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黒天の勇者。楽しむ

 アーサーさんが去った後、ユーリさんは少し高揚したような様子だった。


「あのアーサーさん……すごくいい人だったね」


「……そうですね。基本的には悪い人ではないと僕と思います」


 僕とアーサーさんはシデンのサポーター時代によく顔を合わせることがあったから一定話のしやすい人ではあると思う。


「……?何でそんな微妙な反応なの?」


 だから、これが初対面のユーリさんとしては僕の態度にいささか疑問を感じたのだろう。


「そうですね……」


 人混みに消えていったアーサーさんの背中を見ながら僕はため息をつく。


「ちょっと……癖のある人なんです。あの人。だから全面的に信用はしないほうがいいと思いますよ」


「…………?」


ーーーーーーー


 ワイは勇者用に作られた観覧席へと戻ると、自分の席にドスンと座り込んだ。


「おかえりなさいませ、リーダー。首尾はどうでしたか?」


「そーやのー。マインは残念ながら引き抜けそうになかったわ。まー、あの綺麗なねーちゃん相手ならワイでも同じパーティにおりたいわなー」


「嘘つけよ。マインはそんな下心で動く奴じゃねぇって知ってるくせによ」


 アーサーの部下。黒い肌に銀色の髪をしたダークエルフの魔法使いと、赤い髪をした顔にたくさんの傷を持った青年がワイにそう言う。


「まーの。だからちょっとつついてきたわ」


「「………………はぁ」」


 ワイの言葉を聞いて、2人は呆れたようなため息をついた。


「あのなぁ……いつまで根に持ってんだよ。最年少勇者の座を奪われたこと」


「エー、ワイゼーンゼンキニシテナイデー」


「嘘ばかり……」


「あっはっは。まぁえーねん。それで負けるようならそれまでやっちゃう話やろ?」


 そう、ここで負けてしまうならそれまでや。


 マインは、ワイが認めた数少ない男の1人。ほっといたらマインのパーティが勝つやろうけど、このまま簡単に勇者になってまうのはちょいと面白くない。


 だから、火をつけた。この勇者試験がちょいと面白くなる方向へ、状況をこづいただけや。


 それでまぁ、あのユーリちゃんとか言うべっぴんちゃんが死んだならワイらがマインをもらうだけ。マインが死ぬようなことがあればそれはそれでマインはその程度の男やったっちゅうだけや。


「全く……お前はまた下らぬことをやりおって」


 そんなことを思っていると、ふと前の席に座る老人に声をかけられた。


「ほー……こらまた珍しい者が来とるのぉ。【永遠の勇者】シルヴェスター」


 長い白髪をした法衣をまといしエルフの老人。


 1000年以上も冒険者として世界を支え、最年長勇者としての名を轟かせる男。シルヴェスターだ。


「いっつも森に引き篭もっとるくせに……どう言う風の吹き回しや?」


「ふ、わしももう年老いたからの。新たな勇者の誕生を見届けるのも悪くないと思うてな」


「ほー?」


 老人の考えることは分からん。


 そんなもん見て何がおもろいねん。その過程はおもろいけどやなぁ。


「勇者とは何たるか……この長い時を経て、それは随分とまぁ変わっていってしまった。嘆かわしいことだ。だからこそ、せめて死ぬ前にその輝きを秘めた原石を見つけられればと思うての」


「そーかい。そんじゃお前さんの短い余生の楽しみになればえーの」


「貴様……!大長老様に何たる無礼を……!」


「よい。やめんかエラ」


「し、しかし……」


 そばにいた若くてエルフの中でもより綺麗な少女が悔しそうに眉を顰める。


「えらい可愛いエルフちゃんやの。どーや?ワイらのパーティ……いや、ワイの彼女に……」


「触れるな。下賎な下等生物が」


「ひどーいっ」


 なんて下らないやり取りをしていると、1つのベルが鳴り響く。


「お、いよいよか」


 ついに、勇者試験の幕があがる。


 最初の学力試験開始の合図。


 勇者候補たちは一斉に会場の中へと足を踏み入れるのだった。

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