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2.10日目

 そうして迎えた十日目ー。


 順調〜順調〜。さあ、ご覧ください、わたしの子どもたちを。


 名づけて、カミッコー。


 いえね、抜け毛をまるまるまるっと手で丸めてね、まっくろくろーなスケちゃんができましてね、それがなんと、わたしの言うことを聞くんですよ。すごくないですか?


 スパイし放題、窃盗しまくりですよ。ふわふわゆらゆら漂いながら、どこにだって忍び込める。例えみつかってもただの髪の毛、女中にポイされるだけ。ありがたいことに、イグワーナは豊かで長い黒髪の持ち主なので、抜け毛に困ることがない。


 ありがとう、ナイススキル! おかげさまで、初日に比べると圧倒的な快適監禁生活ですよ。



 まずね、トイレ事情が改善しました! カミッコが運んできた金貨を、そっとアホの方の看守にあげまして。こっそり看守用のトイレを使わせてもらってます。やったね。



 次、ベッドが囚人仕様から商人レベルにランクアップしました。カミッコが調達してきた糸や毛糸を使ってハンドメイドならぬ、ヘアーメイドですよ。ええ、織るのはわたしじゃない、カミッコだ。


 黒い抜け毛が色とりどりの毛糸に絡みつき空中を乱舞するさまは、まるで花火のよう。鑑賞料とれるレベル。ただ難点は、糸くずとほこりが舞うので、鼻がむずむずする。何度かくしゃみをしていたら、カミッコたちがマスクになって鼻と口を覆ってくれた。ええ子たちや〜。


 カミッコたちのがんばりで、フワフワぬくぬくの毛布が完成したのです。ところどころ、抜け毛も織り込んでいて、抜け毛たちが適度な揺れで私を良質な睡眠に導いてくれるのですよ。かつてない熟睡を得られるおかげで、私の体調は絶好調。


 あとはお風呂に入れたら言うことないんだけどなー。



 そんな感じで充実したスローライフを送っていたら、来た! イグワーナの元婚約者の第一王子と、ヒロイン兼イグワーナの妹が。むさくるしい空間に全くマッチしない、豪華衣装に身を包んでいます。こちとら、弥生時代の貫頭衣コーデ、十日間着たきりだっていうのに。



「お姉さま、おいたわしいですわ……こんな狭苦しい場所に閉じ込められているなんて……」


 涙目でプルプル震える妹マリワーナ。そんなマリワーナを心配そうに見つめるコケイーノ王子。



「ええー、そんなこと言うなら出してよー」


 そっと目をそらされた。ちっ。



「たわけ、そなたは国家を揺るがす大反逆者だ。二度と朝日は拝めぬものと心得よ」


 震えるマリワーナの肩を抱いて、私に言いつのるコケ王子。


「えーっと、処刑の日は拝めるのでは?」


「揚げ足を取るのではない、無礼者めが」


 コケ王子のこめかみにピキリと青筋がたった。無駄に顔のいいコケは、怒った顔も絵になる。全く好みではないがなあ。



「質問です。私は何の罪で、捕らえれているのですか? 国家を揺るがす大反逆者とは具体的になんでしょう? 私、いたって真っ当な公爵家令嬢ですけれど?」


「そなたの罪はな、聖女であるマリワーナを貶めたことだ」

 

 王子に肩を抱かれてうつむく妹。金色の髪が一筋垂れる。


「ええー、ただの姉妹喧嘩に王家が口出しするー?」


「民衆をたきつけて、王家の醜聞を広めようとした」


「え、それって、コケイーノ第一王子殿下が、婚約者の妹に手を出したってアレですか? ちょっと侍女に愚痴りましたけど……」


「他国と通じて王位の簒奪を企てた」


「うーん、婚約者が妹に手を出したから、婚活始めただけなんですけどー」


「黙れ、とにかく罪はもう覆らぬ、九十日後の処刑まで神妙にいたせ」


「横暴です、この国に法律は、いや良心はないのか……。哀れ、いたいけなイグワーナ公爵家令嬢は、無実の罪で処刑されるのであった……。それがこの国の行く末を大きく変える分水嶺となるのである……」


「……そなた、何を言っておる。もう既に気が触れておるのだな……。さらばだ、イグワーナ。もう会うことはないであろう。潔く散れ」


 言いたいことだけ言って、ふたりは去っていった。


 イグワーナの記憶を掘り返しても、私のおぼろげな原作知識をさかのぼっても、処刑されるほどのことはしていないんだよね。イグワーナの存在が邪魔だったのなら修道院にでも送ればいいのに、なぜ処刑なんだろう。




「……お前、ひどい目にあったんだな……」


「アホの方の看守……」

 

 ふっ、やはり聞いていたな。チョロい。


「……バルサだ。俺にできることならやってやる。困ったことがあれば言えよ……」


「はい、お風呂に入りたいです」


 そっと金貨を握らせると、バルサはうなずいた。


「ごはんに肉もつけてください」


 もう一枚金貨を握らせる。ためらいがちにうなずくバルサ。


「ワインも飲みたいな」


「いやいや、さすがに贅沢じゃね? ここ牢屋!」


「ちぇー」


「まったく、お嬢さまとは思えねー肝のすわりかただ。気に入ったぜ」


 バルサは金貨を懐にねじ込むと、ニカっと笑って戻っていった。


 


 よっしゃー、ひとりゲッチュー。





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