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サポーター。巨大植物との邂逅

 僕とユーリさんは再び森の奥部を目指して歩き始める。


 流石はユーリさんで一度倒し方を覚えてしまってからは大剣はおろか、その場に落ちていた石ころに【強投】のスキルを使って倒してしまえるほどだった。


 そんな訳で特に危なげもなく小一時間ほど森を歩いていくと、これまで鬱蒼と茂っていた森が突如開ける。


 そこに現れたのは大きな窪地のような場所で、不自然に削られたような岩肌が露出した場所へと出る。


 ここが僕が目指していた目的地。あの地図上で丸く書かれていた地帯だ。


 僕は身を屈めながら、窪地の底の方を覗く。


「ねぇ、マイン」


 すると、僕の後に続くユーリさんがふと声をかけてきた。


「何だか……ここのモンスター、あんまり手応えを感じないんだけど」


 ユーリさんの言うことはもっともで、ユーリさん……いや、勇者の候補に挙がるであろう実力者ならばここに出現するディオルマなんて苦戦することもなく倒せるだろう。


「本当に……ここで勇者試験をするの?」


 これでは、勇者を選別する試験になんてならない。そうユーリさんは感じているんだろう。


「はい、ここに出てくるモンスターははっきり言ってユーリさんから見て雑魚モンスターだと思います。…………とある、一体を除いては」


 そう言って僕はユーリさんを手招きする。


 少し戸惑った表情を見せつつも、ユーリさんは僕の隣で同じように屈んで窪地の底を覗き込んだ。


「……っ」


 ユーリさんが隣で息を呑むのが分かる。


「ユーリさんがこの森に来たことがないって思った理由は、この森ではほぼ異常事態が起こらないからです」


 僕と出会う前のユーリさんはただひたすらに異常事態が起こっている地域に赴いて危険なモンスターを討伐していた。


 だが、この森ではほぼ100%、そんなイレギュラーなんて起こらない。それは何故か。


「その理由は……こいつです」


 眼下に現れたそいつ。


 深い深い窪地の底に、その巨大な身体を広げて佇むモンスター。……いや、もはやこいつはモンスターと言っていいのかも分からない。


 もはや1つの森。幾重にも連なるツルと、その中心に咲き誇るギルドの建物並みに巨大な大きさをした花びら。


「エンシェント・ディオルマ。この森の主です」


 超巨大な植物モンスターがそこに鎮座していたのだ。


「ま、マイン危ない!離れないと……」


「落ち着いてください。こうしてじっとしている分にはあいつは襲ってきません」


 こいつは他のディオルマと違って人型になって動いたりすることはできない。つまり待ち伏せ型のモンスターで、下手にこちらから手を出さなければ何も問題は無いのだ。


「ただ……」


 僕が何か言おうとした時、森の上空から飛来する影。


「ピギィィィイッ!」


 鳥型のモンスター。ハーピーだ。


「っ、マイン」


 ユーリさんが警戒して大剣に手をかけようとした、まさに、その瞬間。



 ビュッ!!



 突如、エンシェント・ディオルマから1本のツルが伸びる。


 それは的確にハーピーの身体を捕らえ、エンシェント・ディオルマの花弁の方へと引きずり落とす。


「ピギィィア!ピィィィィイッ!!」


 ハーピーが断末魔の声を張り上げながら暴れ狂う。しかし、それは逆効果。


 暴れれば暴れるほどエンシェント・ディオルマはハーピーの身体をその花弁へと引きずり、そして……。


 バクンッ!!


 花弁が大きく2つに分かれたかと思うと、中から大きな牙の生えた口が開かれて、グチャグチャと生々しい音を立てながらハーピーを捕食した。


 日々モンスターを討伐しているユーリさんですら、その惨い光景に少し目を逸らしている。


「ご覧の通りです。あのエンシェント・ディオルマはドラゴンですら仕留めてしまうほどの化け物です」


 この森はあのエンシェント・ディオルマの縄張り。下手にここを荒らそうものなら奴に食い殺される。異常事態が起こる前に奴が全て処理してしまうのだ。


「な、何であんなのが放置されてるの?早く討伐しないと危険なんじゃ……」


「いえ、大丈夫です」


 ユーリさんの問いに僕は答える。


「この森は、あのエンシェント・ディオルマの生み出すエネルギーを糧に存在してます。言わばこの森の核です。あれを倒せばこの森が枯れると言われてます」


 あの巨大なモンスターがこの森全体に栄養をばら撒いているらしい。それにあいつはここから動くことはない。だからギルドとしてもあいつを倒す意味はないし推奨もしていない。


「それに……倒せないんです」


「倒せない……?」


「はい。先程見てもらった通り、ディオルマはその核を潰さないと倒せません。あいつの核は地上深くに埋まっていて攻撃が届かない。それにあの巨大な体のどこにそれが眠っているのかも分からないんです」


