48-SS
そして今日、私は雨音くんと立ち食い寿司に行くために待ち合わせをしていた。都心の一等地の駅近くの広場で。
六月がスタートしたばかりの日曜日。
まだ梅雨入り前だが、夕方のにわか雨の予報が出ている。斜め掛けした鞄には折り畳み傘も入れてあった。雨用のパンプスに白のクロップドパンツ、上はラベンダー色の七分丈のシャツを着ていた。
「櫻木先輩!」
声に振り返ると、ファッション誌から飛び出してきたような雨音くんがいる。彼の周囲の人たちは、老若男女問わず、その姿に釘付けになっていた。
サラサラのアイスブルーの髪はいつもと違う分け目。眉は普段通りキリッとして、サファイアの瞳と同色のスリムパンツをはいている。脚の長さが驚くほど際立つ。上にはシルバーグレーのカットソー、そこにオフホワイトの半袖シャツを重ね着している。
このカラーコーデでスリムに見えるって、余程鍛えているわね。
毎日のスーツ姿も決まっているけど、私服も映える。手首につけているバングルや斜めかけしている鞄もオシャレだし……。なんだか早速、あれはスカウト? 街頭インタビュー? ともかく見知らぬ人に声をかけられ、困惑している。
私を待たせているので、雨音くんは困惑しつつも、取り付く島を作らず、私の方へと駆けてくる。その瞬間、チクチクと周囲から視線を感じ、「私、彼女じゃないですからね。妬まないでくださいね」と心の中で思う。
「すみません、お待たせしました。三十分前に到着したのに、改札口が多すぎて、迷子になっていました」
「あ、地下鉄で来たのですね」
「はい。でももう櫻木先輩からいるから安心です。早速ですが、行きましょう」
そう言って歩き出す雨音くんは、すっと私を建物側へ寄せ、自身は車道側を歩き出す。
いつもそうだった。
会社からの行き帰りで一緒に歩く時も。エレベーターでは行き先階のボタンを必ず押してくれるし、先に私を乗せ、降りる時も扉を押さえ、私を優先してくれる。開閉式のドアがあれば、それも必ず開けてくれるし、エスカレーターでは上りは私の後ろ、下りは私の前。それはもしもの時に、助けやすいようにするため。さらに足元を見て、私がヒールの高い靴の時は、歩く速度を落としてくれる。
海外暮らしが長いと、こういう気遣いが自然と身に着くのかしら。
「!」
突然肩を抱かれ、涼やかな香りを感じ、驚くと。
「水溜まりがあります」「あ、本当だわ」
御礼を言い、再び歩き出そうとした時、雨音くんが当たり前のように手を差し出していて「えっ」と思ってしまう。
これはよく海外でお馴染みの“エスコート”というものでは?
でもなぜ突然?
「……あ、ごめんなさい。その……癖で」
「あ、イギリスに住んでいたのですもんね。そういう癖、出ますよね。日本でエスコートなんてされたことがないので、一瞬、自分がお姫様になったかのように思いました」
その言葉を聞いた雨音くんのサファイアの瞳が、なんとも切なく甘く輝き、ビックリしてしまう。
「……お姫様気分、味わってみますか?」
「えっ……?」
「櫻木先輩のことなら、喜んでエスコートしますよ、僕」
サラリと揺れるアイスブルーの髪を見た時、何かを思い出しそうになり、でもそれがなんであるか分からない。
なんだかもどかしい。
「……ごめんなさい。日本人の皆さんは、エスコートなんて急に言われても、驚いてしまいますよね」
「そんなことないですよ! ただ、ここ、メインの通りで人が多いので。この先で右に曲がるので、そうしたら、エスコートお願いします。お姫様気分、味わってみたいです」
その瞬間に見せた雨音くんの明るい笑顔。
なんだかその笑顔は、どこかで見たことがあるというか、懐かしいというか……。
ずっとこの笑顔を見たかった気がする――そんな不思議な気分になっていた。
~ fin. ~
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
なんとかこの三連休中に番外編を~と思い
雨音くんと藤華の初デートでした♡
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また番外編公開するかもなのでよければ引き続きご愛顧を!
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