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バックヤード通り

 僕とユーリさんは一緒に街を歩く。


 僕らが行くのはこのラザニアス国首都ランドフォールのメインストリート。


 このランドフォールは冒険者業で発展した街。言うならば冒険者の本場と言っても過言じゃない。


 たくさんの冒険者向けの店がたくさん立ち並んでいるのだ。


 僕らが買いに来たのは必需品。即ち回復薬(ポーション)魔力回復薬(エーテル)などの消耗品が中心になる。


 普通の冒険者はここらに並ぶ店の中から良さそうな店を吟味して入店するわけなんだけれど……。


「じゃあ、こっちです」


「え……でも……」


 僕はあえて表通りを避けて路地裏。あまり人気のない道へと足を進ませた。


 少し困惑したような顔をしつつもユーリさんはついてきてくれる。そして……。


「……わぁ」


 ユーリさんはそこに広がる光景を見て目を丸くした。


 そこには表通りほどの広さはないけれど活気にあふれた市場や行商人が店を構える裏通りが広がっていたのだ。


「ここはランドフォールの裏通り……【バックヤード通り】って呼ばれています」


 表通りとはまた違った賑わいを見せるバックヤード通りを物珍しそうにユーリさんはキョロキョロと見回している。


 表通りはギルド直属の公認店や由緒正しい店が立ち並んでいるが、ここは違う。


 ギルドの公認はないけれど、その分安く商品を仕入れたり、表通りには並ばないようなレアな商品が並んでいたりする。


 当然非合法な物とかも出回ってるから最悪金を絞られたり酷い目に遭わされることだってあるけど、うまく活用すればお得に買い物ができると言うわけだ。


「あいよ!このネックレスどーだい!?そこのお嬢ちゃんにぴったりだよ!!」


「ちょっとちょっと!そこのあんた!この回復薬(ポーション)仕入れたてよ!!お買い得だから見てってくんな!」


 表通りとは違ってこんなふうに声を張り上げた集客を行なっている店が多い。


「ねぇ、マイン。あそこのお店の回復薬は?」


 ユーリさんの指差す方に目をやると、確かに相場よりも安い価格で売りに出される回復薬が並んでいる。


「いえ、あれはダメですよ。果物の果実で誤魔化してます」


 けれど僕の目は誤魔化せない。微かに色が滲んでいるのがわかる。


 回復薬特有の甘さや赤い色。


 あれはそれらを誤魔化すために赤い果実を混ぜてある粗悪品だろう。


「へ、へぇ……」


 この裏通りでは知識が命。


 それを怠ったものは骨の髄までしゃぶり尽くされることになる。


 まぁ、もっとも僕はここでの買物には慣れっこだし目利きも随分と鍛えたから大丈夫だけど。


 そんなこんなでしばらく歩き、僕は小さな木造りの屋台の前で立ち止まる。


「え……?」


 見た目はとっても貧相で、みるも無惨な店舗。


 ユーリさんはその光景を前に顔が引き攣っているようだった。


 まぁ、気持ちは分かるけれど……。


「ハルトさーん」


 そんなユーリさんに気付きながらも僕は店舗の陰でゴソゴソと何かを漁っている男の人に声をかけた。



「ややっ!?その声は……マインじゃないかぁ!」



 一呼吸の後、屋台からひょっこりと顔を出したのはひび割れた眼鏡をかけた貧相な男の人。


 歳にして大体20代後半。ひょろっひょろの手足にぼさっとした灰色の髪の毛。優男という言葉がピッタリと似合う僕行きつけの回復薬屋さん、ハルトさんだ。


「もぉ〜!心配したよぉ!?役立たずって言われてシデンのパーティ追い出されたって、モモカちゃんも気にかけてたし……大丈夫なのかい!?」


「えぇ、お陰様で。こんなどうしようもなくて……役立たずで器用貧乏な僕ですが……」


「ぼ、僕そこまで言ってないよね……?」


 ズーンと、暗い空気を発しながら僕は続ける。


「でも、こんな僕を拾ってくれる人がいてくれたので……今はこのユーリさんのサポーターとして頑張らせてもらってます」


 そう言って僕はハルトさんにユーリさんを紹介した。


「は、はじめまして……」


「ややっ!?君は……あの有名な【血塗られた女剣士】、ユーリさんじゃないか!」


 すると、ハルトさんはユーリさんの顔を見るなり驚いた様子で声を張り上げる。


「……」


 そんなハルトさんの言葉を聞いて、ユーリさんの表情が曇った。


「は、ハルトさん!ユーリさんは【血塗られた女剣士】なんかじゃありませんよ!撤回してください!!」


「あ…あぁ。ついついびっくりしちゃって……悪い癖だよ、ごめんね」


 そう言いながらハルトさんは屋台の下からゴソゴソと何かを引っ張り出す。


「お詫び……って訳じゃないけど、これ!マインがパーティを追い出されたって聞いたから準備したんだ。もっとも、無事に新しいパーティを組めたみたいだから、これはそのお祝いってことにしようかな」


