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リリーディアは牢獄で厳重に繋がれたシルヴィオに会いに行った。
初めてシルヴィオに見惚れてしまったあの時を思い出す。
しかし、あの時とは何もかもが違う。
リリーディアはシルヴィオのことが好きで、きっと彼も同じ想いを抱いている。
立場上、その想い口にしたことはない。
口にせずとも、ずっと一緒にいられると思っていたから。
自分はなんて愚かで、強欲だったのだろう。
「姫っ! ご無事でしたか!」
自分は傷だらけで、痛々しい見た目をしているのに、真っ先にリリーディアの心配をする。
シルヴィオはいつも、リリーディアを優先してくれる。
そんな彼に甘えるのが好きだった。
リリーディアの我儘に、困ったように笑ってくれる表情が好きだった。
一緒にいる時間が愛おしくて、大切だった。
「ちゃんと躾けたつもりだったのに、肝心なところで使えないのね」
――もっと、私がうまく立ち回ることができたなら、シルヴィオをこんな目に遭わせることはなかったのに。
本気を出せばこんな鎖も、牢獄も、シルヴィオにとっては意味をなさないものなのに、こうして大人しく繋がれているのはきっと、リリーディアの立場を守ろうとしているから。
傷ついたリリーディアを見た瞬間は冷静さを失っていたけれど、今はきっとわきまえている。
「国王陛下に手を出すなんて、本当に馬鹿な化物だわ」
――馬鹿なのは、私。
ぐっと拳を握って、リリーディアは冷ややかな笑みを浮かべて見せる。
「シルヴィオ。あなたはもう私には必要ないわ」
言葉にした瞬間、心臓がぎゅっと握りつぶされたように痛んだ。
「……もう、俺はいらないと?」
「えぇ」
「俺は、姫のものなのに?」
金の双眸が、リリーディアをまっすぐに見つめる。
その視線を受け止めることができず、リリーディアは俯いて、心ない言葉を吐き続ける。
「あなたはもう私のものじゃない」
「姫、何があったのか話してください」
「あなたを捨てなければ、私は処刑されるの。命をかけて化物を守りたいと思うはずないでしょう? 私はこの城で生き残るためにあなたを利用していただけ。それなのに、あなたの馬鹿な行動に巻き込まれるなんてごめんだわ」
シルヴィオのためなら、命など惜しくはない。
けれど、彼もまた、同じようにリリーディアのために命を懸けようとするだろう。
だから、リリーディアの命を盾にするのは、最後の手段だった。
「あなたが素直に私の前から消えてくれれば、私には何の処罰もないわ。だから、私のためを思うなら、この国から出て行って」
「……分かりました。それがあなたを守ることになるのなら」
そうして、シルヴィオは複数人の魔術師によって強力な魔術封じの術を施された。
これまで何故、シルヴィオに魔術封じの術が通用しなかったのかといえば、答えは簡単だ。
シルヴィオ自身が拒絶していたから。
しかし今は違う。
リリーディアに責を負わせないため、シルヴィオは抵抗もせず、大人しくしていた。
その美しい顔を苦痛に歪ませながら。
あの牢獄でシルヴィオに不要だと告げた時から、リリーディアは彼に会いに行かなかった。
そして、国外追放の日。
リリーディアは、魔獣が引く罪人用の馬車に乗り込むシルヴィオを城壁の上から見守っていた。
彼からは死角になっていて、見えない場所のはずだった。
「姫!」
それなのに、シルヴィオは上を見上げ、リリーディアを探し出す。
思わず、リリーディアはしゃがみ込み、シルヴィオから隠れる。
「必ず、俺はあなたを迎えに行きます」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
けれど、喜んではいけない。
次にクラリネス王国に足を踏み入れた時、それはシルヴィオの死を意味する。
「私は、もう二度と顔も見たくないわ」
シルヴィオに背を向けたまま、リリーディアは言った。
今、シルヴィオに顔を見られたら、遠目でも気づかれてしまう。
心の奥底にシルヴィオの迎えを待っている自分がいることに。
お読みいただきありがとうございます。
あと1話で過去編は終わる予定です。
今後とも見守っていただければ幸いです。




