サポーター。決断する
ユーリさんと別れてギルドに顔を出した僕を見て、リアさんは顔面を蒼白にしながら僕の元へ駆け寄ってくる。
「マインさん!?どうしたんですか!?何があったんですか!?」
「い、いやぁ〜……色々トラブっちゃって……」
苦笑いしながら僕はリアさんに今回のクエストの報告をする。
「ねぇ……ねぇ、どうしてあなたはいつもいつもそう危ないことに足突っ込むんですかぁ!?」
「しっ、仕方ないじゃないですか!?そうでもしないと帰ってこれなかったんですぅ!?」
ぐわんぐわんと首を揺さぶられる僕は悲鳴を上げてリアさんに慈悲を嘆願する。
首が……首が、もげるぅ!?
「マインさん……私、決めましたよ……」
僕の嘆願虚しく、ズゴゴゴゴ……と、魔王すらも殺せてしまいそうな威圧感を出しながらリアさんは僕の襟を鷲掴みにする。
「もう!必ずマインさんを大切にしてくれる信頼のおけるパーティに入れて見せますからね!?」
「え…えええ!?それはありがたいんですけど……そこに僕の意志は反映されるんでしょうか!?」
「マインさんの意志ばっかり尊重してたら命がいくつあっても足りないですから!さ・い・て・い・げ・ん・で・す!」
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
本来ならここまで親身に再就職に向けて動いてもらえることに感謝すべきなんだろうけど……。
鬼気迫るリアさんの姿を前に、僕は何故か震えが止まらないのだった。
ーーーーーーー
談話室へと連れられた僕は、リアさんからいくつかのパーティの情報を見せてもらっていた。
「こっちのパーティは……レベルは低いけど同じ村の出身で連携も安定してる。こっちは前のロッドさんとは違って悪行値の一切ない信頼できるパーティです。それからこっちは……」
パラパラといくつものサポーターを探している冒険者の情報を見ながらも、僕はどこか上の空だった。
僕の頭を支配するのは、窓の向こうに広がる蒼い空のような瞳と、あの真っ赤に光る太陽のような真っ赤な髪。
「マインさん。マインさーん!聞いてますかー?」
そんな呆然とする僕の頬をペシペシと叩くリアさん。
「……はっ」
ふるふると首を振りながら、僕はリアさんの方に意識を戻す。
「もう、しっかりしてください。あなたの今後がかかってるんですよ!マインさんが帰ってくるまでにたくさん準備して来たんですから……もう前のような轍は踏みません。安心してください」
自信満々に告げるリアさん。よく見ると化粧で誤魔化しているけど目の下にうっすらとクマがあるのが分かる、
そこまでしてくれたことは、とても嬉しいしありがたい。
だけど、やっばり……そうだよな。
僕が、今支えたいと思える人はあの人しかいない。
「ごめんなさい、リアさん。やっぱり、僕もう一度ユーリさんにお願いしてみます」
「……え?」
僕の言葉を聞いたリアさんは目を丸くしている。
「ほ、本気なんですか!?その右手を見てくださいよ!今回そんな目にあったんですよ!?今回は無事に帰ってこれたけど、次もそうとは限らないじゃないですか!?」
テーブルに両手をつきながらリアさんが叫ぶ。
確かに、リアさんの言う通り今回僕は死んでもおかしくないような目にあった。
いや、正直命を拾ったのはラッキーだったとしか言えないだろう。
「それでも……僕はあの人を支えたいんです」
それでも……いや、だからこそあの人を放っては置けないと思ったんだ。
「そりゃ、僕なんかがあの人に何ができるかなんて分からないし、きっと分不相応だってことは分かってます。ユーリさんはわがままだし、子どもっぽいし……不器用だけど、本当は優しくてまっすぐなんです。僕は……あの人を見捨てられません」
僕の言葉を聞いたリアさんはポカンと、口を半開きにしている。
やがて、すっと背筋を伸ばしてもう一度僕を真剣な顔で見つめ返してきた。
「やっぱり……私には分かりかねます、マインさん。あなたにそこまで辛い思いをさせたはずのユーリ・フラムディア様と、どうしてあなたはまたパーティを組みたいと……何でマインさんはそこまでユーリさんにこだわるんです?」
リアさんの問いは、至極真っ当なものだと感じた。
そうだ、きっと普通の人ならそんな風には思わないだろう。そんなことは僕が1番分かってる。
きっと逆の立場なら僕だって全力で止めるだろう。
でも、これは僕の悪い性分だ。
僕はあの人が1人、ダンジョンで死んでいく姿なんて想像したくない。
お節介なんだろう。きっと、馬鹿なんだろう。
それでも、僕は……。
「ユーリさんは血塗られた女剣士なんかじゃない。心優しい素敵な冒険者だ。それを、僕が証明して見せます。その為に僕は僕の全てをかけてあの人を支えたいんです」
ずっと、シデンのサポーターとして生きて来た僕が見つけた新たな道。
シデンの他に初めて支えたいと思えた人。
僕は、あの人の支えになりたい。血塗られた女剣士だなんて、悪名を払拭したい。
「……ふーん」
僕の言葉を聞いたリアさんは、やがて何か悟ったように息を吐き出す。
「しょうがない人ですね、マインさんは。あなたのために調べ上げたこの冒険者のリスト……無駄になったじゃないですか」
「ご、ごめんなさい」
リアさんが作成したリストは簡単な小説ぐらい出来そうなぐらいぶっとい。
それだけ真剣になって考えてくれてたんだろう。正直申し訳なさすぎて仕方ない。
「はい、本当に。だから今度マインさんにご飯でも奢ってもらわないと気が済みません」
それでもリアさんは僕の気持ちを汲んで、優しい笑みを浮かべてくれた。
「もちろんです!せっかくリアさんがここまでしてくれたんで、そんなぐらいならお安い御用です!!」
「やった!気になってた高級料理店があるので……」
「うぐっ!?」
何だと!?今の僕に高級料理店に行く余裕なんてないぞ!?
「その代わり、ちゃんとユーリさんのサポーターになってくださいよ?私が折れた意味がなくなるんですから」
「はい!任せてくださ……」
そう言って僕は立ち上がってユーリさんのところに駆け出そうとした。
まさに、その時だった。
バン!
破れそうな勢いで開かれる談話室の扉。
驚いてそちらに目をやると、そこにはまさに話の中心人物。赤い髪を揺らしたユーリさんが立っていた。




