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サポーター。女剣士の身の上を知る

 結局、どうしようもなくなった僕はバーのカウンターに座りながら店主の女性と話をしていた。


「ごめんよ、うちのユーリちゃんが」


「い、いえ……」


 キセルの先から溢れる煙が店の中に消える。


 タバコの匂いが店の中に溢れた。


「あたしはレベッカ。この店のオーナーをしてる」


「ぼ、僕はマインです。一応、サポーターをやって……ました」


 ちょっとまだ警戒してしまうけど、話してみればこのレベッカさんはとてもいい人だった。


 食べられなくてよかった……。


「ました?」


「…… はい。実は」


 僕はレベッカさんに今の身の上を説明する。


 身ぐるみ全部を剥がされてシデンのパーティを追放されたこと。


 そしてなんとか新しいパーティを組めたと思ったらそいつらに奴隷商売の商品にされかけたこと。


 挙げ句の果てにはゴブリン・ロードに遭遇して、まさに殺される紙一重のところでユーリさんに救われたこと。


 そんなユーリさんにギルドに連れ帰ってもらえたと思ったら、今度はユーリさんに半ば拉致されるような形でここにやって来たこと。


「あんた……苦労してんねぇ」


 僕の経歴を聞いたレベッカさんは口角を引き攣らせながら苦笑いをする。


「はは……でも、元はと言えば僕が弱いのがいけないんで」


 そう、全ては僕の弱さが招いたこと。


 僕がもっと強かったのなら、きっと今こんなことにはなっていない。


 シデンのパーティを追い出されることもなければ、ゴブリン・ロード相手に何とか逃げ切ることができてここまで事態はややこしくなっていなかっただろう。


 だから、全ては弱い僕が悪いんだ。


「……あんた。ちょっとステータスを見せてみな」


 そんな僕を見てキセルを咥え直したレベッカさんがそんなことを言う。


「え?あ……はい」


 言われるがまま、僕はレベッカさんに自身のステータスを見せる。


「戦闘力は並、アビリティは……へぇ。あんた面白いアビリティを持ってんじゃないか」


 レベッカさんは僕のステータスをを吟味するように眺めながらキセルの中身を灰皿に捨てる。


「面白いアビリティ?」


 はて?僕のアビリティにそんなものあったっけ?


「まず、この『収納上手』。あんた7年サポーターやってるって言ってたね。このアビリティはいつから発動してたんだ?」


「あ、はい。ほんとに冒険者初めてすぐとかですね」


 確か僕がサポーターになることを決める一因となったスキルだ。


 だからサポーター歴=【収納上手】を覚えた期間と言えるだろう。


「ほー……そいつはまた、凄いねぇ。勇者パーティ7年物の【収納上手】か」


 ボソリと呟きながらレベッカさんは次のアビリティの欄に目を移す。


「【器用貧乏】。あらゆる武器をそれなりに使えるようになるアビリティ。こいつはレアアビリティだって聞いたことがある。惜しいことをしたねぇ、シデンとかいう冒険者は」


「え?でも……色んな武器が使えるだけで大したことないですよ?」


 そりゃあ、状況に応じて色んな武器を扱えるって言うことは便利だけど……所詮それは【器用貧乏】。


 決して達人にはなれやしない。


 アビリティっていうのはその人の人としての在り方が反映されることが多い。


 例えばシデン。彼はこのラザニアス国で【勇者】の称号を手に入れた。その事実が彼のアビリティに変化を与え、固有アビリティ【雷の勇者】を発動させた。


 そして、彼はいつも自信家で怖いもの知らず。


 そんな彼に目覚めたもう1つのアビリティが【自信過剰】。彼の精神力が続く限りそのステータスにブーストがかかる。


 こんな風にアビリティは後天的に発動するものと元々の気質によって先天的に発動するものに分けられるわけだ。


 僕の【収納上手】は言わばサポーターとして生きることを決めてたくさんアイテムを運ぼうとすることで目覚めた後天的なアビリティ。


 一方の【器用貧乏】は先天的なアビリティ。


 確かに初めて手にした武器でも僕はある程度は扱うことができる。けれど、それは『ある程度』だけ。


 つまり、僕は何事にもおいて『ある程度』しかできず、極めることができないと言うことが定められているということ。


 いわば、才能がないということを証明される呪いみたいなものなのだ。


 それが仮にレアスキルなのだとしても、それは珍しいだけ。所詮は役に立つスキルではない。


「いや、そのアビリティの真骨頂は多分そこじゃない。しかもあんたはサポーターをしながら前線にも立てるんだろ?」


「ま、まぁ。大した活躍はできませんけど……」


 せいぜい牽制だのアイテムの使用だのくらいです。


「そのレベルであの雷の勇者シデンのパーティの前衛任せられるんだ。そいつは並々ならないことだ、もっと自分に自信を持ちな」


「……はい」


 そう言いながらレベッカさんはグラスのウィスキーをグイッと飲む。


 レベッカさんのその言葉1つで僕は少し救われたような気がした。


「でも……ユーリさんは何故僕をここに?有無を言わせずにここまで連れて来られちゃいましたけど……」


 ここで僕は本題を切り出してみる。


 何故、ユーリさんは僕をここに連れて来たんだろう?


 僕をサポーターとして雇いたいのだろうか?


