40.子供達の想い②
子供達の想い②
太陽暦1305年1月終旬 江政長
「長会談に向かうとは真にございましょうか」
「奴らの罠かも知れません。止められた方がよろしいのでは?」
「おぬしらは若様の面目を潰すつもりか!」
「しかし、海興国の者らが我らに対していい心証を持っているとも思えませんがな」
俺の私室に呼んだ5人のうち、4人は俺の行った最初の政に関して好き勝手言っている。俺が聞きたいのはそこではない。
なぜ側近たるお前達が、俺の言いたいことを一切理解できない。
「ですが、政長様が討たれれば我らに後はありませんぞ。やはりお止めになるべきです」
臣の1人が俺にそう進言する。海興国の婚姻同盟は俺の中では既に決定事項なのだ。誰が何と言おうが長会談には出席するつもりであるし、初淀は朱光殿に嫁がせる。
俺が今お前達に言って貰いたいことはそうではない。
ただ1人が、それを分かっていた。
「虎上殿は何も言われませんが、どうお考えですかな」
騒いでいた内の1人が、未だ一言も発していない最年長の爺に声をかけた。
“赤虎上”、今俺を支えている筆頭家臣衆“五老臣”のまとめ役である。
他の4人も今目の前にいるのだが、俺に仕えている最古参が虎上であった。故に俺の言いたいことも虎上は分かっている。
「某ですかな?そうですな・・・、ご隠居様と弟御の動きが見えませぬな。そちらをさぐっておく必要がありそうだと思いますが」
「ご隠居様と景晴様ですか?しかしそれは・・・」
“江景晴”とは俺の義弟。父上が朝家と今代の同盟の証として養子をとったのだ。朝家の現当主、朝景雨の三子である。
「あくまで某の思ったことを言ったまで。あとを決めるのは若様・・・今となっては主様の御心次第でございますな」
落ち着き払った虎上の態度に、誰も反論を言えない。伊達に長年この家を支えてきたのだ。そもそも反対意見など言えまいな。
「お前達の意見はよく分かった。少し考えさせよ。決まったらまたお前達に話す」
「「「「はっ!!」」」」
各々が立ち上がって部屋を出ていく。俺はそれとなく立ち上がろうとしている虎上を見た。
それに気がついた虎上は軽く目を伏せ、そのまま出て行った。
そしてしばらく後、
「赤虎上にございます」
「はいれ」
虎上は1人で俺の部屋へとやって来た。そしていつもの場所に座る。
「如何いたしました」
「海興国との長会談、どうなっておる?」
「問題なく進んでおります。こちらから持ちかけた話ですからな場所こそ、あちらに譲歩しなくてはいけませんが、会談の地に既に忍びを伏せております。あの者らが言うように万が一があったとしても、無事に政長様をこの城にお連れいたします」
やや顔がニヤけているのは、俺の望んでいる答えではないと分かっているからだ。
「そんなことに労力を割く必要は無い。それよりも・・・」
「高白麗殿は未だ困惑しておるようにございますが、それも長会談をすればわかると踏んでおるようにございます。それよりも厄介なのは、一ノ妃である朱妃様が子の結婚に関して消極的であるという点でしょうかな」
その話は聞いていた。この長会談も白麗殿が朱妃様に対して行った配慮だと聞いている。ただし、俺の娘もなかなか気前が良い。
ある程度の事情も知っているし、何よりも父上を嫌っている。
今回の婚姻同盟を成功させるために必死なのは娘も同じなのだ。
「それにしても景雨殿は一体どういうつもりなのだ」
「嫌がらせでしょうな、それに景晴様や長久様と繋がっている様子もあります。長会談よりもそちらに気をつけていた方が良さそうですな」
「・・・そのこと虎上に任せる。長会談の方は俺に任せろ。北の国境に危険が迫っている以上、何としても南の安全は確保しなくてはいけない」
虎上は頷き、そして深く頭を下げた。
「某の力が及ぶ限り、全力を持って政長様をお支えいたします。どうかこの国をお守りくだされ」
「任せろ」
現存する国の中でも2番目に帝家との関係が長い朝家は、いつも同盟国である我が国を引っかき回す。そのふざけた関係を俺の代で終わらせる。
北からの脅威からこの国を守る。
我らの新たな同盟相手は大陸南部の雄、海興国の高家なのだから。
人物紹介(江家内部編)
赤虎上(50):江政長派筆頭家臣。政長が幼い頃から仕えていて、1番の理解者になる。五老臣の筆頭。
江景晴(22):朝景雨の三子。今代の近越同盟の証として江長久の養子に入る。朝家出身としてのプライドが高く、当然当主の座につけると思っていた。




