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42.帰還

太陽暦1305年2月下中旬 柳泉


 東方国境の領地を巡った俺達は一度王都長港へと戻ってきていた。

 主様より紅林殿に帰還命令が出たからだ。

 とりあえず真っ先に主様に挨拶を済ませた俺達は、そのまままっすぐ領監部棟へと向かう。

「お帰りなさいませ。紅林様、柳泉様」

 冬椿が最初に気がつき挨拶をすると、他の皆も同じように頭を下げた。

「皆さんもよく留守を守ってくれました。これは東方の土産です」

紅林殿の後ろに付いていた従者が荷物を広げる。中には東方特有の産物がたくさん入っている。俺と紅林殿、そして数人の従者で選んだものだった。

皆はわりと喜んでくれている。とりあえず一安心かな。

「柳泉様、まだお仕事をする予定がありますか?」

「・・・無いはずだけど」

 紅林殿も首を振っている。さっき主様から命じられた事があるけど、それは今日の話では無い。まだ少し先のことになるだろうし、ここで行うはずの事務仕事もその類いが得意な冬椿や文沈が既に済ませてしまっている。

 今日はもう何もすることは無いだろうな。

「であるならば、早くご自宅にお戻りくださいませ。ひと月以上離れられていたのです。奥方様はずっと心配しておられました」

「あぁ、わかった。じゃぁ今日は先に失礼するよ」

 また全員が頭を下げた。紅林殿を見ると頷いている。

 さて我が家に帰ろう。希京様と会うのも1ヶ月ぶりだ。


太陽暦1305年2月下中旬 希京

 柳泉が東方の領地視察に向かって約1ヶ月。しばらくは冬椿のお世話になっていたのですが、やはり自分の家のことは自分で守らないと、と思い直し冬椿に相談して屋敷に戻ってきていました。

 聞いた助言の通り、知り合いを頼り使用人を雇い入れました。まだ柳泉は新参者で与えられた屋敷も大きくありません。ですが、主様が柳泉を気に入っているのも事実。未来の出世に備えて準備しておくのも良いと思ったのです。

 そして次に私自身のこと。これまで箱入り娘として大事に育てられてきました。

 王の妃であるならば必要無かったことですが、これからは色々と1人で出来なければいけません。

 使用人の中でも年長の者に色々と教えて貰いました。その中でも楽しかったのはお料理でしょうか。皆辞めさせようとするのですが、あんなに面白いことを取り上げようとするなど許せません。

 後に冬椿に聞いたことですが、使用人持ちの臣の奥方様は自身で料理をされないそうです。勿体ない・・・。

 そして今日、いよいよその日がやって来ました。

 なんでも視察期間は本来もっと長く予定されていたようなのですが、主様がご帰還命令を出されたようなのです。

 そして長港に入るのがまさに今日。

 今度どうなるかはまだ分かりませんが、ようやく柳泉に会えると思うと嬉しくてたまりませんでした。

「奥方様、もう少し落ちつかれては如何です?」

 使用人を纏める立場にある年長者、“阿矢(アヤ)”は私にそう言いますが落ち着けるわけがありません。

 一緒になって早々に柳泉と会えなくなったのです。辛い時間はとても長く感じてしまいます。

「阿矢、わかるでしょ?旦那様がようやくお戻りになられるのよ?そわそわするに決まっているわ!」

 やれやれといった表情で飲み物を用意してくれていましたが、

「ただいま戻りました」

 玄関口の方で懐かしい声が聞こえました。

「あ、ちょっと奥方様!?走ってはいけませんよ!」

 阿矢の声はすでに遠く後ろの方で聞こえます。はしたなく私は走ってしまいました。

 すれ違う使用人も驚いた顔で私を見ています。

「あ、希京様、ただいま戻りました。これおみやっ!?」

 驚く柳泉を気にせず私はその胸に飛び込みました。後ろから、阿矢が慌てて追いかけて来た気配も感じましたが、そんな事気にもなりません。

「お帰りなさいっ!どこも怪我はありませんか」

 あの時のように優しく私を受け止めてくれた柳泉は

「危険な目には何もあっていません。行く先々の領主の皆さんも良くしてくれました」

「そうなのですね」

 その言葉が嘘で無いのか確認するようにペタペタと身体を触っていると、大きな咳払いが後ろから聞こえてきてビックリして柳泉から離れてしまいました。

「お初にお目にかかります。先日、希京様よりこの屋敷の使用人として迎え入れていただいた阿矢と申します。他にも数人おりますのでお時間を頂いたときに挨拶させていただきます」

「えっと・・・よろしくお願いします?」

 柳泉は困惑しています。それも当然ですね。私は冬椿の邸宅でお世話になっていたと思っていたのでしょうから。

「実は少し前にこちらに戻ってきていました。そこで知り合いの伝手を頼りに使用人を雇ったのです。きっと旦那様はこれからもっと主様のご信頼を得るはず。その時の準備だと思ってください」

 柳泉は苦笑いをしていますが、私は本気でそうなると思っています。現にご近所に住む他の臣の奥方様方もそういうお話をされています。

 それだけ柳泉の株は高い。

 しばらく王都にいなかったから、その手の話には鈍感かも知れませんね。

「それより、長旅でお疲れでしょうから汗を流してください。阿矢?」

「はい、すぐに用意させましょう」

 阿矢が近くにいた若い使用人に声をかけて用意を始めた。

「あ、お土産話はやく聞かせてくださいね?」

 きっとまた柳泉は長く家を空けることになるでしょう。それまでたくさん話しておこうと思いました。

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