「あぁ、実はね……今日の朝あの子に言ったのさ。『あんたを支えてくれる仲間を見つけな』ってね。そしたらマイン、あんたを連れてきたって訳だ」


 ふむふむ……なるほどなるほど……?



「…………え?それだけですか」



「それだけさ」


 えぇ!?そんな簡単なことで僕はここに連れてこられたのか!?


「はっはっは。変わってるだろ?あの子は」


 開いた方が塞がらない僕の顔を見てレベッカさんは笑う。


「……は、はい」


 変わってると言っていいものかという抵抗もあったが、否定できはしないだろう。正直、ユーリさんの行動には常軌を逸したものがある。


 そんな僕の反応を見ながら、レベッカさんはどこか遠い目をして語る。



「あの子はね……サングライト王国の戦士だったんだよ」



「サングライト王国……まさか、5年前に滅んだあのサングライト王国ですか!?」


 サングライト王国。


 5年前。世界を支配する6神魔王の一角、死術師ロックスによって滅ぼされた大国だ。


「そう。あの国はゴリゴリの武力国家でね。ユーリは元々孤児だったところを無理矢理戦士にされたのさ」


「……え?」


 孤児を……無理矢理戦士に……?


 確かサングライト王国は様々な国に喧嘩をふっかけては常に戦争をやってるような野蛮な国だった。


 結局、世界を支配する魔王の陣営にも手を出して、結果ロックスに襲撃。滅亡に追いやられたらしいけど。


 兵力増強のために奴隷を集めたり野蛮な研究にも手を出してるって噂は聞いていたけど、まさか孤児を無理やり戦士にするなんてそんな非人道的な行為をしていたなんて。


「そして、あの子はありとあらゆる戦闘技術を叩き込まれた。確かに強くなったさ、あの国にいた誰よりも。だが、それと引き換えにあの子は人として大切なものを失ってしまったのさ。愛とか、感情とか……ね」


 レベッカさんのいうことは確かに分かる気がする。僕に対する態度とか、その身の振る舞いとか空気の読めなさというか。まるで幼い子どものよう。


 何か大切なものが欠けてしまっているような、そんな印象を受けるのだ。


「暴れることしかできないあの子は冒険者の間でも【血塗られた女剣士】とか言われて浮いちまってる。仲間とか、人との繋がりも作れずただただ独りで……唯一残された戦うことで生きていくためにこの国で冒険者になったのさ」


「……虚しいですね」


 冒険者。


 そりゃ、いいことばかりじゃないけれど。それでも冒険者という仕事は人を助けたり街を救ったり……やりがいや喜びを感じられる側面も大きい仕事だと僕は思っている。


 でも、ユーリさんは違う。他の生き方を知らないんだ。


 戦うことしか、彼女は知らないから。それで生きていくしかないから。


 何て……何て悲しい生き方なんだろうと、僕は思った。


「そうだね。私もそう思う。今のあの子はただ戦うことだけを教えられた戦闘マシーンだ。ただ死に場所を求めて戦っているだけに見える。だから、あんたを『支えてくれる』仲間を探しなって言ったのさ。人として大切な何かを取り戻すために……」


 ようは、仲間を探せと言われたけれど、いまいち意図が分からなかったユーリさんはレベッカさんの『支えてくれる』というワードだけが先行して、『冒険者を支える』というサポーターの僕をここに連れてくることにした……ということなんだろうか。


 とっても理解し難いけど、あの行動やレベッカさんの話を聞く限りそれが一番妥当なんじゃないだろうか。


「だから、悪かったね。あの子の面倒事に巻き込んじまって。無理に連れてこられたんだろ?ユーリにはあたしから言っとくから、それ飲んだらもう帰んな」


 そう言ってレベッカさんは僕に虹色の少し怪しげな飲み物を渡してくれる。


 ……ご厚意は嬉しいけど、ちょっとこれを飲むのは遠慮させていただきたいなぁ。


「……あの、レベッカさん」


「あん?何だい?」


 僕は今もしかすると、馬鹿げたことを言おうとしているのかもしれない。


 だけど、これはきっと僕の悪い性分なんだ。



「ユーリさんにサポーターって必要ですかね」



「……あんた、まさか」


 マインの申し出にレベッカはポカンとしている。


「いいのかい?あの子は……面倒臭いよ?」


「それは……よく存じてます」


 確かに、この数時間のやり取りだけでもユーリさんは普通じゃないことは分かってる。


 さっきまでのやりとりを思い出しながら、それでも僕は告げる。



「でも……ほっとけないじゃないですか。そんな危ない生き方をしてる人」



 7年前だって、そうだった。


 突っ込むことしか知らない1人の冒険者を見て、僕はサポーターになることを決めた。


 支えたい。何とかしてやりたい。きっとそれは僕の行動の原点なんだ。


 今の僕は不思議と初心に帰ったような気持ちだった。



「僕は、サポーターです。支えると決めたなら、例えどんな茨の道が待っていても最後の最後まで支えます。それが僕のサポーターとしての生き方だから」



「……ふふっ。あんたいい男じゃないか」


 どこか感心したようにレベッカは告げる。



「そんじゃ決まりだね」


 こうして僕マインは新たにユーリさんとサポーター契約を結ぶことを決めた。


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