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サポーター。原点に帰る

「う…ん……」


「おぅ、起きたかにいちゃん」


 目を覚ますと、僕は酒場のカウンターに突っ伏していた。


「昨日は随分飲んでたじゃねぇか。何かやなことでもあったのか?」


 そう言ってマスターは僕に一杯の水を渡してくれた。


 そうか……確か、宿屋を出てここでヤケ酒してたんだっけ。


 頭が痛い……完全に2日酔いだ。


「いえ……ちょっと、パーティで揉めちゃって……」


 頭を抱えながら僕はマスターから渡された水を飲み干す。


 それでも、胸に溜まったモヤモヤは晴れちゃくれなかった。


 窓を見ると優しい陽の光が差し込んでいる。もう朝になったらしい。


 そんなことを考えていると、ふとマスターが僕に語りかけてくる。



「しばらくお前さんを見ててどっかで見たことあるなぁと思ってたが……今ようやく思い出したぜ。兄ちゃん、勇者シデンのとこのサポーターだろ」



「……は、はい」


 そっか。シデンはこの国が注目する若手勇者だ。


 勇者。


 それはS級クエストを受けることが許されたギルドから選ばれし存在。


 S級クエストは国を揺るがすような重要な任務や、強大な敵を相手にするクエストばかり。


 中には6神魔王を相手にするものもあるくらい。


 定員は限られていて、そこに欠員が出た時に初めて承認試験を受け、合格した者だけが冠することを許される称号だ。


 当然勇者は熟練の冒険者が多い中で、シデンはまだ僕と同じ18歳。


 かなり若手で期待の存在なのだからそのパーティメンバーだった僕のことを知っていてもおかしくないだろう。


「いや。お前さんら、何年か前にここに来たことあったろ?」


「え……?」


 でも、マスターが口にしたのは僕の想像とは別の言葉だった。


「その時もお前さんはそこの席に座って、ジンジャエール頼んでたろ?若いながら、必死なお前さんの姿が印象的でな……覚えてたのさ」


 そう言うとマスターはそっと僕にパンとウィンナーを炒めた簡単な朝食を出してくれる。


「ありがとうございます。……あの頃は若かったなぁ」


 どこかのおじさんのようなことを言いながら僕は出されたウィンナーに噛み付く。


 駆け出し冒険者だったあの頃は、本当にがむしゃらだった。


 なかなか上手くいかないダンジョン攻略。傷つき倒れる僕らの仲間たちを引きずって何度も何度も炭鉱から逃げ出したっけ。


 何としてでもあのインゴット炭鉱を踏破するために、この酒場でたくさん情報を集めたりした。


 サポーター、マインの奮闘の日々。


「……でも、捨てられちゃったんですよ」


 あれだけ必死にパーティのために尽くしてきた。だけど、それは僕の独りよがりだったのかも知れない。


 シデンはあの頃とは違う次のステージへと行ってしまった。


 けれど、僕は今もまだこうして泥臭く地道な努力を重ねている。


 きっと、ユーリさんもシデンと同じ世界の住人なんだろう。


 僕みたいな、せこいマネをしなくてもやっていける。だから、僕なんかが本来口出ししちゃいけなかったんだ。


 あの人の冒険を……僕は汚したんだ。


「いんや。お前さんはそれでいい」


 だけど、酒場のマスターはそう言ってくれた。


「冒険者なんてなぁ、どれだけ立派な武功を立てようが死んじまえばそれで終わりさ。例え立派に活躍してるような奴らでも、長くやってる奴ほどお前さんのような地道な努力をやってる。それを怠った奴はいつか足元を掬われる。それがこの冒険者って職業なのさ」


「……」


 僕はパンをちぎりながら口に放り込む。


 本当に……そうなんだろうか?


 もう、僕は分からない。


 度重なる拒絶が……僕の自信という物を完全に喪失させ、行き先もわからない闇の中にいた。


「そんじゃ、原点に立ち返ってみな」


「原点に……?」


 そんな僕にマスターは告げる。


「あぁ。お前さんが何年もの間サポーターとしてやってきた矜持はなんだ?」


「それは……」


 それは、みんなを支えること。


 あの、突っ込むことしか知らない大馬鹿野郎を守るため。


 それが、僕がサポーターとして生きることを選んだ理由。僕の原点。


 今の僕に、守るべき背中なんてもうない。何を支えるべきなのか。僕には……。


「……」


 今、あの人はどうしてるんだろうか?


 また、あの炭鉱に1人飛び込んでいるんだろうか。


 頭をよぎるのは、ユーリさんの昨日の傷ついた姿。


 ボロボロで僕の肩につかまる弱々しいあの姿だった。


 それでもきっと、また彼女はワーウルフ・キング討伐のために炭鉱に向かっているに違いない。


 気がついたら、身体が勝手に立ち上がっていた。


「……行くのか?」


「……はい」


 行かなきゃ。


 望まれてなくたっていい。


 きっと、これは僕の性分。もっと言えば、僕のわがままなんだ。


「ほっとけないんです」


 必要とされなくたっていい。


 後でまた、邪魔だと蔑まれるだろう。


 そうだったとしても……。



「僕はサポーターだ。例え必要とされてなくても……僕は守りたいと思ったあの人を守るんだ」



 そう言い残して、僕は酒場を後にすると、そのままの足でインゴット炭鉱へと駆け出した。

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