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記憶喪失の姫は偽りの従者の執着愛に囚われる  作者: 奏 舞音
第7章 箱庭の崩壊とこれから

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「それと、もうひとつ」


 シルヴィオは、皇帝が何か発言する前にまた予想外のことを口にした。


「私たちの結婚を認めてください」


 シルヴィオの表情は真剣だった。

 この場で冗談を言うような人ではないと知っているし、これから先も二人でいるということはそういうことなのだろうとは思っていた。

 しかし、だ。


(今この場で言うことじゃないでしょう⁉)


 不敬だと捕らえられやしないか。

 反応が怖くて、皇帝の方を見ることができない。

 シルヴィオが立て続けにとんでもない要求をするせいで、リリーディアは喜びよりも戸惑いと驚きの方が大きく、内心かなり狼狽えていた。


「陛下にとっても、悪い話ではないはずです。あの魔物だらけの国を治めるのは大変でしょう。厄介事も、魔物か魔素絡みなのでは? 魔素はうまく使えば魔術師の戦力となりますが、一方で人に害をなす場合もある。私は魔素を退ける結界を張れますし、魔物を捕獲して使役することも可能です。そして、彼女は必ず民の信頼を得るでしょう。きっと、サウザーク帝国の繁栄に貢献できると思いますよ。私の望みを叶えてくださるのであれば、ですが」


 シルヴィオがそんなことまで考えていたとは思わなかった。

 リリーディアは、真剣な表情で皇帝に交渉しているシルヴィオを横目に見つめる。


(私が、クラリネス王国のために何もできなかったと言ったから……?)


 シルヴィオは、リリーディアの望みを叶えてくれようとしている。

 先ほどの戸惑いとは違う意味で、胸が高鳴る。

 諦めていた過去からの希望が顔を出す。


「それに、陛下もそのつもりだったから、私を探していたのではありませんか?」


 シルヴィオの問いに、ついに皇帝は腹を抱えて笑い始めた。


「……ははははっ! 本当に、君は初めて会った時から変わらない。皇帝相手でも物怖じせずに、自分の主張を貫き通せる人間はそうそういないよ」

「ありがとうございます」

「別に褒めている訳でもないのだが、まぁいい。君はそういう人間だ。クラリネス王国が君を持て余した理由が少し分かるな。だが、君の大事な人に手を出さない限り、君は我が帝国に従い、牙をむくことはない。そうだね?」

「もちろんです」


 シルヴィオが頷くと、皇帝は大きなため息を吐いて脱力する。


「君が言うとおり、私は君にクラリネス王国を任せるために探していた。君の大事な姫のことも、一緒にいるなら守ってあげる条件で、また恩を売ろうと考えていたのだが、先手を打たれてしまったな……」

「私は、姫に対することなら強欲なので、負けてあげることができません。それで、陛下。お返事は?」

「あぁ、そうだったな」


 やれやれ、と言った様子で、皇帝は立ち上がった。

 そして、宣言する。


「本日より、シルヴィオ・ストリヴィアとリリーディア・クラリネスを統治領クラリネスの共同統治者とする」


 謁見の間に皇帝の言葉が響く。


(ほ、本当に……? 私が、クラリネス王国を……?)


 正確にはもう独立国としてのクラリネス王国ではないけれど。

 それでも、魔力がないと蔑まれ、無能だと誹られ、最後にはこの血を捧げることでしか役に立てなかった王女である自分が――。


「リリーディア?」


 心配そうなシルヴィオの声が耳元で聞こえて、リリーディアはハッとする。

 まだ信じられない思いでいっぱいだが、皇帝からの異例な待遇に礼を言わなければ失礼にあたるだろう。


「……陛下からの恩情に感謝いたします」


 丁寧な礼をみせると、皇帝はにこやかに微笑んだ。

 権力者に対する怯えが完全になくなった訳ではない。

 それでも、サウザーク帝国のアウディストは、理不尽に奪い、力で解決しようとする人間ではなかった。

 だからこそ、シルヴィオが彼に仕えていたのだとリリーディアは納得する。


「シルヴィオの相手は大変だろうけど、よろしく頼むよ」


 皇帝はお揃いのドレスコードで並ぶ二人を交互に見て、苦笑を漏らす。


「ご心配ありがとうございます。ですが、シルヴィオと一緒にいることが私の幸せですから」

「そうか。では、改めて、結婚おめでとう。客間を用意させているから、ゆっくり休むといい」


 そう言って、皇帝は席を外す。

 平和的に謁見を終えることができたことに、リリーディアは心から安堵した。


お読みいただきありがとうございます。

第7章終わりです。

次回、ついにエピローグです!

最後まで見守っていただけると嬉しいです!!

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