 そう言ってハルトさんはドカッ!と抱えるくらいの木箱いっぱいに入った回復薬(ポーション)を置いた。


「え……いや、待ってください!?こんなの……頂けませんよ!?」


「なぁに言ってるんだよ、僕と君の仲だろ?マイン。こんな誰にも見向きされなかった僕の回復薬(ポーション)を見初めてくれた上客様だ!それに君がいなかったら僕の店は完全に潰れてしまっていたんだ、これぐらい貰っておくれよ」


 なんとか断ろうとする僕をよそにグイグイと木箱を押し付けてくるハルトさん。


「あの……ハルトさんはマインとどんな関係なの?」


 そんな僕らのやり取りを見て、不思議そうな顔でユーリさんが問いかけて来た。


「ややっ!よくぞ、よくぞ聞いてくれたよユーリさん!」


 すると、なぜか目を輝かせたハルトさんがユーリさんに詰め寄る。


「僕がまだ、駆け出しの放浪者だった時……!僕はこのハルト特性回復薬のレシピを持ってこのランドフォールにやって来たんだ」


 思い出を語るようにハルトさんは晴れ晴れと続ける。


「けれど……この街は非情だった!この僕の携えた最高の回復薬は中々受け入れられなかったんだよ!」


 ガックリと地面に突っ伏しながら嘆くハルトさん。


 激しいハルトさんの情緒に振り回されるユーリさんはどうしたものかと、オロオロしている。


「だけど!こんな僕に転機がやってきた。それがそう!ここにいるマインなのさ!!」


「へ、へぇ……」


「は、はい。丁度ハルトさんが薬草採集のアシスタントとかのクエストを貼り出してて、僕がそれに協力したんです」


 それが僕とハルトさんの関係の始まり。


「僕の回復薬は他のものとは違って1つ特別なアイテムが必要!でもそこにいくには厄介なダンジョンを通らないといけなかったんだ」


「で、僕はそのダンジョンを攻略したことがありましたし僕のレベルなら問題なくハルトさんを護衛できるぐらいのダンジョンだったので」


 ここからちょっと離れたところにある【麗しの泉】。出現モンスターは昆虫種を中心とした小型のモンスター。


 出てくるモンスターのレベルも10前後で大したことはない。


 他の冒険者としても別に旨味のあるダンジョンじゃないから誰もハルトさんの依頼を受けてくれなかったらしい。


 そんな【麗しの泉】の隠しルート。


 最奥にある妖精の泉から汲み取れる【妖精の雫】がハルトさんの回復薬の隠し味。


 そんじょそこらの回復薬よりも効果は絶大。しかも値段は安いと来たものだ。


 そんな彼の難点としては、知名度が恐ろしく低いこととハルトさんの経営力が低いこと。そして材料調達に協力してくれるパーティがいないということだ。


「でも!マインはこんな僕のために一緒に【麗しの泉】に潜ってくれるんだぁ!」


「はい。ハルさんの回復薬の魅力を知っちゃったら、協力しないわけにはいかないので」


 そう、安くてそして良質な回復薬を作ってくれるハルトさん。材料調達の見返りとしてハルトさんは僕に商品の値引きを行ってくれる。


 その金額は店で買うよりも数段お得なんだ。


「だから、僕はマインが新しい門出をしてくれて嬉しいんだよ……。だから、どうか受け取ってくれないか?」


「ハルトさん……」


 うーん……そこまで言われてしまったら受け取らないわけにはいかないじゃないか。


 正直、今僕らの懐もそんなに暖かいわけじゃないからとても有難い話だし。


「分かりました。それじゃあ、有難くいただきます。でも、今度お礼にまた一緒に【麗しの泉】に行きましょうね!」


「もちろんだとも!楽しみにしているよ、マイン!」


 こうして僕らは無料で大量の回復薬を手に入れることに成功した。

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