サポーター。貞操の危機
手を引かれること数分。
街の人々は奇異の目で僕を見ていた。
まぁ、そりゃあ確かに超絶美人が街のど真ん中でこんなパッとしない男の手を無理矢理引っ張ってるなんて状況、珍しいだろうしなぁ。
「……けど」
どうも、それだけじゃないような気がする。
視線の中心は僕というよりもユーリさんだ。
確かに彼女は超絶美人だから周りの目を引くのは分かるけど、何やら気味悪いものでも見ているような、そんな忌避の視線を感じる。
「おい……見ろよ、あの女……」
「あぁ。違ぇねぇよ」
「へぇ……思ったより美人だな。声掛けてみようか?」
「やめとけやめとけ、消されるぞ?」
「っていうか、あの冴えない男はなんだ?」
「きっと、これから追い剥ぎでもされるんだろうよ」
街の人々から聞こえる会話。
何だこの悪評は?
何か、訳ありなんだろうか……?
僕は僕の手を引くユーリさんの背中に目をやる。
ユーリさんはそんなことを相手にもせずにただ前を見てスタスタと歩き続けている。
本人には聞けないしなぁ……。
そんな街の嫌な空気を抜けて、ユーリさんは路地裏の小さなスナックのような店へと入っていった。
ーーーーーーー
「ここは……?」
店の中を見回すと、そこは小さなバーのようになっている。まだ昼間だから客足はなく薄暗い店内が広がっている。
壁には僕の理解を超えた奇抜な壁飾りやどぎつい紋様の壺などが飾られていた。
多分……スナック的な店か何かかな?
「レベッカ、戻った」
「あぁ、ユーリおかえり」
ユーリさんが店の中に声をかけると、店の奥から店の様相に負けないぐらいドギツイ化粧をした小太りの30代ぐらいの女の人が顔を覗かせる。
髪は一つ括りにまとめられており、少し褐色気味の肌が特徴的。
タバコを口に咥えた彼女はユーリさんに連れられた僕をじっと観察するように見つめる。
「……あらぁ?おいしそうな子じゃない。食べちゃっていいの?」
「た…たたた食べるぅ!?」
そ、それは物理的なあれですか!?それとも、性的なあれ!?
「ままま待ってください!僕はまだ童貞なんです!!初めては……もっとこう!!素敵な女性とロマンチックな感じで……」
「違う。レベッカに言われた通り、連れてきたの」
貞操の危機を感じて獅子の前のウサギのように震える僕のことなんてお構いなしにユーリさんは淡々と告げる。
「あたしの言われた通り……って、じゃあこの子がユーリのパーティを組んでくれる人ってこと?」
「ううん。支えてくれる仕事なんだって」
「……ユーリ。あんた私の言ったことちゃんと分かってないでしょ」
ユーリさんの言葉を聞いて何かを察したようにレベッカと呼ばれた彼女は頭を抱える。
僕も同じ。
パーティを組もうとしたから連れて来たわけじゃないの?と、思わず突っ込んでしまいたくなる。
「……?ちゃんと分かってる。支えてくれる人を探しなさいって。だから連れてきた」
「あぁん、そうじゃなくてぇ……。もぉ〜……どうしてあんたはいつもそう……」
「……お説教は聞きたくない」
そして、ユーリさんは嫌そうに顔を顰めながら店の戸を開く。
まるで先生の小言から逃げる子どものようだ。
「じゃ、私仕事がないか見てくるから。後よろしく」
「え?えっえっえ!?ちょっと、ユーリさん!?」
何が…何が起こってる!?一切合切話から置いてけぼりなんだけど!?
そうして僕を困惑の世界に叩き込んだ張本人は我関せずのまま店から出て行ってしまった。
「……あーれー?」
訳の分からない店の中で、初対面のお化粧おばさんの元に取り残された僕はそんな腑抜けた声をあげることしかできないのだった。