59話 森の熊さん
「今更なんだけどさ、君は人間のこと襲ったりはしないの?私のイメージだと森で熊に遭遇したらおしまいなんだけど」
「グルル」
「そんな事をしたら後で人間に一族皆殺しにされる?この世界の人間恐ろしいね…」
当然のように熊さんと会話をしているのもどうなんだろうとは思うが、とりあえず襲ってくることは無いようだった。
一応会話が成立しているし、この世界の熊は賢いのかもしれない。
もしこれが見境なく襲ってくるようなものだったら、早々に今回の転移は終わっていただろう。そう思うと肝が冷える。
「グルル」
「えっ、私がなんで人間なのに会話できるか?…まぁ女神の加護みたいなやつかな…」
熊さんと会話が成立しているのは、おそらく女神にこの世界の言語を使えるようにしてもらった影響だろう。
ただ、熊語のようなものがある訳ではないようで、なんとなく何言っているかわかるといった感覚だ。
少なくとも私は熊さんのように唸っている訳では無く普通に話しているのだが、何故か熊さんに伝わっているようだった。
ちゃんとした言語が無い場合でもなんとなく伝わるようになるようになっているのだろうか?
「グルル」
「まークソ女神だよ。私を異世界転移させまくって遊んでるような奴」
「グルル」
「いやほんと苦労してるんですよ…」
熊さんに境遇を同情されてしまった。
肩にポンと前足を置かれる。何処でそんな人間らしい仕草を覚えたのやら。
熊のコミュニティでもそういった文化があるのだろうか…。
あとそこまで体重はかけていないようだけど熊の体格なので重い…。
「グルル」
「えっ何かご馳走してくれるの?」
「グルル」
「さっき言ってた川の魚?しかもとってるところを見せてくれるの?見てみたい!」
どうやら魚をご馳走してくれるだけでなく、魚とりをしている所を披露してくれるらしい。
こうして、熊さんと一緒に川に魚とりに行くことになった。
本当は前回の転移の時、森に転移して熊に襲われるみたいな話にしようかと思ったんですが尺が稼げないので没になってました。
それがなんやかんやあってこんなことに。
何で熊?って言ったら森の動物と言えば熊かなって。森の熊さんって言いますし。