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雷の勇者。黒天の勇者と再会する

 学力試験。まずは最初の関門だ。


 俺は魔術師ミーアに目で合図をする。


 ミーアはニヤリと笑みを浮かべながら近くの眼鏡をかけたトロそうな男の方へと歩いていく。


「あっ」


 そしてすごく自然な流れで男にぶつかり、倒れ込む。


「あ、あぁ……!?ごめんなさい、大丈夫ですか!?」


 眼鏡の男は慌ててミーアに向けて手を差し伸べる。


「ご、ごめんなさい……勇者試験の場で、ちょっと緊張しちゃって」


 そんな男に向かってミーアは上目遣い、潤んだ瞳で男を見上げた。


「……っ」


 男が息を呑むのが分かる。かかったな。


「【モニトル】」


 気の抜けた男の首筋に、ミーアはそっと手を伸ばす。


「素敵な人ですね。あなたもこの試験に?」


「は、はい!といっても、あくまで学力試験要員ですけど……」


 そう言って苦笑いする男。やはりそうか。


 勇者試験の学力試験。それははっきり言ってかなり難易度が高く設定されており、合格点なんてものもない。


 決まっているのは試験を受ける総数の半分までが合格。


 今回の試験に参加するのは50のパーティ。つまりここで25にまで数が減る。


 では、そんな試験に果たして力だけで成り上がってきた男達が合格できるのか?


 そのためにこの試験には1つの抜け道がある。


 それはそれ専用の仲間を勇者試験の場に加えておくことだ。


 情報屋、ただのモンスターオタク、その他諸々……そう言った奴をこの場限定で仲間に加え、試験を突破する。


 一見、不正にも見えるかもしれないこの試験の抜け道だがそれにはちゃんとした目的もある。


 それは相手の力を見抜くことができるか、という観察眼とそう言った者を仲間に引き込めるかという人望、財力。つまり勇者として持つべくする能力の1つも含めてここで精査されると言うことである。


「……まぁ、もっとも俺らには必要ねーがな」


 だが、今のシデン達にそんな財力も無ければ試験を突破する知識もない。


 だからこそ、ミーアに色目を使わせてそう言った知識にしか価値がない奴にマーキングをする。そいつの試験を少々拝借して試験を突破するという狙いだ。


「バレねぇか?」


「バレねぇよ。ミーアはうまくやる。あいつの魔法の腕はこの国の中でもトップクラスだからな」


 当然、そういう不正がないように検査はある。だが、ミーアは腐っても勇者パーティの魔法使いを勤める実力者。この試験会場の検査員に気づかせないほどに魔法を隠すことが可能。


「ま、そこも含めての勇者試験だ」


「ケケッ、それもそうか」


 それだけの魔法の技術があればこそ勇者パーティだろってな。


 こうして数人の学力試験のために呼び寄せられた雑魚にカンニングの下拵えを終えたミーアが戻って来る。


「はぁー疲れた。ちゃんと今日の夜、ご褒美ちょうだいよ?」


「まかせろ。ベッドの上でたっぷり可愛がってやる」


 さぁ、これで学力試験はクリアだ。


「つまらんことやっとんのぉ」


「……っ」


 その時、俺の背後から声が投げかけられる。


 この独特な言葉遣い……間違いない。奴だ。


「何のようだ……【黒天】」


「おいおい、もうお前さん勇者ちゃうやろ。偉そうに呼ばんといてくれるか?【元】最年少勇者シデンさん」


「…………っ」


 そう、この【黒天の勇者】アーサー。


 彼はシデンが勇者になるまでは【最年少勇者】として伝説を残した男。俺が最年少勇者となったことで俺の事を疎ましく思っているのか見かけるとこうして悪絡みしてくるタチの悪いやつだ。


「何の用だ。この俺をコケにしに来たのか?」


「あったり前やろ。お前さんが自滅してくれたお陰でワイは再び最年少勇者に返り咲くことができたんやからな!いやーアホなことしてくれてありがとーさん」


「テメェ……!」


 こいつを殴りたい衝動気駆られるが、出来ない。


 こいつは俺よりも遥かに強い冒険者だ。実力が分からないほど俺も馬鹿じゃない。


「……はっ。確かに多少調子は悪い。だがな、俺はすぐに元の勇者の座を取り戻す。ギルドの見る目がなかったんだ、だから俺は……」


「おーおー、やっぱりなぁーんも分かっとらんの」


 俺の言葉を聞いてアーサーは突然笑い出す。


「何が分かってねぇだ?」


「お前さんが自滅した理由の話や。分からんのか?お前さんがそこまで落ちぶれた理由ってやつが」


「何だと……?」


 俺が落ちぶれた……理由?


「……大精霊サミュエルを死なせたことか。確かにあれはでかかった。だがエルフに嫌われたところで俺達は何も痛くは……」


「あー、ちゃうちゃう。あんな名前だけ有名なアホ何ぞどーでもええ。もっとデカいヘマやらかしとるやないか」


「何……?」


「もっとデカいヘマ……だと?」


 アーサーの言葉に俺だけではなく、レックスとミーアも困惑する。



「お前ら最大のヘマは、マインを追い出したことやろーが」



 アーサーの言葉は俺の予想外のものだった。


「はぁ!?」


「あんなグズを追い出したことがヘマだと!?笑わせるな!」


「そーよ!あんな替わりの効くグズ追い出したってあたし達にはなんの痛手もないんですけど!?」


「うーわ、ホンマに分かっとらんかったんか。やっばいのー」


 俺達の反応を見て、アーサーは小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「はっきり言ったるわ。お前さんらが勇者になれたんはマインのお陰や。ワイらが【死霊の祠】攻略に力注いで無くてマインがフリーになったん知ってたらワイらがマインを仲間に引き入れとったわ」


「なん…だと……!?」


 俺達よりも……あのグズを……!?


「ふざけんな!あんな奴らより俺らの方が何倍も……いや、比べる程もねぇ!」


「そーよ!誘うならあたしとかにしなさいよ!」


「いらんいらん。周りの見えとらんバカの相手なんかしてられるかいな。ほんまにマインはこんな自分勝手な奴らをよー上手いこと使っとったのぉ」


「使ってた……だと……!?」


「そーや。お前さんらが好き放題やってんのをマインが上手に誘導しとったんや。敵に囲まれんようにしたり、必要なサポートしたりしての」


 マインが……そんなことを?


 そう思った時……俺たちの頭をよぎったのは……。






 屈辱だった。





 あんな……あんな奴が、俺達を誘導していた……?弄んでたってことか!?


「ふざ…けやがって……!」


「絶対に……許さない、あのグズ。この試験中に事故を装って殺しちゃう?」


「はっ。あんな奴俺らが手を出さなくても勝手に死ぬだろう。だが、このままってのは俺達の気が済まねぇな」


 他の2人も同じだったのだろう。


 あのグズサポーターへの怒りがまたふつふつと込み上げてくるのを感じる。


「………………」


 そんな俺達の様子をアーサーは黙って見ていた。


「本当に怖いんわ……無能な味方っての」


「何の話だ?」


「いんや、なーんにもないで」


 ケラケラと笑いながらアーサーは立ち去る。


「まぁ、好きにせーな。ワイはおもろいもんが見れればそれでえーからのー」


 そう言ってアーサーはどこかへと歩きさっていった。

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