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オレと結婚する人は  作者: 雅也
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1話

             

                  1


 別れた。

 それも、二人穏やかに。

 お互いが掛ける言葉は、優しい口調だった。


「本当にありがとう。このお願いは、下心が無いあなたにしかお願いできなかったわ。それに“あの”には本当に迷惑を掛けたわ、改めてごめんなさい。できれば、事情を話しておきたかったけれど、何処からバレるかという事を考えると、黙っているしか無かったの。 本当に彼女には悪い事をしたわ」


 

 高校の卒業式後、皆でひとしきりの別れを惜しんだ後、最後の下校時、貴と叶は在学中に通ったコンビニのフードコートで、他人から見た状況は今まで通りの光景に見れた。

 それが今まさに、恋人同士が別れの瞬間を迎えていた。


 悠生ゆうせい たかし 高校3年生。

 皆川みながわ かなえ 高校3年生。


 高校卒業までの、数ヶ月間の交際期間だった。 



          □ □ □



 貴は高校を卒業したての18歳。

 半分以上の生徒が大学に行く中で、貴は就職組に名を上げていた。


「貴、就活は決まったのか?」

 この様に聞いてくるのは、貴が一番親しくしている 飛竜ひりゅう 智樹ともきだ。 市内にある私立大学に向け、A判定を貰っている。 確実に春からは大学生活だ。


 貴は大学へ行きたかったが、家庭の事情で、就職組となる。



 貴の父である 悠生ゆうせい 明人あきひとは、貴が中学の時に病気が発覚。 手術を受ける為に病院に入院する。

 その医療費で、家計が大変になるが、中学卒業後、普通科の高校に入り、家計を助ける為に、アルバイトを掛け持つ。

 学業としては、成績はそこそこ良かったので、大学にも問題なく入れると安心な判定が出ていたが、家計の都合が貴をそうはさせなかった。

 母親の 悠生ゆうせい 由美子ゆみこが、朝から夜まで家計を支え、貴は少しでも助けになるならば、と思い、色んなアルバイトで、家計を助けた。

 父も退院後は、軽作業の職に着き、何とか普通に近い生活事情になった。だが、その時は貴はすでに大学受験も過ぎて、就職口が決まっている、卒業まで1ヵ月の事だった。


 また、貴は、3年生の初夏から、皆川みながわ かなえと言う、彼女が出来た。

 きっかけは、同じクラスになり、一緒の委員になった事が、馴れ初めである....、のが、上辺での理由だ。


            □


 時期は、夏休み。


「お兄ちゃん、今日もう少しで瑠美奈が来るから、どっか行っててくれない?」

 

 悠生ゆうせい 桃菜ももな 貴の年子の妹で、同じ高校に通う、美形の妹だ。 橋本はしもと 瑠美奈るみな 桃菜のごく親しい友人で、小学校の頃からの付き合いだ。ただ、瑠美奈が悠生家に来るという事は、兄である貴が目的な所もあり、いかに桃菜が貴に想いを寄せているかが伺える。

「瑠美奈が来るのか。 まあいいじゃないか? 来てもオレの姿が見えなけりゃ。多分大丈夫だろう?」

「あま~い! 瑠美奈がそんな事でごまかせると思ってるの?」

「無いな.....うん。アイツの事だからな」

「でしょ?だから、どっか姿をくらましていてね」

「おう、分かった」


 そう言うと、貴は最低限の身の回りのモノを持ち、急いで玄関に向かいスニーカーを履き、さて....と、玄関ドアを開けた時だった。


「あ~!!!! タカシ、何処行くの? 私も行く!!」

 いきなり玄関で、貴の腕に巻き付いてきたのは、今まさに、そのために避難しようと思っていた人物、それに捕獲されてしまった。

「うわ! 捕まった~」

「何よ、タカシ」

「先輩を呼び捨てにするなって、いつも言ってるんだろ」

「いいじゃん、たぁかしぃ~」

 殆ど毎回の事ながら、溜息が出る貴だった。


「瑠美奈。 お兄ちゃんから離れなさい。今から用事で出かけるんだから」

 廊下から見ていた桃菜が、瑠美奈に注意するが。


「えぇ~、やだ! 私も一緒に行くぅ~....、イくぅ~....」

「こ、こら! 最後、2度も言うな。意味が変わってくるぞ」

「えへ....、イクぅ~...」

「だから、この変態女が!」

「いいもん、タカシなら、変態扱いされても」


 橋本はしもと 瑠美奈るみなはこんな性格である。

 貴に彼女が居ると言う事が分かって居いるのに、こんな風に、平気でベタ付きでくっ付いてくる。なので、学内でこんな風に瑠美奈が貴にくっ付いている姿を叶に見られると、非常に不味いのは分かっている。........が。

 所かまわず絡んでくるので、貴もホトホト困っている昨今である。



「もうあんな彼女とは、別れちゃいなよ」

「簡単に言うな。いいからモモと家で遊べ。オレは暫く出てくるからな。じゃあな」

「えぇ~...」

「ついてくるなよ」


 瑠美奈を桃菜に押し付けて、貴は玄関から急いで出て行った。



          □



 桃菜と瑠美奈は同級生。 小学校からの友人で、その頃から悠生家に良く遊びに来ている。 当然兄である貴も知り合いになるのだが、成績が思わしくない瑠美奈は、時々勉強を貴から教えてもらっていた事も有り、短期間で貴とも親しくなっていった。で、その頃から、瑠美奈は貴に恋心を抱いている。 現在進行中である。

 だが、そんな事には気が付いてない貴は、高校3年の時に、彼女が出来た。年度初めのクラス委員選出中に、貴が美化委員に決まってしまい、女子の美化委員が 皆川 叶 になったのがきっかけで、何度か委員の役を行っているうちに、叶からある理由を話し、告白して、6月から付き合い始めたのだった。

 それを知った瑠美奈は、悔しくてしょうがなかった、なので、学校では大人しくしているのだが、それ以外は、貴に対しては、うざったいくらいに言い寄ってくる様になった。



『くぅ....、タカシを取られた~。こうなりゃ、奪回作戦だ~!』


 と、心の中で、瑠美奈は、貴を何が何でも自分のモノにしたいと言う決意をした。






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