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記憶喪失の姫は偽りの従者の執着愛に囚われる  作者: 奏 舞音
第2章 招かれざる客

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 壊れないよう慎重に、そっと撫でてくれる優しい手が好きだ。

 深い眠りから意識が浮上すると、真っ先に思い浮かんだのはそんなことで。

 リリーディアは目を開けて、すぐ側で自分の眠りを見守っていた従者を見つめた。


「お目覚めですか、姫」


 いつもと変わらない笑顔。いつもと変わらない口調。

 リリーディアも、いつもと同じだと錯覚してしまいそうになる。

 しかし、起き上がってみると、着ているワンピースは散歩に出た時のものだし、ベッドの近くにある靴は茶色の編み上げブーツだ。


(あれは、夢じゃなかったのね……)


 サウザーク帝国の魔術師クロエ。

 彼女が話した言葉は断片的にしか思い出せない。

 ただ、はっきりと覚えているのは……。


 ――あなたが従者だと信じているシルヴィオは、あなたの従者ではないわ。


 シルヴィオが従者ではないと彼女は断言していた。

 サウザーク帝国の魔術師が何故、シルヴィオのことを知っているのか。

 そもそも、サウザーク帝国とはどこの国だろう。

 クラリネス王国とはどんな関係があるのか。

 考え始めると、頭がズキズキと痛みだす。


「うぅ……頭が、痛い……っ」


「姫っ! 大丈夫です、何も怖いことはありませんよ。俺が、あなたを守りますから」


 ――今度こそ。


 頭をおさえるリリーディアをシルヴィオが包み込むように抱きしめる。

 この優しい手が、リリーディアを傷つけることはない。

 この優しい人が、リリーディアを騙すはずがない。

 だんだんと頭痛が収まってきたが、リリーディアは甘えるようにシルヴィオの胸に頭を寄せた。


「シルヴィオ、お願いがあるの」


「はい。何でもおっしゃってください」


 シルヴィオは優しい声音で頷いて、リリーディアを抱く腕に力を込めた。

 鼓動すら聞こえるほど密着していることに、今更ながらリリーディアはドキドキしてしまう。

 きっと、シルヴィオにもリリーディアの速すぎる鼓動の音が聞こえているだろう。

 自分から近づいておいて、ひどく後悔した。

 こんなにドキドキした状態では話ができない。


「……あの、まずは放してもらえる? もう大丈夫だから」

「嫌です。姫は大丈夫かもしれませんが、俺が大丈夫ではありません」

「えっ、シルヴィオ、どこか具合が悪いの?」


 リリーディアが眠っている間に、彼に何かあったのだろうか。

 もしかして、魔術師に襲われて怪我をしてしまったのか。

 心配になり、リリーディアはシルヴィオの腕から抜け出して、その引き締まった体を触って確かめる。

 外傷はなさそうだ。

 それなら、とシルヴィオのきれいな顔を両手で包み、リリーディアはじっと観察する。

 顔色は悪くない。いや、少しだけ頬が赤い。

 熱でもあるのだろうか。

 シルヴィオの額に自分の額を当ててみる。


「熱もないみたいだけど……」


 リリーディアにされるがままのシルヴィオなんて珍しい。

 やはりどこか調子が悪いのだ。

 いつもリリーディアのことばかりで、シルヴィオは自分の体調管理には無頓着なところがある。

 きっと、今までも人に言わずに苦しんでいたかもしれない。

 そう思うと、彼のことはリリーディアがちゃんと気にかけておかないと。


「シルヴィオ、どこが大丈夫じゃないの?」


「……姫が可愛すぎて、俺の心臓がもちそうにありません」


「え……」


 まっすぐにこちらを見つめる金の双眸は熱くて、甘い。

 その熱に浮かされるように、リリーディアの顔も赤く染まる。

 照れくさくて、顔を背けようとしたリリーディアをシルヴィオの両手が阻む。

 仕返しとばかりに、シルヴィオはリリーディアの頬を優しく包み、じっと見つめてくる。


「姫は今、幸せですか?」


 唐突に、そして真剣に、シルヴィオが問う。

 大切な思い出も、悲しかった思い出も、他愛ない日常の思い出も、今のリリーディアには何もない。

 記憶喪失になったことが不幸だと感じていたならば、リリーディアは今、幸せではないだろう。

 記憶がないことに寂しさは感じても、不幸だとは思ったことはない。


「えぇ。私はシルヴィオと一緒にいられて幸せよ」


 心からの笑みを浮かべて頷くと、シルヴィオは泣きそうな顔をしてリリーディアを抱きしめた。

 そのせいで、シルヴィオの顔が見えなくなってしまう。


(もしかして、シルヴィオが甘えてる?)


 なんだか可愛く思えて、リリーディアは彼の背をよしよしと撫でた。


「それで、姫のお願いって何ですか?」

「私にも、掃除や料理を教えてほしいの」

「姫がするようなことでは」

「だからお願いしているの。シルヴィオと一緒に何かしてみたいのよ」

「……分かりました」

「ありがとう、シルヴィオ」


 本当は、真実を教えて欲しいとお願いするつもりだった。

 けれど、これだけリリーディアを大事にしてくれるシルヴィオが話さないのだから、もしかすると知るべきことではないのかもしれない。

 初対面のクロエの言葉よりも、リリーディアはシルヴィオを信じたい。


(いつか、話してくれるわよね?)


 ――シルヴィオと一緒にいられるなら、私はいつまでも待つから。


お読みいただきありがとうございます。

日付を超える前に更新できました!

次回から第3章に入ります。

気になる過去のお話も少しずつ……と思っております。


これからも応援いただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。




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― 新着の感想 ―
[良い点] シルヴィオ様を信じて待つリリーディアが健気です [気になる点] クロエさんから、もう少しいろいろ聞きたかった〜 あの後どうなったのかな? [一言] 本日2回更新ありがとうございます♪ 第3…
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