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シルヴィオの様子は気になったものの、リリーディアは大人しく屋敷へ戻っていた。
しかし、屋敷の前に人影が見え、首を傾げる。
(配達の方? それとも、お客様かしら?)
今まで、王女が療養中の屋敷に訪れる人は、物資を届ける配達人ぐらいだった。
そのすべてをシルヴィオが対応していたため、リリーディアはいつも物資を届けてくれる人の顔も見たことがない。
しかし、今はシルヴィオがいない。
配達人か客人かは分からないが、リリーディアが対応しなければ。
そう思い、リリーディアは人影に近づき、にこやかに声をかける。
「こんにちは。何の御用ですか?」
リリーディアの声に振り返ったその人は、金髪碧眼の美しい女性だった。
絵本で見た魔法使いが着るような黒いローブを身にまとっている。
豊満な胸のふくらみや腰のくびれが強調されるような着こなしは、同性のリリーディアが見てもドキッとするほど色っぽい。
「あなたがシルヴィオのお姫サマね」
親し気にシルヴィオの名を口にして、彼女はにこりと微笑んだ。
(シルヴィオの知り合い……?)
ただの知り合いではなさそうだ。
彼の仕事場であるここまで訪ねてくるのだから。
リリーディアの心がズキンと痛む。
無意識に、シルヴィオを親しく呼ぶのは自分だけだと思っていた。
だから、自分以外がその名を呼ぶことをまだ想像すらしたことがなかったのだ。
思っていたより自分の心が狭いことに気づき、リリーディアはショックを受ける。
しかし、彼女を無視する訳にはいかない。
気を取り直して、リリーディアは彼女に話しかける。
「えっと……確かに私はシルヴィオの主で、クラリネス王国の王女リリーディアですが、あなたは……?」
「あら、ごめんなさいね。まだ名乗っていなかったわ。わたくしは、サウザーク帝国の魔術師クロエと申します」
クロエと名乗った女性は、軽く一礼した。
サウザーク帝国。当然ながら、リリーディアの記憶にはない。
しかし、クラリネス王国の王女であるリリーディアの従者に、サウザーク帝国の魔術師が一体何の用があるのか。
シルヴィオのいないところで、その答えを聞いてもいいのだろうか。
リリーディアは不安を覚えながらも、尋ねた。
「あの、サウザーク帝国の魔術師の方が何故、ここに……?」
リリーディアの問いに、クロエは驚いたように目を見開く。
そのきれいな顔からは笑みが消えていた。
そして、リリーディアをじっと見つめて黙り込む。
碧の瞳に探られるように見つめられ、居心地が悪い。
「えっと、クロエさん……?」
「ふふ。まさか、ここまでやるとはね……」
しびれを切らしてリリーディアが声をかけると、クロエは呆れたような笑みを浮かべた。
「いいことを教えてあげる、お姫サマ。あなたが従者だと信じているシルヴィオは、あなたの従者ではないわ」
「……何を言っているのですか? シルヴィオは従者です。私がこの屋敷で療養するためについてきてくれたんです」
「王女であるあなたのお付きが従者一人だけ? それこそ、おかしな話だわ」
「私が、望んだからです」
リリーディアとて、シルヴィオ一人であることに疑問を抱かなかった訳ではない。
しかし、記憶を喪う前のリリーディアがシルヴィオ一人を側に置くことを望んだのだと聞いた。
あまり多くの人に囲まれていては落ち着いて療養できないから、と。
記憶喪失という大きな問題が生じても心穏やかにいられるのは、シルヴィオのおかげだ。
シルヴィオ以外の人との関わりが欲しいとは不思議と思わない。
「シルヴィオはお姫サマの絶大な信頼を得ているようだけれど、あなたはもう姫ですらないわ」
「どういう、ことですか……?」
その先を聞くのが、とてつもなく恐ろしい。
リリーディアが得体の知れない恐怖に震えた時、あたたかな腕に抱きしめられた。
「姫っ!」
「……シルヴィオ」
シルヴィオが側にいる。
抱きしめてくれた温もりに安堵し、リリーディアは思わず涙を浮かべた。
「姫、もう大丈夫ですよ。何も心配はいりません。だから、少しだけ眠っていてください」
優しく微笑み、シルヴィオがリリーディアの頭をそっと撫でる。
聞きたいことはたくさんあるのに、その優しい手にすべてを委ねてしまう。
(シルヴィオ、あなたは一体何者なの……?)
サウザーク帝国の魔術師が会いにくるほどの人物。
彼は、ただの従者ではない。
どこか遠くでシルヴィオがクロエを問い詰める冷たい声がした。
リリーディアの知らない、シルヴィオの一面。
しかし、彼らの会話を聞くことなく、リリーディアの意識は優しい夢の中へと誘われた。
お読みいただきありがとうございます!
新しい登場人物も出てきました。
クロエはとても妖艶な美女ですが、シルヴィオとの関係は……?
今日は夜にも頑張って更新したいと思っています!
執筆の進み具合によりますのでまた深夜かもしれませんが。
応援いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




