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サポーター。バレる

 僕は店主に断って井戸から水を汲み上げていた。


 酔い潰れたユーリさんの為に冷たい水で冷やしたタオルをかけてあげようと思ったから。


 だが、タイミングが悪いことにそこにシデン達が現れたのだ。


「し、シデン……」


「よお……グズサポーター。こんな所で何をやってやがる?」


 まずい。こんな所でシデンに出くわすなんて。ここは人目もなければユーリさんもいない。こんな貧弱な僕がシデンと争えば一瞬のうちにくびり殺されるだろう。


「あらー?あのユーリはどこに行ったのかしら?」


「愛想尽かされて途方に暮れてたってか?」


 ユーリさんがいないことを確認したレックスとミーアは下卑た笑い声を上げた。


「…………」


 言い返したい気持ちを抑えて僕は黙る。下手なことを言ってユーリさんに危害を及ぼすわけにはいかない。


 だから、下手に関わらず宿屋へ戻る。宿屋に入ってしまえばシデン達も容易に手は出せない。


 宿屋の中での戦闘はギルドに固く禁じられている。宿屋は冒険者にとっての安全地帯として保証されているからだ。


 その禁を破ろうものならギルドから追放……すなわち冒険者の資格を失うことになる。流石のシデンもそんな禁忌を犯すことはないだろう。


「……てめぇ、どんな小細工を仕掛けやがった」


 踵を返して宿屋へと戻る僕に、シデンが問う。


「あんなふざけた試験……どうやって満点なんかとりやがった!?てめぇの不正を暴いて合格の資格を剥奪して……」



「むしろ、何で満点が取れなかったんだよ」



 僕は危険だということは分かっていたけれど、思わずシデンに言い返していた。


「…………あ?」


「何こいつ……喧嘩売ってんの?」


「おいおい、立場わかってんのか?今のお前にはあの女剣士がついていねーんだぞ?」


 立場は……分かってる。


 だけど……今の僕にはどうしても言い返さなければならない理由があったのだ。


「むしろ、僕には分からないよ。どうしてもっと点数がとれなかったのさ」


「んんだと!?てめぇここで斬り殺してやろうか!?」



「クリスタル・バイオレット・ワイバーン。僕がパーティを抜ける4ヶ月前に倒したモンスターだ!!」



 たまらず僕は叫んでいた。


「な……何だと!?」


「はあ!?そんな奴いたっけ?」


「いただろ!?何なら、僕がパーティにいた時に君が装備していたあの【落雷の剣】!あれの素材はクリスタル・バイオレット・ワイバーンのドロップアイテムのバイオレット・ハートで作った剣だっただろ!?」