 倒す意味もないし、倒す手段もないモンスター。それがこのエンシェント・ディオルマ。


 危険だが、触らなければ害の無いモンスターである。


「そして、恐らく勇者試験をここでやる理由もまた、あいつなんだと思います」


 一方で、あのエンシェント・ディオルマは今回の勇者試験にはうってつけだと思った。


 何せあいつは勇者でも手を焼く化け物だ。わざわざこのネクステンドを試験会場に選んだ理由はあいつを何かしらの方法で利用するんだろう。


「だから、下見に来ました。初見であいつを対処するとなったら危険です」


「どうしたらいいの?」


「基本的に、あいつには何もしないでください」


「何もしない……?」


「えぇ。あいつは動くものに反応して攻撃してきます。だからさっきのハーピーみたいに激しく動きを見せればたちまち捕まって食い殺されます。だからこんな風に……」


 僕はそっと立ち上がりながらエンシェント・ディオルマの鎮座する窪地の上を歩く。


 ユーリさんが顔を青くしながら僕を見守っているが、エンシェント・ディオルマは何もしてこない。


「静かに、そっと歩いていきます。そして万が一あいつの触手に捕まっても、決して身動きを取らないこと。暴れれば暴れるほどエンシェント・ディオルマは獲物だと認識して捕まえたものを食おうとしてくるので……」


 エンシェント・ディオルマはどうやらその長寿のせいで目がさほど良くないらしい。


 だからゆっくり動くものは認識できないし、捕まえたものも生き物でないと判断したのなら離して放置するモンスター。


「さぁ、次はユーリさんの番です」


 窪地の底から見えない位置まで歩いてきた僕は、バッグから超強力な鉄でできたロープと鉄槍を取り出す。


 ユーリさんに槍を深くまで突き刺してもらったあと、鉄のロープをユーリさんの体に巻き付ける。


「じゃあ……ゆっくり、ゆっくりですよ」


「……う、うん」


 ユーリさんは顔を引きつらせながらも僕の言う通りそっと窪地の上に立つ。


 ジュルリ……と、エンシェント・ディオルマのツルが動く。その一挙一動に僕は息を飲んだ。


 だが、勇者試験でこいつを利用しないはずが無い。絶対にあいつの対処法をユーリさんに身につけてもらう必要がある。


 さもなければ、初見殺しでユーリさんがあいつの餌食になってしまうかもしれない。


 ユーリさんはそっと、窪地の上を歩く。一歩一歩確かめるように、音を立てないように静かに進む。


 僕もユーリさんに巻き付けたロープを握りしめながらその様子を見守る。


 距離にして数m進んだところで、僕はロープを引っ張る。ここまでできれば上出来だろう。


 ユーリさんもほっと息をつきながら踵を返そうとこちらに振り向いた、その時だった。


 ガラガラっ


「……あ」


 ユーリさんの足元の土が削れる。同時にエンシェント・ディオルマのツタがビクリと動きを見せた。


「ま、まずい……!」


「あ!ダメです!ユーリさん!」


 経験のせいだろう。堪らずユーリさんの体が回避の体勢に入る。同時、エンシェント・ディオルマがユーリさんを獲物と認識。


 逃げようとするユーリさんの足をとんでもない速さで絡め取り、エンシェント・ディオルマがユーリさんの身体を引っ張りだした。


「く……!?」


「お、落ち着いて!ユーリさん!!」


 ユーリさんの体はエンシェント・ディオルマのツタと僕らが仕掛けたロープに引っ張られる形になる。


 僕はユーリさんに巻き付けたロープを引っ張りながらユーリさんに呼びかけた。


「動かないで!動かなければそいつは無理にユーリさんを捕食しないはずです!」


「そ、そんなこと言っても……!」


 ユーリさんは顔を青くしながらも眼下の化け物に目を移す。


 グチャリ、と肉塊になったハーピーがエンシェント・ディオルマの口から覗いている。


 ごめんなさい、ユーリさん。怖いだろうし、正直危険な綱渡りをさせてる自覚はあります。


 怯えるユーリさんに僕は心の中で謝罪する。


 でも、慣れておかないといけない。もし試験本番でユーリさんがあいつに捕まった時、経験しているのとしていないのとでは天地の差が出る。


「大丈夫です!僕を信じて……!」


「…………っ」


 ユーリさんはもう一度だけ、不安そうな瞳で僕の方を見る。けれど、僕の言葉を聞いて意を決したように身体の動きを止める。


 グチ……ガチグチャ


 エンシェント・ディオルマの口を開く音がきこえる。それだけで僕も緊張が走る。


「…………グルル」


 しばらく、そうしていたかと思うとエンシェント・ディオルマのツタが力を失う。シュルシュルと地面を這って本体の方へと戻って行った。


「……は、はぁ」


「お疲れ様でした、ユーリさん。今引き上げますから、動かないで下さいね」


 脱力したユーリさんの体を引っ張りあげながら僕はユーリさんを励ますのだった。

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