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同じ因果のムジナ

作者: 物部がたり

 いつかこんな底辺から成り上がってみせると、れいは思っていた。

 だが、れいは飛びきって勉強ができるわけでも、スポーツができるわけでもなく、チャンスの神を捕らえる準備はしていても、チャンスの神は誰にでも平等というわけではなかった。

 そんなれいが唯一成り上がることができるとすれば、玉の輿を狙うことだと本人も思っていた。

 幸いなことにれいの父と母は容姿だけは良く、れいもその遺伝子を受け継いでいた。

 同じ穴の(むじな)の両親のやんちゃの末に産まれたれいは、両親のことを尊敬したことはなかったが、この容姿を授けてくれたことだけは感謝していた。


  *             * 


 いつかこんな底辺から成り上がってみせると、はじめは思っていた。

 だが、はじめは飛びきって勉強ができるわけでも、スポーツができるわけでもなく、チャンスの神を捕らえる準備はしていても、チャンスの神は誰にでも平等というわけではなかった。

 そんなはじめが唯一成り上がることができるとすれば、逆玉の輿を狙うことだと本人も思っていた。

 幸いなことにはじめの父と母は容姿だけは良く、はじめもその遺伝子を受け継いでいた。

 同じ穴の(むじな)の両親のやんちゃの末に産まれたはじめは、両親のことを尊敬したことはなかったが、この容姿を授けてくれたことだけは感謝していた。

 

  *             *


 同じ時代の同じように貧しい漁師町で生まれた二人は、同じとき同じことを考えていた。

 二人の漁師町は現代的な貧しさで、多くの者が町から出る力を持てないまま、同じような境遇の相手と子をなし、貧困の連鎖を繰り返していた。

 若くして子を身籠る母親も、ここでは珍しくなかった。

 れいとはじめの両親もヤンチャをしていた人々で、若く二人を産んでいた。

 国の援助も希薄な時代で、食うや食わずやなことも珍しくはなかった。


 そんな環境で空間は違えど、似たり寄ったりの二人が同じ考えに至るのは不思議なことではなかった。

 二人は町に喰われる前に、それほど素性のよくない知り合いのつてを頼りに町から脱出し、都市にやって来ることができた。

 だが、素性のよろしくない知り合いから得られる情報は乏しく、自ら正しい情報を得る能力を持っていなかった情報弱者の二人が選ぶ道は限られていた。

 容姿の良かった二人は夜の商売をしている店で使ってもらえることになった。


 これは悲しむべきことではなく、玉の輿、逆玉の輿を狙っていた二人にとってはチャンスの神が最も多く現れる場所でもあった。

 れいとはじめは店にやって来る大企業の幹部や、令息・令嬢、政界、芸能界の男優・女優などの著名人たちに取り入ろうと頑張った。

 だが陽に生きる人々と、陰に生きる二人ではドラマのようなロマンティックで夢のある関係に発展することはなかった。

 チャンスの神は何度も二人の前を通ったが、チャンスの神の前髪を掴もうとすると、神本人から手を弾かれてしまう。


 いつしか若さのピークは過ぎ、精神ともどもすり減ってしまった二人は出合った。

 同じ業界にいて、互いの存在は度々目撃することはあったが、話をするようになったのはその時が初めてだった。

 二人は似たような境遇で、似たような人生を歩んで来たこともあり、お互いがお互いの傷を舐め合うように、少なからず惹かれる要素はあっただろう。

 成り上がることを夢見ていた同じ穴の二人は、そのとき何を思ったか。

 その後、二人の行方は、誰も知らない――。

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