6.50日目
行き当たりばったりだけど、なんとかなってる五十日目ー。
えー、キャットウーマン風ボディースーツを白色にしたくて試行錯誤し、結果諦めました。五日間も無駄に費やしてしまった。わーん、バカバカー。
ついに宗教家を口説こうかと思いまして、それには神の使い風に枕元に立つのがよかろうと思ったわけです。白くてなんか光ってると、それらしく見えるかなーなんて。
カミッコにがんばってもらったんですけどね。染物屋に行って、ポチャンと染め液に浸かってもらったり。髪結師のところで、脱色液かけてきたり。ダメだった。黒のままだった。
仕方ないので黒のボディースーツで教皇のお部屋にちょっとお邪魔しまーす。
教皇の枕元に立って、厳かな声(当社比)で話しかけてみます。
「起きなさい、人間の子……教皇さん……ねえ、起きてー」
ペチペチペチ。やっと身じろぎをして目を開けてくれた。随分深く寝るんだなぁ、老人は眠りが浅いのかと思ってたのに。
「起きたか、人の子よ。汝の祈りは受け止めた。よし、そなたが次の王じゃ」
教皇は目を見開いて私を凝視すると、恭しい口調で言う。
「それはお断りいたしますぞ、イグワーナ嬢」
「ええっ、バレてる! なぜっ?」
全身黒タイツで顔も見えないのに?
サンタのような教皇はベッドの上で起き上がって、ニヤリと笑った。
「一部貴族の間で話題になっておりますぞ。元公爵家のイグワーナ嬢が、何やら黒い物体を使役して面白いことをやっていると」
「なぜ貴族たちは私だと気づいているのだろう?」
教皇は困った顔をしながら、白いヒゲをしごいた。
「イグワーナ嬢は先だって、さる大臣にお願いごとをした際、お名前を残されましたな」
「え、でも証拠は残ってないはず」
手紙はカミッコが破棄したよねぇ? したした、ってカミッコが揺れてる。
「例え証拠を消したとしても、名乗るということは、王家とやりあうがお前はどちらにつく、と案に問うていると受け止められますぞ。今のところ主だった貴族は静観しておるがのう」
えー、そうなのー。そこまで考えてなかったのに。
教皇は寝癖のついた髪を手でなでつけながら、ため息をついた。
「こたびの騒ぎは、イグワーナ嬢に同情する者が多い。ゆえに目こぼしされておるが、あまりやり過ぎない方がよい。あからさまに王家に楯突いたところで、イグワーナ嬢をかつぐ者はおるまいよ。どうじゃ、もう国を捨てて逃げてはいかがかの。国境沿いの教会までならなんとか守ってやれんでもない」
なんと答えていいか分からずうつむいた。
「イグワーナ嬢はまだ若い。理不尽な目にあって、諦めずに向かっていく勇気は好ましいと思う。だが、そなたの命と王国の安定は釣り合わぬ。そなたを助けても誰も得るものがないのう」
「逃げる気になったらまた来なさい」
そう言って教皇はベッドに潜り込み目をつぶった。
私は自分の甘さ加減に腹が立って、何も言えず戻ってきた。住み慣れてない我が家に。
えーい、どっこーい。そこで諦めないのが私のいいところ。正直、逃げるのはいつでもできる。だって、今も外出し放題だし。ギリギリまで粘ってあがいてやる。
教皇の言葉を信じるなら、いくら貴族を焚きつけたって無駄だろう。となると平民かー。革命が起きそうな土壌がなさそうなんだよね。陛下は賢王ってほどでもないけど、ごくごく無難に国を治めてると思う。多分。知らんけど。
だってイグワーナが知らなくて原作に載ってないことは私も分からん。でも、飢え死にすることもなく、税はそこそこで、戦争もなさそうなら、いいんじゃないのーって思いますよねぇ。
そんな国で革命って、やっぱり無理な気がする。よーし、民意を聞きに行ってみよー。まずはあのヤバめな出版社だな。いつも私がお世話になったり、お世話してるとこな。
「やあ、どうもこんばんは。貴族の闇を斬って捨てる美少女仮面イグワーナだ。あ、また名乗っちゃった……」
いけねーいけねー、つい調子のっちゃうのが私のいいところでもあり、悪いところだよね。え、悪いところの割合が多いんじゃないかって? そんなこたーない、自分で自分の機嫌を上げれるって長所ですよ、ねぇ。
「あ、まあ、そうかな……」
「あれ、声に出てたか。まあ、とにかくごきげんよう。印税の取り立てに来たヨ」
「こんな夜中に?」
あら、柄の悪めな編集長兼社長、というか社員こいつひとり、が引いてる。
「ほほほほ。闇夜の堕天使だからネ」
諦めたようで、編集長はベッドから起き上がって、マットレスの下から金庫を出し、お金を払ってくれた。
チャリンチャリン、金貨を数えてから、一枚ずつ編集長の前に積み重ねる。
「これ、情報料ね。この国で革命起こる可能性ってある?」
「んんー、なくはないんじゃないか?」
えええ、マージー?