 僕の言葉を聞いて、3人は呆けた顔をする。


 素材だけ渡されて、シデンの戦いに合うように僕がモモカさんに頼んでチューンアップしてもらったオーダーメイド品。


 ずっと愛用していた剣の素材を……どうしてシデンは忘れられるのだろう。


 しかも、まだまだそれだけじゃない。


「ロッキンガムの5人弟子の1人!ファイさんは幽霊船アトランティス号破壊の時、パーティに入ってまでくれた大恩人じゃないか!」


 ロッキンガムの街を脅かしていた幽霊船アトランティス号。死霊モンスターに有効な聖属性の魔法も武器もない僕らをファイさんは助けてくれた。


 内気で怖がりな彼女がどれ程の決意と覚悟を持って協力してくれたと思ってるんだ。


「はぁ!?」


「あん時の女!?あれそんな凄い奴だったの!?」


 僕は目の前で驚きの声を上げる3人を見て顎が外れるかと思った。



「今回の試験……あれはこれまで雷の勇者シデンが歩んできた冒険を辿る問題だらけだった。何でそれが分からなかったんだよ!」



 今回の学力試験は、雷の勇者シデンの冒険があれば充分上位を狙えるテストだった。


 だから僕は驚きを隠せなかった。


 同じ道で、同じ冒険をして来たはずなのに。僕と彼らとでは見えている世界が全く違ったのだと言うことを突きつけられた。


「ふ、ふざけるなぁ!」


 シデンの怒りの咆哮が夜の街に響く。


「コケにしやがって……!」


 シデンは僕の右腕を掴んだ。そして……。


「……あ?何だこりゃ」


「…………っ」


 僕の心臓が今度は別の理由で跳ね上がる。



「おいおい。ケチなオメェが随分とけったいな装備つけてんじゃねぇか。何だだこりゃ?」



 そう言ってシデンが見つけたのは、僕の右腕を包む小手。


「や、やめろ。お前達には関係ない話だ!」


「はっ。面白れぇ、テメェ一体何を隠して……」


 僕の制止を無視してシデンは引きちぎるように僕の右腕の小手を引きちぎる。そして……。


「…………へぇ」


「うわぁ……」


「はっはっは!おめぇ、なんだぁこりゃあ!?」


 そこから現れたのは僕の焼きただれた右腕。


 ワーウルフ・キングを倒すため、ユーリさんを守るために支払った代償。


「えー、うわ。きっも。ミミズみたーい」


「こんな火傷じゃロクに武器も握れねぇだろ。まさかこんな状態でサポーター続けてんのか。やっぱりテメェの主人は鬼だな」


 ミーアとレックスがゲラゲラと高笑いする。


「……いや、違ぇな」


 だが、そんな中シデンはニヤリと悪どい笑みを浮かべる。



「おめぇ……あの女剣士にこのこと隠してやがんな?」



「……………………っ」


 バレた……。


 ユーリさんにも話していない、僕の弱み。弱点。それが……よりにもよって最悪な奴らに露見してしまった。


「はっはっはぁ!確かにこんな傷を見せる訳にはいかねぇよなぁ!!」


 ゲラゲラと笑いながらシデンは言う。



「こんな傷があることを知られたら!おめぇあの女に捨てられるだろうからなぁ!!」



「…………っ」


 捨て……られる?


「そ、そんなことない!ただ僕はユーリさんを傷つけないために……」


「そんなもん、ただの言い訳だな。お前のお得意な綺麗事だろ?お前が使い物にならねぇことが分かったらあの女はどうするだろうなぁ!」


 シデンの顔が醜悪な笑顔に染まる。



「あの女も俺達とおんなじだよ!もし仮に勇者になれたとしたら、足手まといのお前のことなんざ必要なくなる!それが怖いから黙ってるんだろぉ!?」



 僕の心臓が鷲掴みにされたような錯覚を覚える。


 かつて、目の前の彼らも同じだった。


 こうして勇者パーティになるまでは同じ方向を向いて、脇目も振らずに駆け抜けてきた。


 そして、僕らはたどり着いた。冒険者としての到達点。勇者の称号を得た。


 けれど、そこにたどり着いて共に歩んできたはずの仲間達は僕を捨てた。僕が、弱かったから。


 かつての恐怖が僕の心に蘇る。


 大切だった仲間達が、僕を要らないものとして捨てた記憶。


 ユーリさんは、こいつらとは違う。


 分かってる。分かっているはずなのに。本当にそうなのだろうかと。こいつらと同じにならないだろうか。


 勇者パーティになった後。勇者としての道を歩き出したユーリさんにとって、僕は必要でい続けられるんだろうか。


 こんな使い物にならない右手(ハンデ)を抱えた僕が、ユーリさんの道を支え続ける事ができるのか。


 そんな暗い感情が一瞬で僕の心を支配した。


「ち、違う……僕は……僕は…………!」



「コラァ!貴様ら一体そこで何をやっている!?」



 その時。外から男の怒声が飛ぶ。


 見ると、そこには見回りをするギルドが雇った冒険者の姿があった。


「へっへっへ。こいつはおもしろいことになってきやがった」


 去り際に醜悪な笑みを浮かべながらシデンは歩き出す。


「……だ、大丈夫だ」


 そんなシデンの背中を見送った後。僕は言い聞かせるように呟きながら剥ぎ取られた小手を再び嵌める。


 手が震えている。


 大丈夫。落ち着け。シデンの言うことなんて真に受けるな。あいつらとユーリさんは違う。そう信じてる。


 そう自分に言い聞かせながら僕は逃げるように宿屋へと戻った。

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