77話 散らかった作業部屋
「えーと、入りますね?」
中にいる店主さんに聞こえているかは分からないが、そう言いながら店の奥のドアを開ける。
ドアの奥は作業部屋のようで、本や薬の素材らしき物などが散らかされていた。
肝心の店主さんは戸棚の中を何やらゴソゴソと漁っていたが、私が入って来た事に気が付いたようでこちらに振り返った。
「あー、すまんね、扉につける用の鈴を探すのに夢中になっちゃって」
「あ、いえ、大丈夫です。それで、鈴はありましたか?」
「そもそもそんな鈴なんて持ってなかったね」
そりゃそうだ。特に用が無ければ鈴を買うことなんて中々無いだろう。
ましてやドアの開閉時に音が鳴るようなやつだとそれ専用の物じゃないと取り付けが難しそうだ。ドアに張り付くように設置してしまうと音が鳴りにくいし。
「それで、ギルドで依頼を受けてくれた手伝いの人だよね?私はライラ、よろしくね」
「あ、猫美です、よろしくお願いします」
「…?どうしたの?なんだか不思議そうな顔をして」
「いや、人の名前を教えてもらうなんていつぶりかな…って」
思えば女神と会ってから人の名前を聞く機会なんて一度も無かった。
女神自身、名前らしい名前もないし、これまで出会った人もなんだかんだ名前を聞く機会が無かった。
「今までどんな生活してたのよ…」
ライラさんが困惑したようにこちらを見ていた。