サポーター。勇者試験を伝える
僕は息を切らせながら全力でレベッカさんの店へ走ると、店へと飛び込む。
「ユーリさん!ユーリさん!!」
僕は薄暗い店内へと声を飛ばす。
ユーリさんはこのお店の2階に住んでいる。直接部屋に行ったことはないし部屋がどこかも聞いたことはない。いつもレベッカさんに頼んでユーリさんを呼んでもらっているのだが…。
「う…ん…」
今日この日は珍しく店内からユーリさんの声が返ってきた。
「ゆ、ユーリさん?」
てっきりレベッカさんの声が返ってくると思っていた僕は少し驚きつつもユーリさんの傍に行く。
お酒臭い。1晩飲んでいたんだろうか、なんてことを思いながらだるそうに身体を起こすユーリさんに近づく。
「……っ!?ま、マイン!?」
すると僕の顔を見るなりユーリさんが大きな声を張り上げるでは無いか。
「はい!僕ですけど大変ですよ、ユーリさん!!」
「えぇ!?そ、そんなに酷い顔してる!?ご、ごめん!見ないで!!お願いだから見ないで……!」
僕の呼び掛けに慌てふためくユーリさんは距離をとるようにガタンと椅子から転げ落ちてしまう。
「あ、危な……!」
僕はほぼ反射的にユーリさんの腕を掴む。
倒れかけた彼女の体を僕はしっかりと支え、ユーリさんは倒れずに体勢を立て直した。
「……っ」
その瞬間。ユーリさんの顔が真っ赤に染め上がる。
「ばっ、バカ!マインのバカ!!」
「なんで僕怒られてるんですか!?」
一体全体ユーリさんの言動が理解できない僕はただただ困惑することしかできなかった。
「朝っぱらから騒がしいねぇ……何時だと思って……あぁ、マインかい」
そんな風に騒ぎ立てていると、店の奥からレベッカさんが酒瓶片手に顔を出す。
朝から酒盛りかい。
なんて、今はそんなことどうでもいい!
「レベッカさん!大変なんです!」
「そうか、ようやくあたしと寝るつもりになったって?しょーがないねぇ。あんたの童貞散らしてやるから覚悟しな」
「そっちの覚悟はできてませぇん!!」
獲物を狩るジャガーのような目をするレベッカさんから瞬時に距離をとる。僕の操はそう易々と渡しはしない!
「じゃあ何だってんだい、こんな朝っぱらから騒々しい。痴話喧嘩なら他所でやんな」
酒瓶の中身を口に流し込みながらレベッカさんは気だるそうに言う。
「ちっ、痴話っ!?」
一方、ユーリさんはまた顔を赤く染めながら飛び退くように僕から距離をとるでは無いか。
……少々ショックである。
「ち、違うんです!これを!ついに来たんですよ、ユーリさん!!」
暗い影を落とした僕の心を振り切りながら、僕は握りつぶしたその紙切れをユーリさんに突きつける。
「………………っ!」
動揺していたユーリさんの顔が驚きに染まり、そして一気に真剣な顔……冒険者、ユーリ・フラムディアとしての顔に変わる。
「……遂に来たのかい、勇者争奪戦」
そんなユーリさんの様子と、僕が持ってきた紙切れを見てレベッカさんの表情が引き締まる。
僕も2人に強く頷きながらギルドで既に手続きは済ませたこと。隣町ネクステンドにて試験があることを伝えた。
「なるほどねぇ……ってことは、どっかのバカ勇者が死んだか……あるいは落ちぶれたか。まぁ死んだんだろうね。落ちぶれて勇者の資格を剥奪される奴なんてそういやしないんだから。ちなみにどこのどいつの枠なんだい?」
レベッカさんの言葉を聞いて、僕は少しだけ胸を痛めながら言った。
「……【雷の勇者シデン】です」
「……え」
「ほー……何かと噂のあのバカ勇者か」
僕の言葉を聞いてユーリさんは驚き、レベッカさんは呆れたようなため息をついた。
「ま、仕方ないさね。ここ数ヶ月いい噂は聞かなかった。エルフの英雄サミュエルを死なせたからエルフの一族からも毛嫌いされちまってるみたいだし、他の奴らも盗賊紛いのことして度々揉めてるって話だ。むしろ遅かったぐらいさ」
僕の顔をユーリさんがじっと見つめる。
知ったこっちゃない。知ったこっちゃないさ。だって、シデンは僕を捨てた。
「……気にもむんじゃないよ。あんたのせいじゃない」
「分かってます」
だけど、複雑な気持ちにならないといえば嘘になる。
でも、仕方がない。僕が残っていたとしても彼らに何かしてやれた保証だってないし。
それに、今の僕にはシデンとの思い出よりも大切な人がいる。
僕のことを、認めて受け入れてくれた人が。
全てを失った僕に、誰にも必要とされていなかった僕に手を差し伸べて「必要」だと言ってくれた人がいるんだ。
「僕はユーリさんのサポーターです。ユーリさんが望む場所へ行けるように僕の全てをかけて支えると決めています。例えそれでかつての友と争うことになっても、決して揺るがない、必ずユーリさんを勇者にして見せます」
僕はユーリさんに僕の決意を改めて語る。
不安にさせてしまうかもしれない。何せ、今回の試験はかつて僕がサポーターとして所属していたパーティを文字通り潰すことになる。
雷の勇者シデンを終わらせるための試験と同義なんだ。
それでも僕は構わない。ユーリさんが勇者になれるというのならそれでいい。
「……マイン」
僕の決意を聞いたユーリさんは少しの間だけ顔を伏せた。
やがて、顔を上げたユーリさんは立ち上がり、僕の右手を握る。
「うん、必ず勇者になる。私を支えてほしい。マインが胸を張れるように……あなたの誇りになれる勇者になってみせるから」
そして空のように澄んだ瞳がそう僕のことを映し出していた。




