使用人とか、人についての記憶が無い。
日本人の時の記憶しかない。
まあでもそもそも7歳より前の記憶って、それほど覚えていない人はザラに居るし、どうにもならないので、取り敢えず暫く周囲を観察することにした。
…ザラに居るとか言いながら、私、実は前世の記憶については、3歳辺りから少しずつあるんですよね。
どうでも良いことを良く覚えている。
お遊戯会で、ペンギンになりたくて、運良くペンギンになれたとか、本当にどうでも良いことを…。
そこで気が付いたのだが、何人かは日本人の時の私の周囲の人間の生まれ変わりではないかと思われる。
例えば、メイド頭のハンナは、遠縁のおばあちゃんと思われる。
外見的特徴は、全く似ていないのだか、笑顔がそっくりなんだよね。
初めて見た時、「あ、本家のおばあちゃんに似てる」って強く思った。
そういえば前世で読んだ本の中に、前世についての本があった。
海外の医者が書いた本で、前世についてのものがあったのを思い出した。
例えば催眠療法を使い、水恐怖症の人の前世を思い出させてみると、前世で水についての何らかの災害に遭っていて、それを魂が記憶していて、現世で水恐怖症にとか何とか。
なのでそれは過去の事で、現世では大丈夫と納得出来たり、若しくはそれを踏まえて水恐怖症を解消する努力をすることで、恐怖症がマシになるとか何とか書いてあったような。
そして前世で周囲に居た人たち、全てではないが、現世でも関わっている場合もあると書かれていた。
とすれば私の周囲にも、前世の私の周囲の人たちがいる可能性もある。
ちなみに本家のおばあちゃん以外にも、恐らく現世の母と兄は、前世の母と兄だと思う。
それを踏まえて、この先の私の人生をどう生きるべきか?!
最終目標はひっそりと平穏に生きる事なので、そのためにはまず、将来的に生活に困らないような能力が欲しい。
この世界では、貴族の子弟は、15歳になる年の9月には、王都の学校に入るものらしい。
つまりは兄が入る学院の事なのだが。
そして前世で良くアニメなどで見ていたのは、魔力云々とか、魔法がどうとか。
この世界でも、魔力なるものは人によってあるらしい。
私に魔力があるのかどうかは…わからない。
王都の学校は、貴族は魔力があろうと無かろうと大抵は入るもので、平民は魔力があるもののみることが出来るらしい。
私はしがない子爵と言えど、一応貴族の令嬢なので、魔力があろうと無かろうと、入学は決まっているようなものだ。
つまりはその学園の生徒の大半は、貴族の子弟だが、一部、魔力持ちの平民もいるというわけである。
今、7歳の私は、あと8年あるので、先ずはそれまでに出来る限りの将来役に立つだろう能力を身に着けておきたい。
兄が王都の学校へ入るのと同時に、私は子爵領で家庭教師が付くことになっている。
なので基本的な貴族の教養を身に付けつつ、生活に役立つ実用的な事を身に付けよう…。
どうやって?
先ずは1にも2にも、情報収集だね…。
現状はこの先、どうすれば良いのか、全然わからない。
はじめまして。恵葉と申します。
今までに、遊び半分で短編は何回か書いていたのですが、不特定多数の方に公開したことは無く。
今回、はじめてそれなりの長さのものを書いてみようと思いました。
折角なので、記録も兼ねて、このサイトに書いていこうと思います。
ご興味を持っていただける人が居れば幸いです。