サポーター。救われる
燃え上がるような赤髪と、空のように青い瞳。
その透き通るような蒼が僕をそっと見下ろしていた。
「あなた、マイン?」
「は…はい。どうして僕の名前を?」
自身の名を呼ぶ彼女に僕は半ば放心状態で尋ねる。
「ギルドの受付から、あなたのことを聞いた。助けてあげてくれって。だから助けに来た」
そう言って吸い込まれそうなほど綺麗な青い彼女は僕を見下ろす。
「え…と……ありがとう…ございます」
「礼はいらない。仕事だから」
すると、赤髪の彼女はヒョイと僕を担ぎ上げる。
「あ、あの……!歩けるんで大丈夫……」
「こっちの方が早いから。ほら、暴れないで」
な、なんかとても情けないけど。助けてもらった手前断るのも申し訳ないよなぁ……。
「……あ、待ってください。もう1人いるんです!あの人も……」
僕の指差す先。そこには怯えた様子でこちらを見るロッドの姿がある。
「ひ…ひぃ……!く、来るな……来るなぁぁぁぁぁあ!!!!」
けれど、何故か目の前のこの人の顔を見てロッドは逃げるように走り去ってしまった。
それだけ走って逃げれる元気は残ってたんだなぁ……。
……良かったと思う反面、複雑な気持ちになる。
「……じゃ、行こっか」
そんなロッドの姿を見て、どこか寂しそうな顔を浮かべる彼女がそんなことを言った。
「い、行くってどこに……?」
ゴッ!!
僕の問いかけに対して、返ってきたのは凄まじいまでの旋風。
「う…うわぁぁぁぁぁぁあ!?!?」
その勢いにたまらず僕は悲鳴をあげる。
速い。速すぎて目を開けていられない!?
周りの景色がみるみる後ろへと流れていき、風圧で前髪が何処かへと飛び去ってしまいそうだ。
「少し黙って。舌噛むよ」
ちょっと不機嫌そうに怒る彼女。
「そそそそそうは言ったって……うわぁぁぁぁあ!?!?」
そして僕は飛ぶようにゴブリンの森を抜けて街へと無事帰還するのだった。
ーーーーーーー
ロッドは逃げるようにゴブリンの森を駆けていた。
やべぇ……やべぇ!
あの赤い髪に蒼い目をしたソロの冒険者。
まちげぇねぇ!あいつは【血濡れの女剣士】だ!
あんなのに関わったら、命がなんかあったって足りゃしねぇ!
くそが……覚えてやがれよあのクソサポーターめ……。次にお前にあった時は死んだ方がマシだっていう地獄を見せてやる!ドグランとミゲルの仇を……。
「うぉあ!?」
そんなことを考えていたロッドの地面が突然崩れる。
そして、そのまま深い深い穴の中へと真っ逆さまに落ちていった。
「く…そが……!何だってんだ……」
「グヒヒ……」
「……あ?」
打ち付けた背中を押さえながら顔をあげると、そこにあるのは緑の醜悪な顔。
不細工に突き出した目と、大きく開いた口からボトボトと垂れる涎。
ゴブリンだ。
「どけよ!クセェ息してんじゃねぇよクソモンスターが!!」
ふざけた雑魚モンスターの顔を殴り飛ばす。
普段ならそれでかたがつく。けれど、今のロッドはゴブリン・ロードにやられて本来の様な力を出すことは出来ない。
「グゲヘヘヘ」
ロッドの威力の乗らない拳は、ただゴブリンの怒りに火をつけただけだった。
ちっ。腹が立つがここは逃げるしか……。
ロッドがそう思った時。ゴブリンの背後から迫る無数の影。
「……は?」
ロッドが落ちたのはゴブリン達の作った落とし穴。
そこに落ちて来た獲物を集団でリンチして殺すためのもの。
冒険者の教訓。
かつて、まだロッドが駆け出し冒険者だった頃。ギルドから常々言われ続けていたことがあった。
例え、簡単なダンジョンであったとしても気を抜くことなかれ。
ダンジョンは常に冒険者の命を狙う。少しの油断が奴らの付け入る隙となる。
ゴブリンの森というダンジョン故のトラップ。
穴を埋め尽くすほどのゴブリンの群れが傷まみれで動きの鈍るロッドに迫る。
「く…来るな……!来るなぁぁぁぁぁあ!!!!」
ロッドの悲鳴を皮切りに、一斉にロッドに飛びかかるゴブリンの群れ。
「うっ、ごはっ。グギャァァォア!?!?」
ゴブリンのレベルは高くても10程しかない。
だからこそ、すぐにロッドを絶命させることもなくジワジワとロッドの体を抉り、殴打し、破壊していく。
「だっ、だれかぁ!?誰かぁぁぁぁぁあ!?!?」
暗い暗い闇の底に響く悲鳴は、長い時間をかけて小さくなっていき、やがて、聞こえなくなっていった。