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第89話 テスラの夢

 ダンジョン前へ戻った。

 ゼファは飛びついてきた。目尻に涙を溜めて。


「ゼファ、大袈裟(おおげさ)だなぁ。死なないんだし……でも、怖かったんだよな。ごめん、守れなくて」

「いえ、ユメ様がご無事でよかったんです」


 そっちか!

 俺の心配をしてくれるとか、どんだけ女神――いや聖女なんだか。


「ユメ、あの後はどうなったのです?」


 指で俺の背中を突いてくるテスラは、ジッと俺を視線を合わせて来た。うわー…、なんか見透かされているような気がして怖い。


 まあでも大丈夫。


 心を読まれないよう、フォースにカギ(・・)をしてもらった。だから、あの幸せなひと時についてはバレる心配はない。


「いやぁ、俺たち地下16Fまでは下りたんだけど、フォースがケガしちゃってね。だから、撤退してきたのさ」


「………………っ!」


 俺がそう説明すると、フォースは顔を赤くした。

 ……おい、バレるだろうがっ。


「そうでしたか――」


 テスラが納得した瞬間(とき)だった。



「な、なんだって……地下16Fまで到達した!?」「夢幻騎士を超えちまったよ」「おいおい、ユメさんすげぇな」「やっぱり、噂の元勇者は違うな」「俺は地下4Fが限界だったぞ……」「くそー! 負けてらんねぇぜ」「結婚したい!」「あのバーサーク地獄をどう切り抜ければいいんだ……」


 などなど、騒がしくなった。

 あれ、リサっぽい声もしたような。



 まあいい。あとは冒険者たちに楽しんでもらおう。



 ◆



 家へ帰り、しばらく自室でダラダラしていた。

 そろそろ腹が減った、何か食べようと立ち上がったところ、扉をノックする音が聞こえた。


「入っていいぞ」

「お邪魔します。ユメ」

「よ、テスラ。少しは慣れたか」

「はい。お陰様で私は今、少しずつですが楽しいと思えるようになりました。友達も出来ましたし……。でも――」


「どうした」


「私はこの国の滅ぼそうとした。そんな私が居てよろしいのでしょうか」

「……ま、俺もテスラを100%信じられるかって言ったらウソになるけど、でも、今日分かったよ。キミは本当は優しい子なんだな」


「いえ、そ、そんな……」


「だから教えて欲しい。どうして組織に加担したんだ。どうして、俺の国を滅ぼす必要があったのか。全部とは言わない……何か情報をくれないか」


 こちらへ歩みよってくるテスラは、俺の目の前に。

 真っすぐ、あの美しくも虚ろな瞳で見つめて来た。


「……私は良い夢(・・・)を見たかった。だから、彼らに力を貸したのです」


「ふむ」


「秘密結社・メタモルフォーゼは、覇王・ナイアルラトホテプとある契約を交わしたのです。彼らの目指すところは一緒。それは『夢を見ること』なのです」


「――――は? 夢を?」


「私たち人間は、夢を見ます。でも、それは良い夢だったり、悪夢だったり……様々で、見たくもない夢を強制的に見せられていますよね」


「まあ、そうだな。あれは好き勝手に振舞ってくれるからな。でも、良い夢だって見れる時があるぞ。別に悪いものじゃないだろ」


「そうですね。夢は曖昧で、現実味がなくて、ただの幻想です。けれど、あの組織の目指すところは、その夢のコントロールと具象化。それを『ジークムント計画』と言うそうです」


 夢の具象化……なんだそれは。

 そんな事が可能なのか。


「仮にそれが可能だとして……世界に何が起きる?」


「夢を好きなように現実に出来るのですから、あらゆる願望が叶います。つまり、彼らは全知全能の神になろうとしているのです。彼らが言うには、多元宇宙(マルチバース)を統一するとか、人類の救済を願うとか」


「な…………」


「しかし、そう簡単な話ではありません。まずは儀式を行い、必要なものを揃えねばです。それは、『闇』、『混沌』、『万物』です。この三つがないと儀式は行えない。それが、覇王・ナイアルラトホテプとの契約。だから、あなたを利用し、全ての舞台を整わせた。魔王、魔神……すべてはユメ、あなたの魂を生贄にするため。そう、言うなれば、あなたは特別(・・)なんです」



 …………そんな、ことって……。



 俺は軽いショックを受けた。


 秘密結社・メタモルフォーゼは、とんでもない連中だ。さすが裏で暗躍しているだけはある。すべてはヤツ等の計画通りってことか。


 俺はそれを知らずに今まで、奴らの(てのひら)で踊っていたってわけか。……でも、仲間もこの国も自身の意思で作り上げたものだ。そこにヤツ等の意思は決して介在しない。それだけは絶対に認めない。


 俺は、俺自身の心に従い、これまでやって来たんだ。



 夢を見ること?



 いいさ、別に夢を見るくらい。

 でもな、メタモルフォーゼのやろうとしている事は、救済なんかではない。全ての世界への支配であり、国さえ滅ぼす欺瞞(ぎまん)にも劣る計画だ。


 魔王や魔神よりも性質(たち)の悪い連中だ。


「話してくれてありがとう。これで俺が取るべき道は決まった。そのメタモルフォーゼの計画を叩き潰す。奴等もだ。そして、最後に覇王・ナイアルラトホテプ。あれとも決着をつける」


「……お願いします。私の夢は叶ってしまったのですから……この国を守らなければ」


「それって……聞いてもいいかい?」


「はい……。私には親や友達がいなかったのです。

 一度でもいいから、同じ時間を誰かと過ごせる良い夢を見たかった。ただの夢物語で良かった……けれど、この世界で奇跡的にも素晴らしい人たちに出会えた。これが仲間というものなのですね……知らなかった」


「そうだったのか。じゃあ、この国にいるといい! 歓迎するぜ。むしろ、この家にずっといろ、テスラ。キミみたいな可愛い子なら俺も嬉しいし」


「…………ユメ。ありがとう」


 花のような笑顔をくれた。

 笑えば可愛いじゃないか。

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