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第85話 ダンジョン予約受付開始

 テスラを大監獄に閉じ込めても、必ず脱獄するとフォースは断言した。なので、俺はあえて彼女に自由を与えることにした。


 もちろん、信じているわけではない。


 むしろ最大限に警戒している。テスラ自身にはもう戦闘の意思はないと言うが、油断すればフォースの過去にあった誘惑だか洗脳だかされるかもしれない。十分に注意しておかねば。


 彼女のことは一旦置いておき――


 やはり、ブラックスミスギルドのおっちゃんに話を聞くべきだと、俺は思った。もともと、あのアイテムはおっちゃんから貰ったものなのだから。



【 ブラックスミス ギルド 】


 おっちゃんはいた。


「おっす~」

「ああ…………ユメくん」


 目が泳いでいる。

 明らかによそよそしい。


「おっちゃん。聞きたいことはひとつだ。単刀直入に聞く。俺を裏切ったのか」

「ち……違う! オレはただ……家族を人質に取られて……それで……」


 訳ありだったか。


「じゃあ、教えてくれ。おっちゃんの家族を人質にしたヤツを」

「そ、それは…………」


 あの感じだと口止めされているっぽいな。

 言えば殺されるか。


「そうか。……でも安心してくれ。おっちゃんの家族は俺が必ず助けるからな」

「ユメくん……。オレは……家族の事があったとはいえ、とんでもない事をしてしまったのに……」


 地面に(ひざ)をつけ、おっちゃんは泣き出した。


 気にするなとは言えない。

 ――だが、……テスラの言っていた謎の組織『メタモルフォーゼ』が関係あるに違いない。まだ詳細も分からないけれど、俺はそいつらを壊滅させる。


 でなければ、パラドックスは滅びるからだ。


「なあ、おっちゃん。約束してくれ。もうこんな悲しい事は止めてくれよ。俺はさ、おっちゃんを頼りにしているんだから」


「うぅ…………ユメくん。ありがとう。おかげで目が覚めた……! この通りだ、本当にすまなかった。許してほしい……」


 おっちゃんは土下座した。

 ……うん。おっちゃんの誠意は伝わって来た。


「じゃ、おっちゃん。ついでに頼まれてくれないか」

「……え?」


「まあ、なんだ……向こうの詳しい事も出方も分からんし、しばらくは『トラオムダンジョン』に力を入れようと思うんだ。だから、武器とか防具を大量に作ってくれないか。それをダンジョンに置こうと思うんだ。ほら、その方が参加する冒険者も喜ぶだろう」


「……分かった。それで罪滅ぼしになるのなら、いくらでもやろう」

「いや、それはそれ、これはこれだ」

「う……ユメくんは容赦ないなぁ……。けど、請け負うよ。すぐに!」



 ◆



 オープン開始前のトラオムダンジョン前へ行くと、既に人が殺到していた。どうやらもう予約の受付は開始しているらしい。今は夢幻騎士がテスター中だ。


「うわ……なんだこの冒険者の数! すげー…」

「おや、ユメ。やっと様子を見に来たのですね」


 背後から声を掛けられた。

 振り向くとそこには、いつもの忍者スタイルの――


「なんだ、キャロルか」

「なんだとは失礼ですね、それより、ユメ。いかがです、この状況」

「ああ、ビックリしたよ。入国審査が(きび)しくなった割には凄い人混みだな。50人以上はいるのか、これ……」


「当然です。ここにいる冒険者は真っ当な方たちばかりですし、世界で名を馳せたギルドばかり。つまり、優良ギルドですから。なので、不良ギルド、転売ギルド、マフィアギルド、奴隷取引ギルド、殺人ギルドとかそういうグレーゾーン、違法系はブラックリスト入りしていますし、変な人たちは、まず入国できないシステムです」


「褒めて欲しいか!?」

「も、もちろんです。褒めてください」


「キャロル、いつもありがとうな。良い仕事するなぁ! お前は最高だ! 有能だ! 最強の忍者だっ! ヘンタイだ!」


「…………はう……。て、照れますね……」


 火照った顔を押さえ、キャロルは顔から湯気を出していた。

 ほう、これは新鮮というか可愛いな。


「って、まって下さい。最後のヘンタイは余計でしょう!? まだ変人時代(・・・・)の私を掘り起こすのですか……そんなに良かったのですね、バニーガール」


 そう、キャロルは真っ当な忍者姿の前は『バニーガール』だった。

 バニーガール忍者を名乗り、世界を股に掛けていたのだ。あれはあれで良かったなぁ。今ではすっかり普通くらいの忍者衣装だけど。


「またバニーガールになってくれよ。あれ、すげぇ良かったけどなあ」

「うぐっ……。うるさいですね……分かりましたよ。ユメがご所望なのでしたら、今度、バニーガール忍者になります。でも、あまりいやらしい目で見ないで下さい……その気になってしまいますから!」


 ――やっぱりヘンタイだった。



 そんなやり取りをしていると、夢幻騎士が帰還した。


「割と早かったな」


「…………たぁっ。疲れたわ」

 シリウスはくたくただった。


「…………なんですか、この地獄ダンジョン」

 へろへろのベテルギウス。うそん。


「ないわー。ないわー!」

 ヒステリーに近いプロキオンは、ひたすら連呼していた。



 なにがあった……?


「おーい、シリウス。ダンジョンはどうだったよ?」

「これ、難易度高過ぎね……モンスター強すぎだ! 地下15階で撤退したよ」


「ふむ、15階でギブアップか。って、えぇ!? 9999階もあるのに、どんな難易度だよ……フォースめ、調整を誤ったな」


 さすがに地下15階程度で撤退になるって、相当な強さだぞ。

 それを聞いてか、ギルドたちはざわついた。


 てっきりやる気を削がれたのかと思いきや――


「ダンジョン内はバケモノだらけなのか!?」「おもしれぇ! 高難易度の方が攻略し甲斐があるってもんだろ」「そうだな、簡単じゃつまらん」「このダンジョンでは、死んでも最初の階層に戻されるだけだしな」「敵が強いということは、それだけ経験値も豊富なはず。ここでどんどんレベルアップするのもいいだろうな」「レアアイテムありそー!」「よーし、まずは地下20階は目指したいところだな!」


 案外、やる気に満ちていた。


「へぇ。ま、このままで良さそうだな。俺も明日には降りて見るか」

「ぜひそうしてください、ユメ。私はしばらく国の防衛システムの見直しをしますね。ほら、例の怪しい組織が動いているのでしょう?」


「もう噂を聞きつけたのか。早いな。じゃ、任せたぞ」

「了解です。あ、そうそう」

「ん?」

「今回のダンジョン、ありがとうございました。おかげで国は活気に満ちています。こんなに楽しいのはギルドを結成した以来です。ですから、私は嬉しいのです。こんなも素晴らしい希望を与えてくれたユメには、報酬をあげねばですね。バニーガールの件、必ず。ご不満なら、今はこれで我慢してください」


 キャロルは自ら胸元を開き、健康的な谷間を見せつけてきた。

 割とあるんだよなぁ……。


「アリガトウ?」

「よければ触ります?」

「だ、黙れヘンタイ」

「ふふっ。では、私は戻ります。ではでは!」


 俺の顔を見てニヤニヤ笑うキャロルは去った。

 ……くっ。なんか、ちょっと、負けた気分。



 ◆



 いったん家に戻った。


 扉を開けると――



 フォースとテスラがいがみ合っていた。



 ふたりとも全裸(・・)で。



「なにしとんじゃ――――――!?」

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