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チューニング  作者: JUN
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物件探し

本日、幽霊の日だそうですね。

 大学に合格し、住む所を探すこととなった僕達親子は、愕然とした。都会の家の家賃の高い事!

 それでもまだ見つかれば仕送り以外にバイトもしてどうにかしようと思うのだが、問題は、どこにも空きがないという事だった。入学が決まる前、冬の段階でめぼしい所から押さえて行かれるものだそうだ。

 受かる前から……そうなんだ……。そう、僕達は愕然とした。田舎だと、どこなりと空き家はあるものだからな。

 多少遠くなってもいい。古くてもいい。狭くても構わない。そういった条件はとうに出し、それでもないと首を振られている。

 多少なら家賃が高くなってもバイトでどうにかするし、どこかが空いたらすぐに引っ越す事にすればいい。そう思って訊いてみたが、それでもない物は無い、という事だった。

 このままでは、合格したのに入学できなくなる。

 不動産屋さんも一緒に眉を寄せて考え込んでくれていた。

 と、先輩店員が奥から1枚の紙を持って来た。

「ここならあるんですけど」

 それに、僕達を担当してくれていた店員は「え」というように目を泳がせた。

 何だろうと思う僕の横で、母がその物件情報に目を走らせる。

「有名な所じゃないの、ここ、聞いた事があるわよ」

 最寄り駅が、学校からもほどほどに近い、テレビでもちょくちょく出て来るような駅だ。都会だ。

 ちょっとくらい家賃が高くてもとは言ったが、そのちょっとがどのくらいを指すのかは言ってない。そう思って、まずは家賃がいくらか確認する。

「月に4万円です。この辺りの相場は6万円台ですから、少しお得になっています」

「まあ。どうしてですか」

 母が、もう半分その気になりながらそう訊いた。

「駅から徒歩で15分ほど離れているのと、前が坂道になっている事。それとバブルの頃に立ったマンションなので、少し古いんですよ」

 不動産屋さんはそうにこやかに説明し、まあとにかく見学に行く事になった。

 まあ、行かなくとも、よほどのことが無い限りここに決めなければどうしようもないのだが……。


 不動産屋のロゴの入った軽自動車でマンションに行った。

 確かに駅周辺はお洒落だし人も多いし、これぞ都会、という感じがした。

 しかしマンションの方へ向かう坂を上り始めると、人通りは減り、並んだ住宅もひっそりとしていた。

「なだらかだけど、長いですね、坂」

 言うと、母は、

「足腰が鍛えられていいじゃないの」

ときっぱりと言った。

 やがて着いたマンションは、デザイナーズマンションと呼ばれるものらしいお洒落だった建物だった。高くてひょろりとした、エンピツみたいな印象だ。

「まあ。多少年数が経ってても、賃貸だしね」

 母はもう、半ばここに決めている。主に家賃が理由で。

「最上階なんですよ。夜景がきれいですよ」

 そうにこやかに説明されながらエレベーターに乗る。

 チーンと軽やかな音を立ててエレベーターが止まり、僕達は廊下に出た。

 廊下の窓からは光が差し込み、明るい。

 その廊下にはドアが3つ並んでいて、案内されたのは奥の部屋だった。

 ガチャガチャと鍵を開け、ドアを開ける。

「どうぞ」

 そう言われて玄関に足を踏み入れた時、妙に息苦しさを感じた。

「まあ、広いし素敵な部屋ねえ」

 母は何も感じないようで、ズカズカと中へ入って行き、僕は不動産屋さんに促されるように中へと進んだ。

 玄関から入ってすぐ、廊下を挟んで小さいキッチンとバス、トイレがあり、奥に8畳ほどの洋間があった。正面奥に大きなガラス窓があり、その向こうはテラスになっている。そしてその眼下には、街並みが遠くまで広がっているのが見えた。まだ上った事は無いスカイツリーも見える。確かに、夜景はきれいだろう。その部屋の隣には4畳半ほどの洋間があり、作りつけのクローゼットがあった。

 広い洋間に戻り、見回す。

 天井にはシーリングファンが付いていて、壁紙はどこかエキゾチックな感じの模様で、古い洋画を思い出した。

 そしてなぜかその壁際に、小さいタンスのような、大きな置物のようなものが置いてあった。猫足で、全体に優美な印象で、上にメモリのようなものとダイヤルが付いていた。

 それに目を奪われ、意識を縛られる。

「これは?」

 ドキドキするのを抑えながら訊くと、不動産屋さんが答える。

「ああ。アンティークのラジオです。上海租界のものらしいですよ。このマンションは、部屋毎にこうした映画に出て来そうなモチーフのものが置いてあるんですよ。

 ここは上海租界風で、隣はパリの下町風とかですね」

「ここがいいな」

 僕はそのラジオに、一目ぼれした。



 

お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。

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