サポーター。目標を決める
「ゆ、勇者ですか!?」
僕は思わず声を上げていた。
てっきり、僕はユーリさんは名声とか富とか……そんなものに興味はないと思ってたんだけど……。
そんな僕の疑問に答えるようにユーリさんは語る。
「うん。勇者になれば、S級以上の任務を受けられるようになるでしょ?」
「は、はい」
勇者とは、冒険者の中でも選ばれし者だけが冠することを許された称号。
数いる冒険者の中でたった30人のみがその称号を得ることができる。
他の冒険者が勇者となるためには現勇者の中から欠員が出るか、現勇者の人からの推薦を受けて勇者の称号を譲ってもらうしかないのだ。
シデンはその数少ないチャンスを掴んで史上最年少の勇者となったわけだけど……。
「どうしてS級の任務を?」
当然、S級の任務は危険がつきもの。
国の存亡を揺るがす重大なクエストや、それこそ世界を支配する6神魔王討伐なんて任務も……。
「サングライト王国に……戻るため」
「あ……」
そこまで言って、僕はユーリさんが何故勇者を目指しているのかを察する事ができた。
サングライト王国は、5年前に6神魔王の襲撃を受けて滅亡した国。
レベッカさんも言ってたっけ……ユーリさんはかつてのサングライト王国出身だって。
「私は、帰らなきゃいけないの。サングライト王国を……あの6神魔王から取り返さなきゃいけないの」
やっぱり、サングライト王国のことか。
でも、ユーリさんはその国であまりいい扱いを受けていないように思っていたんだけど……。
どうしてユーリさんはサングライト王国にこだわっているんだろう?
「あの子を……迎えにいかなきゃいけないから」
「あの子……」
ユーリさんの口から出たその言葉に、僕はハッとなる。
「私にあのライトアーマーをくれた子」
ぐっと何か込み上げてくる感情を抑えるようにユーリさんは言った。
「あの日……あの子は私をサングライト王国から逃すために戦ってくれた。ロックスにやられた私をレベッカに託して」
6神魔王。
それはこの世界を支配する魔の王。それと戦って生き残っただなんて人は、指を数えるぐらいしかいないだろう。
「カミラがいなかったら私は死んでた。だから……私は解放しなきゃいけないの。カミラの代わりに、あの悪魔を倒してあの子が愛したサングライト王国を取り戻すの」
「ユーリさん……」
「……っ」
僕の視線を感じて、ユーリさんはハッと我に返ったように意識をこちらに向ける。
「ご…ごめん。面白い話でもなかったね……。食べよ、私のことなんてどうでもいいし……」
「……いいえ。どうでもよくなんてありませんよ」
慌てて取り繕うユーリさんの手を、僕はそっと握っていた。
瞳からは、涙も溢れていたかもしれない。
ユーリさんの、想いが……とても悲しくて。
きっと、ユーリさんにとってかけがえのない存在だったであろう、その人のことを聞いて。
胸が……とても痛かった。まるで自分のことのように。
「い、いいの。勇者なんてそうそうなれるものでもないし……それにマインに危険が及んじゃうから」
「ユーリさん、忘れたんですか?」
目を逸らしながら告げるユーリさんに僕は言う。
「僕は……サポーターです。あなたのための……いえ、あなただけのサポーターなんです。あなたが辿り着きたい場所があるのなら僕はどこにだってついて行きますし、支えます」
「マイン……」
僕の言葉を受けたユーリさんが僕の顔を見つめ返す。
その顔はどこか驚いたような。それでいて嬉しいような、それとも悲しいような。そんないくつもの感情が入り混じったような顔。
それは、きっと一生僕の心に刻まれるだろうと、そんなことを思った。
見えた気がする。僕がユーリさんのサポーターとしてやるべき事。彼女のための使命が。
僕が進むべき道……それは……。
「お待たせしまし……た……」
「「…………はっ!?」」
すると、そこに料理を持ったウェイターさんがやって来るとお互いに手を握り合った僕とユーリさんを見て、頬を赤く染める。
そこで初めて僕らは手を握り合ってお互いを見つめ合う……それこそまるで熱々のカップルのような状態になっていたことに気がついた。
「すすすすっ、すみません!?!?」
「わわわっ、私の方こそ……ごめん……」
慌てて手を離しながら僕は謝罪の言葉を叫ぶ。
そんなユーリさんは少し自分の手を握りながらそっぽを向いていた。
「ご、ごめん。変なこと言って。ありがと、話を聞いてくれただけで嬉しかった。でも、勇者になるのは無理だから」
「何言ってるんですか!ユーリさんなら確実になれますよ!」
弱気なことを言うユーリさんを僕は力強く励ます。
「ううん。無理なの。今まで何回か勇者を決める試験があったんだけど……そのどれにも私は参加すらさせてもらえなかった。だから……私は勇者になる資格がないんだと思う」
「ユーリさん、安心してください」
そんな弱気なユーリさんに向けて、僕はドンと胸を張る。
「僕……元々勇者のパーティでサポーターやってたんですよ!」
「……………………あ」
ユーリさんの顔が驚きの色に染まる。
そうだ。僕はかつてシデンを勇者にした。
……って言っても、ほとんどはシデンの力のおかげなんだけど。
でも、ユーリさんならきっとシデンと同じように……いや、もっと素敵な勇者になれる筈だ。
「僕に任せてください!僕が必ずあなたを勇者にして見せます!」
全てを失った僕の新たなスタート。
この人を……誰よりも美しくて強いユーリさんを勇者にする。
燃え尽きかけていた僕の人生に新たな火が灯る。
こうして僕はサポーターとしてユーリさんを勇者にすることを目標に決めた。




