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軍師日記 ~借り物知識で異世界統一~  作者: 楼那
大陸北部の動乱
63/80

63.鶴城攻防戦

太陽暦1306年4月上中旬 柳泉


「狼煙を上げてください。退路を断ちます」

「わかりました」

 羽鶴殿が手を挙げると2度目の狼煙が上がった。それとほぼ同じタイミングで城下町に火が放たれる。現状突破を許した城門は城下町に直接繋がっている1カ所のみ。

 弓兵の矢を躱すためにはそこから外へ出るしかない。つまり逃げた先はすでに火の海だ。残念ながら兵の潜伏を警戒した相手が城下町の建物を手当たり次第に壊して進軍してきたせいで、当初予定していたよりも火の勢いは弱い。

 それでも敵兵を混乱させるには十分だった。

「すでに指揮系統は混乱していましょう。まともな撤退も立て直しも出来ますまい」

「そうですね。しかし混乱しているのは、あの先陣を任された部隊のみ。後方の陣ではまだその混乱ぶりが正確には伝わっていません。というわけで3度目の狼煙を上げましょう」

 羽鶴殿が手を挙げると3度目の狼煙が上がった。その狼煙の効果が現れるまで、この城にいる兵力だけで敵を相手取る。

 城門に登った弓兵による一斉射撃。曲輪に残っている兵の捕縛と、抵抗している者は斬っていく。

 城下町の火災に乗じて、少し離れた竹藪に伏せていた槍兵による突撃。あの噂のせいだろうか?あまりにも動揺が激しい気がする。もしくは幾重にも重なる攻勢の最中に指揮官が死んだか。

「柳泉殿。来ましたぞ」

「あぁ見えるな。援軍の登場だ」

 周辺領地へ退かせていた武官達が兵を率いて敵兵の側面、後方を強襲。ようやく敵の本隊が動き出した頃にはこの戦い、すでに決していた。

 そもそも本来鶴城に援軍に入っていた兵数は、今攻め寄せてきていた近陵国のクーデター軍の数倍は多い。あちらはその兵力全てが退いたと思っていたようだが、それは間違いだ。俺はあえて情報を持つ忍びを逃がしていた。逃がした忍びは全て曖昧な情報を持ち、近陵国の者らを勘違いさせる可能性のあるものばかり。

 周辺領地に撤退した。柳泉という男は見限られた。鶴城は孤立無援。全て俺がコントロールした情報。

「見事なものですな。ここまで敵を翻弄するとは」

「まぁこれで城攻めなんてしている場合ではなくなるでしょう。あそこまで消耗した上、こちらにはまだ元気な兵が大量に控えている。敵の大将がよほどの馬鹿で無ければ退くでしょうね」

 そしてしばらく戦況を眺めていると、包囲網の敢えて穴を空けていた場所をついて撤退を始めたのが見える。

「ふむ、ようやく退路を見つけたそうですぞ」

「敵の大将が誰か分かりますか?」

 俺が羽鶴殿に聞くと、フムと言って黙ってしまった。

 誰か知りたかったけど分からないのなら仕方が無い。諦めようとしたとき、後ろに控えていた兵士の1人がとあるものを羽鶴殿に渡した。

「気が利くの。ではでは」

 そう言ってのぞき込んでいる。そう、あれは俺の世界でいうところの双眼鏡だった。

 まぁ眼鏡というものもあるし、ないこともないのだろうか。しかし王都にある大規模商会でも見たことはない。特殊なものなのかな?

「最も奥で指揮を執っておる部隊・・・あの金の鎧は越内国の親衛隊が着るものですな。であれば、実父が朝景雨である江景晴あたりではないかと思うが・・・。やはり離れすぎておることもあって確証はないが」

「十分です。誰であれ、大物であることには違いません。最後の狼煙を上げましょう。これで一気に敵を殲滅します」

 頷いた羽鶴殿は物見櫓に合図を出した。狼煙はすぐに上がり、それからしばらくした頃大きな地鳴りが聞こえてきた。

「上手くやったようですな」

「えぇ、ここからでは見えませんが、これだけ凄い音がしているのです。敵の撤退経路は完全に潰せたでしょう。あとは敵兵の殲滅と捕縛、そして近陵国に乗り込み裏切り者の排除と重要拠点の解放を目指しましょう」

「かしこまりました」

 突如、羽鶴殿は俺に片膝をついて頭を下げた。

「羽鶴殿!?」

「いやはや、柳泉殿の見事な采配には感嘆の声しか出ませぬ。儂はこの戦を最後に旺家の当主を降りる事になっております。故に以後は柳泉殿にお仕えしたい」

 あまりに突然の展開に当然慌てる。そもそも元当主が、隠居後に他人の下に仕えるというのは異例中の異例だったはず。それも旺家という李将軍同様長年北の国境を守ってきた人だ。

 これは本来、俺や羽鶴殿の一存では決められない。

「もちろん鶴翼にも、主様にも儂からお伝えし説得する。もし認められたら如何かな?儂も長年王家に仕えた身、必ずそなた様のお力になりましょうぞ」

 まぁそれなら俺からは何も言うことはない。味方は多いに越したことはないし、これまで一緒に戦ってきて信頼も出来ると思う。

「ではもし主様がお認めになった際にはよろしくお願いします。これでいいですかね?」

「もちろんじゃ」

 羽鶴殿が頷いたとき、ここからは見えない遠くの地で勝ち鬨が上がった。

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