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サポーター。胸を張れ

 僕達がネクステンドに来てはや1週間。


 あと2日で勇者試験が始まる。


「今日で練習は終わりにしましょう。後は本番に向けて調子を整えるだけです」


 僕とユーリさんは今日もフィローナの森へと潜り、エンシェント・ディオルマの対策と、その他森の地理把握に務めていた。


「もう、もうあいつの顔なんか見たくない……」


 僕の隣を歩くユーリさんは顔を青くしながらそんなことを言っている。


 無理もない。この間ユーリさんには何度もエンシェント・ディオルマの練習に務めてもらっていた。


 最初の方は何度も何度も足を掬われ引きずり込まれそうになっていたし、実際何度か本当に獲物と認識される寸前までいっていたこともある。


 でも、今はあのエンシェント・ディオルマ相手に自身の気配を悟らせずに行動できるほどに腕を上げてくれている。


「ごめんなさい……でも、必ずこの練習が日の目を見る日が来ますから……」


「………………」


 僕はそうユーリさんを励ますけれど、ユーリさんの眉間には深い深い皺が刻まれている。


「……勇者試験が終わったら、一緒にご飯食べに行く」


「はい、何処へでも食べに行きましょう」


「マインに私のわがまま聞いてもらわないと割に合わない」


「は、はい。なんでも仰って下さい」


「……この前の約束、果たしてもらう」


「はい、この前の約束も……って、約束?」


 僕が首を傾げると、ユーリさんの目がギラリと光る。



「忘れてないから。子犬のクエスト受けた時に私の言うこと何でも聞いてくれるって言ったこと……」



「あ…………」


 そう言えば……ユーリさん何も言わなかったから忘れかけてたけど、そんな約束しちゃってたなぁ。


「…………まさか、忘れてたなんて言わない?」


「ゼーンゼン、オボエテマシタヨ」


 一体、僕はユーリさんに何を言われるんだろう。でもまぁ、レベッカさんじゃないし童貞を食われることなんてことも無いし……。


「……………………」


 そんな事を思いながら、ふと思う。


 もし……ユーリさんにそんな風に迫られたら……僕はどう思うんだろう?


 そう言えば……僕、今ユーリさんと同じ宿屋で寝泊まりしてるんだよなぁ……。


 そりゃ、寝る時は別々の部屋で寝るようにしてるけど……。


「…………………………」


 あれ?これ気がついたらダメだったやつなんじゃ……。


「マイン?」


「は、はひっ!?」


 危ない所へと思考が走りかけていた僕はユーリさんの声掛けで現実に引き戻された。


 危ない危ない。僕はユーリさんのサポーターだ。そんなユーリさんになんてことを考えそうになったんだ。


 顔をパンパンと叩きながら、僕は煩悩を払う。


 僕とユーリさんは清い関係です。そこに他意なんて……。


 僕は隣を歩くユーリさんの顔を見つめてみる。


 誰もが見惚れるほど綺麗な横顔。サラサラの赤い長髪は今日も風になびいて美しいし、風に乗って女性特有の甘い香りが鼻につく。


 青い空のような瞳もまた見惚れるほどに……。



「心頭滅却!!!」



 ゴンッ!!!



 僕は自身の考えを取り払うために近くの柱に自分の頭を叩きつける。


「ま、マイン!?」


 ユーリさんが突然の僕の奇行に声を上げた。


「あ、あはは〜……だいじょぶです……僕はユーリさんのサポーターですから〜……」


 頭から血を噴き出しながらも僕は平静を取り戻す。消えよ邪念。去れ煩悩。


 そんな事をやっていると、ふと何やらネクステンドの入り口が騒がしいことに気がついた。


「あれ……」


 そこに目をやると、今し方この村に辿り着いた1組のパーティ。


「……シデン」


「……グズサポーターか」


 今回の勇者試験を行うことになったきっかけ。勇者の資格を剥奪されたかつての親友と、その仲間達がこの村に辿り着いたところだった。


「何であんたがここにいんのよ」


「まさか……貴様もこの試験に参加するつもりか?」


 僕の姿を見てその後に続くミーアとレックスが僕に問いかけてくる。


「…………そうだよ」


 僕の返答を聞いて、3人の顔が醜悪に歪む。



「ふざけんな!このグズサポーター!よりにもよって、俺らの後釜を決める試験に参加する!?どう言う神経してやがる!!」



「そーよそーよ!私達のおこぼれで生きてこれたあんたなんかが?ふざけんじゃないわよ!これまで誰のおかげで生きてこれたと思ってんの!?」



「俺達に感謝するどころか恩を仇で返す真似しやがって……!」


 

「………………」


 3人の言葉を聞いて、僕は怒りや悲しみすら湧き起こらなかった。


 感じるのは、哀み。


 あぁ、本当にもうあの頃のみんなは何処にもいない。


 サミュエルとブラッドは勇者パーティになってからのメンバーだけど、レックスとミーアはシデンが駆け出しの頃からの付き合いだった。


 あの頃は、みんなでお互い協力しあってやってきたはずだったのに。


 その3人は醜悪に顔をゆがめ、僕を罵る。


 もう、僕は彼らの仲間でも……友人でもないんだ。


「マイン……」


 ユーリさんが何かを言おうと口を開こうとした。だが、そのまま何も言わずに口を閉じる。


 ありがとう、ユーリさん。


 そうだ……これは僕が言わなきゃならないことだ。


 ケジメ。本当の意味で過去と決別するための戦い。



「シデン……」



 それを分かっているからユーリさんは何も言わないでいてくれた。


「僕は……雷の勇者シデンを終わらせるよ」


 決意を込めた拳を握り、まっすぐにかつての友を見る。


「もう……僕の知ってるシデンはこの世にいない。僕が支えたかった君は……いなくなった」


「はぁ!?何を分からねぇことを……」


「僕はユーリさんのサポーターだ。必ずユーリさんを勇者にする。必ず君に勝利して勇者の資格を手に入れてみせる」


 堂々と、胸を張れ。


 ユーリさんという、世界で1番素敵な冒険者を支えるサポーター。僕は今の自分を誇りに思う。


 だから、その誇りに恥じない戦いをする。雷の勇者をも超えて。ユーリさんを勇者に……。


「てめぇ……」


 僕の決意を聞いて、シデンは怒りに震える。


「上等だ……だったらお前に立場ってやつを教えてやる。お前なんて何の存在価値もないことを、証明してやるぜ」


 そう言い残して、シデンは肩をぶつけてどこかへと歩き去っていった。


 慣れないことをした。まだ心臓がバクバクと鼓動を早め、僕の肩もまた震えている。

 

「マイン」


 ユーリさんはそんな僕の肩にそっと手を乗せる。


「頑張ったね」


「……はい」


 ユーリさんの、その一言で僕は救われたような気がした。

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