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サポーター。子犬を探す

「…………」


「ゆ、ユーリさん……お願いですから機嫌を直してください」


 ギルドを出て約1時間。


 僕は心の底から不機嫌そうなユーリさんをなだめていた。


 何でユーリさんがこんなに不機嫌なのか?そんなのは簡単。


「何で……何で私がこんなことを……」


 それは僕らが受けたクエストが原因だった。


ーーーーーーー


「今から、迷子の子犬を探します」


「……へ?」


 意気込んでいたユーリさんは豆鉄砲を食らったように目を点にする。


「え…と……コイヌ……か。聞いた事のないモンスターだね」


「いえ、子犬ですよ」


「…………………………へ?」


 聞き間違いじゃ無かったことを告げられたユーリさんの表情がまた凍りついた。


「街の女の子からの依頼で、居なくなっちゃった子犬を探して欲しいって……」


「ま、待って!?そんな依頼なの!?」


「あばばばばぁっ!?」


 ユーリさんが驚愕したように僕の肩を掴むとそのまま力一杯グワングワンと揺する。


「そんなの、私達が受ける意味なんてないでしょ!?もっとすごい任務を受けないと……勇者になんてなれる訳ない!!」


 わぁお……予想通りの反応だけど……ここまで取り乱しちゃうかぁ。


「私……私やらないから!!そんなクエストするぐらいなら別のクエスト受けた方が絶対に……」


「だ、ダメですよユーリさん!お願いですから投げ出さないで下さい!?」


「い・や!私だって急いでるの!少しでも無駄な時間は過ごしたくないし!」


「え、えぇ〜……」


 ギャーギャーとケンカする僕らに挟まれてリアさんは複雑そうに苦笑いしている。


「いい!もう私帰る!」


「あ…あぁ!待って……待ってください……!!」


 ズカズカとギルドから出ていこうとするユーリさんの腕を引っ張りながら僕は懇願した。


「お、お願いです……!受けてくださいよ……!」


「や・ら・な・い!もっと【めーせーど】が上がるクエストさせてってギルドの人に言うし!それでいーでしょ!!」


「い、いや!それでもやってほしいんですぅ!」


 絶対にクエストを受けたくないユーリさんと、絶対にクエストを受けさせたい僕の、苛烈な戦いが始まる。


「無駄な時間は過ごしたくないの!マインのバカ!分からず屋!」


 あぁ……やっぱりこうなるかぁ。


 でも……でも何とかしないと……!



「じゃ、じゃあ!代わりに何か1つ何でも言うこと聞きますから……!」



 ピクっ


 あ、ユーリさんの動きが止まった。


「……何でも?」


 不穏に光るユーリさんの瞳。


「……あ、あれぇ?」


 つい勢いで口にしてしまったけど……もしかして僕、よくない何かを踏んだ?


 てっきり聞き流されると思ったんだけど……。


 でも……でも、もしかして、いける?


「も、もちっ、モチロンデス」


 ええい、こーなったらままよ!


 これでユーリさんが受け入れてくれるなら!僕の身体ひとつぐらい、安いものだ!


「安すぎません?マインさんの身体」


 隣のリアさんの小言なんか聞こえない!


「……それ…な……ら……」


 ギギギ……と、壊れた玩具のようにこっちを振り向くユーリさん。その顔には「本当は絶対死んでもやりたくない」と書いてあるように見えた。


「と…取引成立……ですね」


 気がついたら僕は同じパーティにいるユーリさんなのに、何故か交渉を成立させた行商人のようなことを言っていた。


ーーーーーーー


 そんな訳で、僕は今ユーリさんと街に繰り出して迷子の子犬を捜索しているというわけだ。


「……で、どうしてリアさんも着いてきたんです?」


 僕は後ろで不機嫌そうにしているユーリさんに気まずさを感じつつ、隣を歩くいつもギルドのカウンターにいるはずのリアさんに質問をしていた。


「えぇー?いいじゃないですかー。街の中での子犬探しですし。たまにはマインさんとこうして街を歩きたいんですよ〜」


 そう言ってニコニコと笑うリアさん。


 うーん、とても可愛くて正直照れくさいです。


 童貞の僕にはちょっと刺激が強くて勘違いしちゃいますよ?


 なんて事を思いながら僕はまた街の路地裏やその他に子犬が迷い込みそうなところを回る。


 それでも全然子犬は見つからず、ただただ時間だけが過ぎていった。


「うーん……いませんねぇ」


「そうですねぇ」


 僕とリアさんは2人仲良く溜息をつきながら公園のベンチに腰掛けていた。


 結局、数時間探し回ってみたけれど手がかりすら見つからない。


「……あの、マインさん」


 僕の隣に腰掛けたリアさんが僕に耳打ちする。


 彼女の甘い香りと、くすぐったい吐息に僕はたまらずドキッとしてしまう。


「あの、どうして今回こんなクエストを受けたんですか?」


「え?」


「だって……確かにユーリ様には名声度が足りていません。名声度を上げるためにはこう言った街の人々の困り事を解決したりすることが必要なのは分かるんですけど、もっと割のいいクエストだってあったじゃないですか?」


「……確かに、そうですね」


 僕は公園の端っこの方で拗ねたようにしゃがみ込むユーリさんを眺めながらそう苦笑いしてみる。


「だったら……どうしてなんですか?」


 リアさんは僕の顔をしっかりと見つめながらそう問いかけてくる。


「そうですね。それは……」


 対する僕はリアさん顔を見つめ返しながら答えた。



「今のユーリさんに……必要だと思ったからです」



「ユーリ様に……ですか?」


 僕の答えが予想外だったんだろう。リアさんはポカンと空いた口が塞がらないようだった。


「……ごめんなさい、マインさん。やっぱり私には分かり兼ねるというか」


「あはは……まぁ、そうですね。でもきっと、このクエストが終わった時に全て分かります」


 そうだ。きっとこれは今ユーリさんが通らなければならない道なんだと思う。


 勇者になる上で……いや、そうでなかったとしても。冒険者ユーリ・フラムディアさんに必要なこと。


 僕は自信を持ってそう言える。


 だから、何としてもこのクエストはやりきって見せるんだ。


 そんな風に僕が自信満々に答えた、まさにその時だった。




「……やってられない」




 視界の端っこの方で、ユーリさんがゆらりと立ち上がった。


「へ……?」


「……マイン、頑張ったけど……やっぱり私には無理」


 ズゴゴゴ……と、背中からドラゴンもビックリするような威圧感を醸し出しながらユーリさんは告げる。


「帰る……私にはやっぱり、できない……!」


「あ、あぁ!?待って!待ってください!?ユーリさん……ユーリさぁぁあん!?」


 そして、僕の制止も無視してユーリさんは1人ズカズカと公園を飛び出してしまった。

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