森の管理人
とある森の中、私は一人の女性と細い獣道を歩んでいる。
「助けてもらってありがとうございます。こんなに深い森だと思っていなかったので……」
「それほどでもありませんよ。ただ、随分お急ぎのようですね。よろしければ事情を話していただけませんか?」
女性は薄手の服とスカートといった出で立ちだ。とても森に入るのに適した格好とは言えない。
「この先の祖母の家に行くんです。持病がかなり悪化していて、もってあと数日らしくて……。一刻も早くこの森を抜けたいんです!」
女性がいきなり走り出そうとするが、腕をつかんで引き留める。
「何するんですか!」
「お気持ちはわかりますが落ち着いて。この森の土は軟らかいので下手に走ろうとすると足をとられて転びますよ」
「……お詳しいんですね。何をなさってるんですか?」
ひとまず気は落ち着いたようだ。私は周囲に気を配りながら彼女を先導する。
「私はこの森の管理人をしています。森の中の見回りをして、道に迷った人がいればこうして出口まで案内するんです」
「でも、それってお金になりませんよね?別の仕事でお金を稼いだりしているんですか?」
「いえ、物好きな貴族の方から支援をいただいていまして。おかげさまでこの仕事だけで暮らしていけています」
「あの……」
「どうしました?」
女性が恐る恐る口を開く。
「この森、盗賊が出るって噂を聞いたんですけど……」
「そうなんですか?毎日この森をぐるっと見回っていますがそんな連中見たことありませんよ」
「そうですか……」
盗賊の噂を知っていながら一人で森に入るあたり、彼女も肝っ玉が据わっているようだ。あるいはそれほど祖母のことを深く思っているのか。
唐突に視界が晴れた。獣道を抜け、馬車や木こりたちが使う道路に出たのだ。私は道路の先を指さした。
「この先が出口です。一本道ですので迷うことはないと思います。私はこの後見回りを続けるのでここでお別れになりますが、すぐそこですから一人でも大丈夫ですよ」
「ありがとうございました!それじゃ!」
そう言うや否や女性は走り去ってしまった。私は彼女を見送ることもなくその場を後にした。
しばらくして、
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
先ほどの女性の声だ。おそらく、不幸にも盗賊に襲われてしまったのだろう。
身なりはよくなかったが、若い女は結構金になる。これでもうしばらくは食っていけるだろう。ああ、早く次の獲物は来ないものか。
読んでいただきありがとうございます。
一応「ホラー作品」としてはいますが多分そんなに怖くないと思います。例によって企画応募のため千字以内に圧縮した結果、微妙に言葉足らずになってしまった感が否めませんが、それでも楽しんでいただけると幸いです。