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サポーター。黒天の勇者と再会する

 2日後。ついに運命の日が訪れた。


 ネクステンドの広場はギルドによってテントがいくつも建てられ、仰々しい様相に変わっていた。


 その前には何十人もの屈強な冒険者達が集まり、勇者試験の開始を今か今かと待っていた。


 ユーリさんは落ち着かないのか僕の服の裾を摘んだままソワソワと辺りを見渡している。


 さて……。


 僕はそんな間にも神経を張り巡らせて辺りを警戒する。


 何故かって?そんなのは簡単。


「おおっと……」


 ユーリさんの背後に大男が現れ、ユーリさんの方へ倒れ込む。僕はユーリさんの手を取って身体を引く。


「わ…と……!?」


 ユーリさんはびっくりしたように目を丸くし、大男は僕の突然の行動に驚いたような顔を見せた。


「す、すまねぇすまねぇ。つい足元が……」


「どこのパーティの方ですか?」


 頭を下げてこの場から去ろうとする大男を僕は引き止める。


「な、何だってんだよ。どこでもいいだろうが、ちょっと足滑らせただけで何をそんなにカリカリしてやがる」


「そ、そうだよマイン……私は別に何でもないから……」


 きっとユーリさんからしたらいつもと違って強気な僕の態度に困惑しているのだろう。だが、それは致し方ないこと。


 ここは決して引けない理由があった。


「袖に隠したナイフ……試験官の方に確認していただきます」


「……っ」


「……え?」


 僕の指摘に顔をこわばらせる大男。


 そう、この男。ユーリさんの背後に迫り、こっそりとユーリさんを闇討ちしようとしていたのだ。


「い、言いがかりはよせ!仮にも勇者試験の場で……!」


「だったら大人しく試験官のところに来てもらいましょうか」


「黙れ!大人しくしてたらいい気になりやがって……!これで勘違いだったら試験官に言ってテメェらの資格を剥奪してもらうぞ!?」


「……っ、ま、マイン。もういいよ、やめとこ?」


 資格剥奪の一言にユーリさんは怯えたような顔をする。


 だが、逆にその台詞が決め手だった。


 ここまで強気に僕を言いくるめようとする。それは僕の指摘が事実であることの裏返し。確実にこの男はユーリさんを狙ってナイフを振り下ろそうとした!


「構いません」


「…………チッ」


 この勇者試験では弱みを見せてならない。僕らの一挙一動は他のパーティに見られている。


 ここで引くようなことがあればその弱みにつけ込まれ痛い目を見ることになる。僕がかつて勇者試験の時に学んだことだ。


「くそ……だったらここでテメェごと殺してやるぁ!!」


「……っ!」


 次の瞬間。男は懐に忍ばせていたナイフをさらけ出す。その刃には青緑色に光る粘着性の液体がこびりついていた。


 あの色は……!エメラルドセイレーンの毒か!


 遠い島国に存在する希少モンスターエメラルドセイレーン。エメラルド色の鱗を持つ人魚のようなモンスターが使う毒。


 あの毒は遅効性の毒。あの毒にやられた者は一晩の内に二度と目覚めることの無い眠りに犯される。


 そして何より恐ろしいのはその毒の痕跡は一切残さない。暗殺の為の毒だった。


「死に晒せぇぇぇぇ!!」


「この……!」


 僕は堪らず腰に装備したナイフに手を伸ばす。だが相手は勇者候補パーティの1人。僕如きのステータスじゃ真正面から抗える相手じゃない。


 明らかに、出遅れた。やられ……。


「はいはいはーい、そこまでにしときーや」


 その時。僕の視界が突如真っ黒に染まる。


 ギィン!


 そして男の握るナイフが宙を舞い、地面へと突き刺さる。


「な、テメェは……」


「あのなぁ。何のためにワイら勇者がここにおると思てんねん。やるならバレんようにせんかい。バレた時点でおどれらの負けじゃ」


 黒いマント。独特の言葉遣い。


 漆黒の装備に身を固めた若き英雄。僕はそれだけで目の前の彼が何者なのか理解出来た。


「あ、ありがとうございます。【黒天の勇者】アーサーさん……」


「いやいや。なかなか見事やったで、マイン。流石はシデンの右腕やった男やなぁ」


 そう言って振り返ったのは黒髪に赤い瞳。そして超絶イケメンの勇者、アーサーだ。


「ほんなら、こいつと同じパーティの奴ら探せ。失格や」


「はっ」


 アーサーさんはテキパキと指示を出しながら楽しそうに僕を見ている。


「いやー、シデンのとこ追い出されとったって聞いたけど……まさかまたこうして会うことになるとはのぉ!ワイは嬉しいでぇ、マイン!」


「そっれっはっどっうっもっ」


 バッシバッシと僕の背中を叩くアーサーさんに僕は変な声を出してしまう。


「……んで?今のあんさんがサポーターしてんのはこの娘かいな」


「あ、はい。ユーリ・フラムディアさんです」


「……ど、どうも」


 状況についていけないユーリさんが目を回しながらかろうじてそう答えた。


「ふーん……確かになかなかやりおんな。流石はマイン、人を見る目は確かやのぉ」


 ユーリさんをジロジロと観察しながらアーサーさんはそんなことを言う。


「お前さんが来るゆうから見に来たんやけどな。こんなべっぴんで強いお姉さんと一緒なんやったら無駄足やったわ」


「どう言うことです?」


「いんや。お前さんがつまらん冒険者と契約してるんやったらワイがお前さんを引き抜こう思てな」


「「「……………………っ!?!?」」」


 アーサーさんの言葉に勇者試験会場の空気が凍りつく。


 当然だ。アーサーさんは勇者の中でも有名中の有名。そんな人がこんな訳の分からないサポーターを引き抜こうなんて、周りの人からしたらありえないことだからだ。


 もっとも、いつものように僕をおちょくってるだけだろうけど。


「だ、ダメ!マインは私のサポーターだから!」


「わーっとるわーっとる。ワイも無理にマインを連れてこ思てないわ」


「は、はい。そう言っていただけるのは嬉しいんですけど……僕はユーリさんのサポーターであることを誇りに思ってますから」


 素直にそう言ってもらえることは嬉しいんだけど……でも僕にはもう支えると心に決めた人がいる。だからいくらアーサーさんに勧誘されても僕の決意は揺るがない。


「ま、分かっとったけどな。いやー残念やわ、どっかのアホで調子乗りでちやほやされて天狗になって、人の価値も分かっとらん間抜けからよーーーやく、マインがフリーになったってのに……惜しいことしたわ。嬢ちゃん、マインほどのサポーターは他にはおらん。大事にしーや」


 アーサーさんの言葉を聞いてユーリさんは目を丸くする。


 そして少し困ったような顔をした後、頬を赤く染めながら頷いた。


「もち…ろん。絶対に大切にする。他の誰にも渡さない。その為に頑張ります」


「…………ふーん」


 ニヤニヤと笑うアーサーさん。


 そんな彼の視線に何か寒気がする。


「えーのー。羨ましいのー。大事にしーや?」


「あ、当たり前じゃないですか」


「…………んで」


 すると、アーサーさんは僕の耳に手を当てて小声で告げる。




「初体験は……済ませたか?」




「僕とユーリさんは清い関係ですからぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


 試験会場に僕の悲鳴が響き渡ることになった。

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