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軍師日記 ~借り物知識で異世界統一~  作者: 楼那
恵楽の戦い
10/80

10.釣り野伏せ

太陽暦1304年7月上中旬 柳泉


 俺が住んでいる部屋にはよく客人がやって来る。

 今日もそろそろ来る頃だろう。時計は無いが体内時計と太陽の昇り加減でなんとなく分かるようになった。

「柳泉よ。今日も来たぞ」

「お邪魔しますぞ」

 やって来たのは、朱光様と雄全様だ。雄全様は朱光様の武芸指南を務めているが、他の勉学も教えている。そしてこの世界の常識に疎い俺もその勉強会に参加させてもらっているのだ。

 勉強が好きでは無かった俺だが、雄全様の話はとても面白い。

さてさて今日の授業は何かな。

そう思いながら、二人に目をやると雄全様は大きな地図のようなものを机いっぱいに広げ、駒を複数設置していく。

「雄全様、これは?」

「はい、本日は将としての力を身につけて頂くべく、過去領内で起こった戦を資料に学んでいこうというものでございます。それと柳泉殿、儂に様は不要じゃ。どうしても何か付けたいというのであれば殿にしてもらえぬか」

「あ~・・・わかりました。雄全殿」

 俺がそう名を呼ぶと満足げに頷かれた。そして再度地図へと目を移す。

「話を戻しますぞ。これは西の領地、恵楽御城を中心にその周辺を書き示した地図にございます。恵楽御城には我が軍が2000、西の平野部には仮想敵・・・まぁ実際で言えば燕国ですな。が4000で構えております。この地は国境を守る最前線で広大な穀倉地帯を守る要所。さらにこの地の南側には大きな港町があります。後詰めの城として背後には複数の小城が控えているこの状況、若様がこの地の将であれば如何して防ぎますかな」

 どうやらざっと説明は終わったらしい。朱光様はじーっと地図を眺めている。俺も眺めている。

俺の回答は朱光様を待ってからだ。それまでに質問とある程度の回答を考えておかないといけない。これでも日本にいた頃には浅い知識ではあるが日本の戦国時代や中国の三国時代の本や歴史書を漁りまくった。それに某無双ゲームや某野望シリーズもやりこんできた。実際には全くの素人だが机の上でならどうにかなりそうな気がしている。

「我ならこの小城へと後退する。相手方には後方の援軍と合流させるためだと思わせて追撃させるように仕組む」

「では一度恵楽御城を獲らせるのですな?」

「うむ。欲を言えばその他複数の城を獲らせながら我が領内に引きずり込み、敵の部隊が長く伸びきったところを、恵楽御城の南にある港町に送り込んでいた兵で退路を断つ。上手くいけばかつての前線を押し上げ敵の領地を切り取ることも出来よう」

 朱光様の策に、雄全殿は驚きで目を見張っていた。確かに良い策だ。机上の空論であると言われればそれまでだが面白いとは思う。と、素人が評価してみた。

「さぁ柳泉はどうじゃ?」

 雄全殿が驚いているのが嬉しいのだろう。ルンルンとした瞳で俺へと問いかけてくる。

 俺も朱光様が発案している最中に色々考えてみた。兵数不利の状況、この地形、そして一番大事なところは

「雄全殿、質問です」

「さて、どんな質問だろうかの」

「1つ目、味方の大将はどんな方ですか?2つ目、敵方の大将はどんな人ですか?3つ目、味方が危険を冒してまで切り取るほどうま味のある土地ですか?」

 この質問の答えによっては、回答は大きく変わるだろう。

「1つ目じゃが、大将の名は李将軍。長年高家に仕えてきた重臣じゃな。海興国を建国してから14年間ずっと西の国境を守っておる。2つ目、敵将の名は金武稜。敵国燕の王じゃ。この者は恵楽の地を切り取り、海を目指すことを国是としておる。すでに何回目か分からぬ侵攻を仕掛けてきとるが、一度も国境を引き直したことは無い。3つ目、うま味は正直何も無い。強いて言うのであれば、穀倉地帯の拡張じゃが、敵地に近い場所に広げるメリットなど無いに等しいの」

 と言うことらしい。つまり今回の戦においてすべきことは領地の切り取りでは無く、敵を潰走させること。それも何度も押し寄せてくる敵だというのなら、こちらはなるべく無傷で、敵はなるべく被害を甚大にする必要があるだろう。

「俺ならこの平野の北側にある森を使う」

「森か。この地はすでに李将軍が立ち入り調査をしておる。地形は十分把握しておるじゃろうな」

「それなら好都合。でもこれは一か八かの賭けです。指揮官がこんな策を採用するのは相当追い込まれているときに限ると思いますが、それでもよろしいですか」

 気がつけば朱光様も熱心に俺の話を聞いていた。

 雄全殿が小さく頷く。

「李将軍に少数の部隊で騎馬に乗ってもらい、夜襲を仕掛けてもらいます。兵は・・・ざっと300」

「300の騎馬隊・・・それも将軍自らで。それで?」

「天気は馬の足音を消してくれる雨の日がいいでしょう。一撃を与えたらとにかく森の方面へと引き上げます。夜襲は失敗した、大将首を取れずに撤退する。そう思わせることが肝心です。そして敵からすれば、夜襲を仕掛けてきた中に、14年にも渡り侵攻を防ぎ続けてきた憎き将軍がいると考えるはず。敵は総力を挙げて追撃に出るでしょう。森まで追いかけてきた敵を予め伏せておいた兵で二方面から挟み込み、撤退していた李将軍の部隊も反転して三方面から叩く。統率を失った部隊は脆い。あとは城に控えていた部隊で残った敵勢力を叩き潰して引かせる。深追いはせずとも奴らが再起するのにかなり時間がかかるでしょう。餌を垂らして大物を釣り上げる、これぞ釣り野伏せだ!」

 まぁ俺流ではあるけど。最強鬼島津の策『釣り野伏せ』がこの時代でも通用するのか見てみたいものだ。

 またも目を見張って俺を見ている雄全殿。そして目をキラキラ輝かせている朱光様。

「そのような捨て身の策、考えたこともありませぬ。おそらく李将軍もでしょうな。しかしそれが決まれば・・・」

 雄全殿は小さな声で何かをブツブツ言っている。

「雄全よ。そろそろ父に報告に行かねばならぬ」

 白麗様は家族との時間を大事にされる方だ。必ず家族全員との時間をとられる。朱光様の勉強の話もそうだ。毎回、勉強の成果を白麗様に報告されるのだ。

「おぉ、もうそんな時間でしたかな。では儂も行きましょう。柳泉殿、ではまた」

 2人が部屋から出て行った。また静かな時間だ。

 ・・・そうだ星蘭ちゃんの元にでも遊びに行こうかな。勘違いして欲しくないのは俺は決してロリコンでは無い。7歳の星蘭ちゃんは妹のようにカワイイという意味で深い意味は決して無い。白麗様の奥方様方は元いた世界の話を聞くのが好きなのだ。つまり・・・そういうことだ。

登場人物紹介(燕国編):海興国の西にある。周囲を山に囲まれている。

金武稜(49):燕国第六代王。短慮・浅慮で愚王と誹られる。西南北は山に囲まれているため海興国への侵攻を再三計画している。

金武錬(17):武芸に奏でた武稜の次子。血気盛んで粗暴。

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