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2話連続更新しています。
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「どうして、リスが苦手なの?」
「……リスというか、小動物が苦手なんです。力加減が分からなくて、壊してしまいそうで」
ぶすくれたまま、シルヴィオが答える。
自分のことははぐらかしてばかりだったシルヴィオが、自分のことを話してくれることが嬉しい。
感情が抑えきれず、リリーディアの頬は緩みまくっていた。
そんなリリーディアを金の瞳が映して、不満そうに口を開く。
「なんですか、その顔。ムカつくくらい可愛いです」
「ふふ。やっぱり、シルヴィオは優しいんだなぁって」
「今の話のどこでそうなったんですか……」
呆れたようなため息がシルヴィオからこぼれる。
(えいっ!)
むっとしたシルヴィオが可愛くて、リリーディアは思い切って抱き着いた。
自分から抱き着くのは初めてのことで、ドキドキする。
「……なっ!? 姫っ!?」
しかし、それ以上にシルヴィオが驚いていた。
ぎゅうっとシルヴィオの背に腕を回せば、彼の心臓がドクドクと早鐘を打つのが聞こえる。
その心音を聞きながら、自分の鼓動も速まっているのを感じる。
シルヴィオの手は、リリーディアを抱きしめてもいいのかと迷うように空をさ迷う。
いつも落ち着いているシルヴィオをこんな風に慌てさせることができるのは自分だけなのだと思うと、胸が熱くなる。
「私は簡単に壊れたりしないわ。だから、大丈夫よ」
シルヴィオの激しい愛情を向けられて怯えてしまったこともあるけれど、リリーディアはほんの少し力を入れただけで死んでしまう小動物とは違う。
シルヴィオを受け止めてみせる。
シルヴィオが抱える闇さえも受け入れたい。
(今の私にとっては、シルヴィオがくれたものがすべてだから……)
もし、記憶を取り戻したとしても、それだけは忘れたくない。
シルヴィオと過ごした日々の小さな幸せ、大きな幸せ。
そのすべてが偽りだった訳じゃない。
だから、覚えていたい。
シルヴィオと一緒に。
「……姫は、やっぱり姫なんですね」
はあ、と大きなため息が頭上から聞こえたかと思えば、シルヴィオの腕が背に回された。
「何の疑いもなく俺があげたブレスレットを付けて、俺がしたことを知っているのに怖がらずに側にいて、あげく自分から俺に抱き着くとか……そんなあなたが、どうしようもなく好きです」
「シルヴィオ……私も、好きよ」
意識が朦朧として必死だった告白とは違い、冷静なまま、好きだと言うのはとても緊張する。
リリーディアの声は震えていた。
しかし、シルヴィオにはちゃんと届いたようで、リリーディアを抱く腕に力がこもる。
「姫はずるくて、とても酷い人です。それでも、それ以上に優しくて、心がきれいで、素直で可愛い人で、俺のすべてをかけて守りたい大切な人です。愛しています。あなただけを愛しているんです」
「えぇ……」
「だから、俺は……あなたを手放すことはできない」
「……大丈夫よ。私は、シルヴィオの側にいるわ」
耳元でこぼれるシルヴィオの言葉は、リリーディアの胸をきゅっと締め付ける。
あやすように、その広い背を優しく撫でた。
「姫……――リリーディア」
初めて、名を呼ばれた。
心臓がどくんと跳ねて、全身の体温が一気に上がる。
「……リリーディア、許してくれ」
かすかに漏れた吐息のような声。
その言葉は、自分に向けられたものではない。
かつてのリリーディアへシルヴィオは許しを乞うているのだ。
(私のことを名前で呼ばなかったのは、シルヴィオの中にいるリリーディアと区別していたから……?)
どくどくと心臓が嫌な音を立てる。
愛されているのはたしかに自分なのに、シルヴィオが見ているのはきっと、かつてのリリーディアで。
シルヴィオのすべてを受け入れたいと願ってしまうほど、リリーディアの心はシルヴィオに向いている。
(シルヴィオは、本当に記憶を失った私のことも愛してくれているの?)
急に不安になった。
記憶がないから、以前の自分がどんな風だったのか分からない。
シルヴィオの言動から、以前と変わらないところがあるのは間違いない。
しかし、今のリリーディアは以前のリリーディアと全く同じではないのだ。
シルヴィオが愛した、リリーディアではない。
思い出さなくてもいいと言いながら、シルヴィオの眼差しはどこか別のところに向いているような気がして。
失ったリリーディアの面影を求められているだけならば、どれほど虚しいだろうか。
愛されていることに変わりはない。
けれど、どうしても。
シルヴィオの腕の中で、リリーディアの不安は大きく膨らんでいた。
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