勇者。歪み
ここは瘴気の森。俺が受けたクエストは瘴気の森に現れたドラゴンゾンビの討伐である。
瘴気の森は確かに高難度ダンジョンだが、俺達なら普通にこなせるだけのレベル。ドラゴンゾンビ自体、これまで何度も討伐してきた過去を持つ。
ドラゴンゾンビの報酬と、そのドロップアイテムである朽ちた龍鱗はギルドで高額で取引される。つまり金策には打ってつけのクエストだった。
簡単に討伐して、とにもかくにも金を稼ぐ。そのつもりだったのに。
「く、くそがぁ……!」
俺はダメージを受けて痛む頭を抑えながら膝をついていた。
「お、おかしいぞシデン!」
アーチャーのブラッドが弓を射ながら声を荒げる。
「何で……何でこんなにモンスターに囲まれてんだ!?これじゃあ存分に戦えねぇぞ!?」
そう、今シデン達は瘴気の森のモンスター達に取り囲まれてしまっていた。
故に陣形もクソもない。本来後衛のブラッドや魔法使いであるサミュエルまでもがその攻撃に晒されて存分に力を振るえないようでいた。
「おい!とっととコイツらを追い払わぬか!?」
「そうよ!これじゃあ私達が魔法を発動させる隙もないじゃない!レックス、あんた戦士でしょ!?何とかしなさいよ!」
【大賢者】ミーアもその可愛らしい顔を醜く歪ませながら必死の形相で叫んでいる。
「ふざけんな!こんな……こんな戦いなんざ初めてだ!何だってこんなに戦いづれぇんだよ」
存分に力を振るえない戦士のレックスは苦言を漏らす。
何が……何が変わった!?何でこんなにも戦いづらいんだ!?
初めは小さな違和感だった。けれど、ダンジョンを進むにつれてその違和感は核心へと変わった。
明らかに何かがおかしい。
パーティ全体の連携が上手く機能していないのだ。
必要なメンバーは揃っている。なのに何故?
まるで言うならば機械のパーツは揃っているはずなのにその潤滑油が抜けているような、そんな感覚。
「く……!おい、回復薬出せ!」
シデンはいつものように声を荒らげながら叫ぶ。
けれど、いつもなら声をかける前に差し出されていたはずの回復薬や、弓矢。その他投げ物と言った援護は無かった。
「……………………っ!」
ふ、ふざけるな……!
そんな訳がねぇ……!あんな奴が、必要だったとでも!?笑わせんな!!
目の前のアンデットを斬り伏せながらシデンは心の中で怒り狂う。
違う……!たまたまだ、たまたま上手くいっていないだけ!こんな逆境これまで何度だって経験してきただろ!?
さぁ、やれ!シデン!!お前の技で全てを撃ち破るんだ!!
それが、俺が小さい頃から憧れた!物語の勇者の姿だろう!?
「やるぞ、サミュエル!!俺が活路を作り出す!!その隙にお前の最大の魔法を叩き込めぇ!!ブラッド!お前は前に出て俺の攻撃の隙を作れ!多少のピンチなら俺の必殺技で全て覆してやらぁ!!」
「よ、よし!」
「そ、そうだな!その通りだ!!」
リーダーである俺の声を受けて、パーティに活気が戻る。
「うおおおお!!頼んだぜぇ!!シデェン!」
アーチャーであるはずのブラッドは腰からとあるサポーターから奪ったナイフを抜くとそのまま敵陣の前へと飛び出す。
かなり強引な特攻。ブラッドはすぐに敵に取り囲まれる形となる。だが、それでいい。
その隙にシデンの必殺技で敵を薙ぎ払う。そして敵の懐に風穴を空けてサミュエルの最強魔法。このパーティーの最大火力を叩き込んでドラゴンゾンビを狩る!
「うおおおお!!敵を打ち破る稲妻よ、我が剣に宿れ!!」
シデンはいつものように自身の剣に魔力を込めて敵陣へ飛び込む。サミュエルも詠唱をしながらその後に続く。
レックスとミーアはそれをサポート。完璧だ……完璧なタイミングだ!
そうだ、奴なんかいらねぇ!俺は最年少勇者!こんな逆境、すぐにひっくり返してみせる!
そしてこれまで何百、何千と繰り出してきた必殺技をなんの迷いもなく繰り出した。
「喰らえっ!【ライトニング・ストーム】!!」
轟くシデンの咆哮。
ブンッ
「…………………………………………は?」
ところが、シデンの振った剣は空を切り、彼の必殺技は不発に終わった。
「なん…で……?」
自身の技が不発に終わったシデンは茫然自失としながらその場に立ち尽くす。
彼は知らなかった。いや、知っていた筈なのに忘れてしまっていた。
その技の発動条件を。そしてその発動条件をいつも影で満たしてくれていた日陰者の存在を。
「お、おい……シデ……」
シデンの前方で、当たり前の援護が来ると思っていたブラッドの動きが止まる。
ズドドドドッ!
それと同時。ブラッドの身体にアンデッド達の数多の武器が突き刺さった。
「ぐっ、がべっ!?ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」
「……あ」
目の前で血祭りに上げられる苦楽を共にしてきた仲間をどこか他人事のように眺めながら俺はその場に立ち尽くす。
「お、おい!?シデン貴様何を……」
そんな俺の背後で声を荒げるサミュエル。
その彼の上に感じる影。
「……あ」
グシャン!!
それがドラゴンゾンビの振り上げた前足だと気がついた時にはサミュエルはもうすでに踏み潰された後だった。




