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チューニング  作者: JUN
2/3

新生活

 新学期前にマンションへ引っ越し、僕は一人暮らしを始めた。

 古いとは言え、静かだし、景色はいい。上海租界風をコンセプトにしたという部屋は、どこか郷愁を誘うような、お洒落で落ち着く部屋だ。それに合うように、タンスや机やベッドも、色を抑えてみた。

 そして満足して、僕はラジオに向かった。

 小型冷蔵庫くらいの大きさで、上にはメモリとダイヤルが付いたラジオで、下には扉が付いている。そこを開けると中にはものをしまえるようになっており、ここにパソコンやリモコンなどをしまう事にした。

 このラジオをどうしても聞けるようにする。それが密やかな僕の目標だ。

 ダイヤルを回す。

 ザザザ、とノイズが聞こえる。チューナーで合わせようとするが、なかなか合わない。だがその内に、微かに人のようなものが入った。


 ザ・ザザザ・・・ザザ・・え・・・ザザ・・


「難しいなあ。また今度挑戦しよう」

 僕は欠伸をして、ラジオの前から立ち上がった。


 夜中、どこか息苦しさを感じて目が覚めた。

 真っ暗な部屋は自分1人で、軽く心細さを感じる。もし今具合が悪くなっても、誰にも気付いてもらえないのか?

 しかしいつの間にか息苦しさは引いて行き、再び眠りについた。


 翌日、起きると何となく体がだるくて食欲もない。鏡を見ると、気のせいか顔色が悪い。

「ああ……何か、疲れが溜まってるのかなあ。引っ越し、荷物が少なくても思ったより大変だったし。

 ああ。寝具が変わったせいかも」

 僕は引っ越しを機に、部屋の雰囲気に合わせてベッドに変えたのだ。それに伴って寝具も変わった。

「今夜は、前の布団で寝てみよう」

 すっかり解決したような気になって、僕は家から送ったせんべい布団を引っ張り出した。


 夕食は、きつねうどんと巻き寿司。そして、入浴をしてしっかりと温まる。

 最近まで使っていた布団をフローリングの上に敷き、枕元にはラベンダーの芳香剤。そして、「お休み前に」といううたい文句のハーブティーをカップに一杯。

 ハーブティーを啜りながら、今日も日課になったチューニングにチャレンジする。


 ザザザ・・ザ・ザザ・・・ザ・・お・ねえ・・・ザザ・・・


「おねえ?」

 昨日よりましになっているが、まだ、だめだ。

「おねえ、なあ」

 テレビに出ている色んなおねえタレントを思い浮かべ、僕は

「おねえの夢を見そう」

と独り言を呟いて、布団に入った。


 夜中の事だった。

「う、うう……」

 苦しさでボンヤリと目が覚めた。

 そう言えば父方の祖父も伯父も心筋梗塞だ。父方は心臓の家系なのかも知れない。

 暗くて寒い部屋で、スッポリと布団をかぶった状態で、目を閉じたまま寝ている。

 気道が塞がれるような苦しさだ。

 ああ。心臓じゃなくて、気管支かもな。咳は出ないから喘息じゃあないのかな。アレルギーとかかな。壁紙とかが原因の。

 そう思っているうちに、いつものように何となく苦しさが遠のいて行って、うつらうつらとし始めた。


 今日もラジオの前に座って、チューニングを始める。


 ザザ・・ザ・ザザザ・・・


 耳を済ませながら、チューナーを微妙に弄って行く。


 ザ・ザザ・・ザザザ・・・お・・お・ねえ・・


 結局、チューニングはできずにそのままだった。



 







お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。

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