サポーター。無知を知る
何だかんだあって、僕とユーリさんは目的のインゴット炭鉱の1番近くの町。オーアという町にたどり着いた。
長らく馬車に乗っていたこともあって硬くなった身体をほぐしながら僕は町を見上げる。
「【炭鉱の町オーア】……か」
サポーターになって1年くらい経った頃にやってきたことがあった気がする。
あの頃はワーウルフ相手にもヒーヒー言いながら戦う日々だったなぁ。
……ダメだダメだ。感傷に浸ると涙が出そうになる。
とりあえず、まずは拠点の確保だ。
「ユーリさん。それじゃあまずは……」
「インゴット炭鉱に行ってワーウルフキングを倒す……ね」
…………………………………………はい?
「え…と……まずは拠点の確保を……」
「いらない。すぐ行って倒せばそれで済む」
「ちょっちょっちょっちょお!?」
待って!?ユーリさんは何を言ってるんだ!?
「待ってください!インゴット炭鉱は何百年にも及ぶ歴史のある炭鉱で、その広さは山丸々ひとつ分はあるって言われてるんです!件のワーウルフキングはその炭鉱のどこに潜んでいるかも分からないんですよ!?」
「全部殺せば向こうから出てくる」
「でてきません!ワーウルフキングがいる限り、その配下のワーウルフは無限に出現するんです!それに普段はレベル20ぐらいの小物ですが、ワーウルフキングのスキル、【半狼の王】の効果でそのレベルも40近くなるんです!それが無限です!いくらユーリさんが強くても多勢に無勢、数で襲われたら終わりです!」
そう、ワーウルフキングの厄介なところはその強さだけじゃない。
圧倒的なその兵力にあるんだ。
いわばインゴット炭鉱は今やワーウルフキングの牙城。そこに何の準備もなく乗り込むなんて、命が何個あったって足りはしない。
ましてや何かの罠とかも仕掛けられているかもしれない。ダンジョンは魔物なのだ。
「私ならできる。邪魔しないで」
「ーーーー?!?!」
「私の炎のスキルさえあれば、ワーウルフキングなんて一撃で葬れるから。ワーウルフキングさえ見つけてしまえば終わりよ」
やばい。この人本気だ。本気で今から単身インゴット炭鉱に乗り込むつもりだ!?
「こ、このクエストの間は!僕が行動の決定権を持つんですよね!!」
ズカズカと炭鉱のある山に向かって歩き始めるユーリさんに向かって僕は声を張り上げる。
レベッカさんとの約束。
今回のクエストの主導権は僕が持つことになっている。一体何でだろうと思ったけれど、こう言うことなら仕方がない。
「ここでまずやるべきことは拠点を構えることです!確実にワーウルフキングを倒せるように、まずは情報を集めましょう!!」
「………………」
うーわ、めっちゃ嫌そうな顔してるなぁ……。
「……………………………………………………………………………………わ…かっ……た」
家を間借りしているレベッカさんの威光があって、何とか絞り出すようにユーリさんは頷く。
あぁ、やれやれ……。先が少し思いやられるなぁ……。
そんな事を思いながら僕はかつてシデン達と泊まった宿屋へと足を運ばせた。
ーーーーーーー
「へいらっしゃい」
「はい。1人部屋を2つ。1つは1番安い部屋で」
僕はいつものように宿屋に宿泊の手続きを始める。
「……ほぅ」
すると、宿屋の主人が何やらニヤリとしながら僕の後ろのユーリさんに目を向ける。
何だろう。
確か、ユーリさんって有名なんだっけ?血塗られた女剣士だとか何とか。それに、こんなに美人なんだから目を引くって事だろうか……。
「よし、2部屋で2万ルピだ!」
…………………………………………………………………………………………………………は?
「え……あの?食事はこちらで準備するので宿泊だけで構いませんよ?」
「おぅ、だからそれで2万ルピだってんだよ」
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?」
思わず僕は声を張り上げる。
「そんなわけ無いでしょう!?前ここ使わせてもらった時はこれで1泊200ルピでした!!それが何で100倍になってるんですか!?」
「……ちっ」
宿屋の主人は不機嫌そうに舌打ちをしている。
「ユーリさんからも言ってやってください!こんな法外な金額、ありえないって!!」
「何言ってるの?」
バンバンとカウンターを叩きまくる僕に向けてユーリさんは不思議そうな顔で首を傾げている。
「宿屋なんて、それぐらいが普通じゃないの?だから宿屋に泊まるのは嫌だったんだけど」
「ユーリさぁぁぁん!?」
僕は思わず雇い主であるユーリさんの肩に掴みかかっていた。
「ありえませんよ!VIPの部屋からともかく、僕らが泊まるのは普通の客室です!!せいぜい高くても数千ルピぐらいが相場ですよ!!こんなの、ぼったくりです!!」
「嘘、だって私が宿屋を使う時はだいたいこんな感じ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
僕は息をすることも忘れて絶句する。
なるほど……そうか、理解したぞ。
「……あぁ〜ったく、そうだよ。バレちゃしょうがねぇか」
宿屋の主人は少しバツが悪そうな顔で語り始める。
「そいつ、血塗られた女剣士ユーリだろ?商人とかの間じゃ有名なんだよ、『カモ』だってな」
「や、やっぱり……」
僕はガックリとその場に項垂れながら呟く。
なるほど……何でユーリさんがこんなに貧乏なのか、ようやく理解できた。
答えは簡単。宿屋とか商人にカモられてるからだ。
「てんで常識なんてもんがない。だから言い値で金を支払ってくれるってな。粗悪品だろうが何だろうが、区別もつかない。そいつが来たらカモれるだけカモれ……そう言う話がここいらで有名な話だ。だから悪かったな、兄ちゃん」
高レベルのユーリさんの任務……当然その報酬も高額に決まっている。
だけど、こうしてその報酬をこう言う悪い人たちに騙し取られてきたんだろう。
「じゃあ、1つこう言っといてくださいよ」
僕は再びバンバンとカウンターを叩きながら宿屋の主人に宣言する。
「もう、ユーリさんをぼったくらせやしない。僕がサポーターとしてついている以上、ユーリさんから一銭たりたもぼったくることはできないって、そうみんなに言っといてください!」
「あ、あぁ……わぁったよ」
ギラリと鬼気迫る僕を見て、宿屋の主人は苦笑いするしかない様子だった。




