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第84話 100万回の奇跡

 フォースによると、俺は別の世界では『ある女』に(たぶら)かされ、ブリーシンガメンを100%鑑定していたらしい。


 その結果、パラドックスは何回も滅んだ。



 ……それこそ信じられん。



「ありえんだろ。俺が知らん女について行くわけないだろ……」

「それが……ユメは鑑定することで頭がいっぱいだった。あたしもビックリしたけど、全て真実。今までのユメは何かに取り()かれているようだったよ。でも、100万回のタイムリープを行い、ようやく阻止に成功した。すっごく苦労した……」


「100万回!? なんだそりゃ……なんて気の遠くなる……」

「だから、この世界に来られた時は泣くほど嬉しかったの……」



 そりゃ泣くわ。

 てか、随分(ずいぶん)と苦労を掛けたな……俺。



「すまん、本当に……海賊騒ぎがやっと収まったと思ったんだが、どうやらそれ以上の危険が迫っているようだな。……で、誰なんだ俺を攻略しやがった女ってのは」


「名を『テスラ』と言った。赤髪の少女で……あたしと同い年と思われる。でも、それ以上はソウルフォースを使っても分からなかった……謎」


 フォースと同じくらいか。

 ということは、幼い感じだろう。……なるほど、フォースと似たようなってなると、分からんでもないかもしれない。


 ん、まて。


「ソウルフォースでも分からなかったのか!?」

「うん。でも、炯眼(けいがん)で何とか分かったことは、テスラという少女は、極魔法使いアルティメットウィザード。それだけは分かった。だから、只者ではない。ユメを誘惑するくらいだし……かなり手強い相手」


 マジかよ……。

 俺をソウルフォースを使って、心を操ったとでも言うのか――。


「とにかく……ラージ。このアイテムを破棄(はき)してくれ。可能だろう?」

「ええ、可能です。爆発する前の未鑑定の状態なら問題ないでしょう。ですが、念には念を……そうですね、水の聖国(サンク)の海域、マリア海溝は世界で最も深い海。そこに落とし、処理しましょう」


「おぉ、なんて大胆な発想。よし、それにしよう。フォース、このアイテムをマリア海溝に転送してくれ。その準備は出来ているんだろう」


 フォースは素早く(うなず)いた。


 よし、ならば誰の企みか知らないけどな、その計略をぶっ潰してやる。



「アイテム転送開始――マリア海溝へ」



 ブリーシンガメン(未鑑定)は、手元から消え去った。

 転移魔法によって送られたみたいだ。


「映像を出す」


 フォースは手を挙げると、宙に長方形の映像を出した。

 マリア海溝の俯瞰風景(ふかんふうけい)が映し出されている。


「すごいな」

「偵察使い魔・カダスを利用した。もうすぐ結果が分かると思う」


 俺とラージは固唾(かたず)()んで見守った。



 すると――――




『――――――――――』




 白い閃光の柱が海の底から飛び出し、空へ放射されていた。



 ……あの未鑑定アイテムが大爆発したのだ。



 なんだこの威力……大爆発っていうか、核爆発レベルじゃないか。



 そこで映像は途切れた。



「………………」



 俺もラージも沈黙。唖然となった。

 なんだこれは、あんなトラップが仕掛けられていたのか。どこのどいつだよ! 許せん、俺のパラドックスを滅亡させる気満々じゃねーか!


「フォース……これは覇王の仕業か」


 彼女は首を横に振った。


 違うのか。



「今のところは覇王ではない。でも、関係性はあると思われる。分かることはひとつだけ。テスラは我々を狙っている――」


 杖を取り出すフォースは、即座に構え、



『――――――スーパーノヴァ!!!!!!!!!!』



 背後に現れた少女にそれを放った。



「……!!」



 いたのか!! あれがテスラか……!



「ユメ、あたしはテスラを追い出す」

「ああ、俺も手伝うよ。ラージは、ギルドへ……キャロルへ現状報告を」

「わ、分かりました……では」


 ラージは拠点へ戻った。


 その瞬間だった。


 テスラは、フォースの『スーパーノヴァ』をソウルフォースで受け止めてしまった……。嘘だろ!? 大魔法を素手で受け止めるか、普通。



「………………」



 赤髪の少女は、フォースを見るでなく――俺をだけを見つめた。その眼差しには感情はなく。どこか虚ろ。最初に会った頃のフォースにそっくりだ。

 だが、その容姿や服装はまるで違う。


 そして、感じられるソウルフォースも桁違いだ。


「任務は失敗に終わりました。どうして……失敗したのでしょうか。この計画は100%成功するはずでした。この国を滅ぼし、人類は新たなステップ『ナイトメア』へ向かうはずだった……。なのにこの国は健在で、闇もそのままです」


「さあな!! テスラ、その計画だか何だか知らんがな、俺の国を滅ぼすことは絶対に許さん。そんな事はさせないし、絶対にそうはならない」


「…………なるほど、我々も覇王・ナイアルラトホテプに(だま)されていたということでしょうか。ああ、この契約はするべきではなかった……あの組織・メタモルフォーゼに未来はない。私はただ、私自身が良い夢(・・・)が見れると思ったから、彼らに手を貸しただけだった……」


 コイツは何を言っている……?


「気が変わりました。私に戦闘の意思はありません。参りました」


「…………はあ?」


 テスラは両手を挙げた。

 これはつまり……参ったってことだよな。


 ボケっとしていると、フォースは本気でテスラを捕らえた。


「……っ。あなたに縛られる覚えはないですけど」

「あたしはある。テスラ、あなたはユメを誘惑し、洗脳した。その罪は重い……。この国を滅ぼそうとさえした。消えてもらう」


「だから、その計画は失敗しましたし、もうどうでもいいです」

「そう、じゃあ……」


「やめろ、フォース」


「止めないで、ユメ。彼女は危険すぎる。ここで倒さなければ、また何をされるか……」

「そうだな、そうかもしれない。きっと、フォースが今までループしてきた時間では、こいつは酷いヤツだったのかもしれない。でも、今のコイツはちょっと違うだろう? 少し、話だけでもしていいんじゃないか」


「…………ごめん、ユメ。今回ばかりは、ユメの指示には従えない。あたしは、100万回もループしたんだよ。大変だった……死に物狂いでやっとこの世界に辿り着いたの。辛かったし、悲しかったし、痛かった……。あたしの気持ちも分かって欲しい」


 …………なんてこった。


 フォースがここまで悲痛の気持ちを吐露するなんてな。

 初めてだよ。


「分かった。その100万回分、お前を愛してやる……! だから……」

「…………え」


 ポカンとしていた。あのフォースが。


「ぷ……はははは……」


 うそ……フォースが笑ってるよ。今日はいろいろおかしいな。100万回もループすりゃ、そりゃいろいろ変化もあるよな。



「ユメって本当に面白い。だから好き。超好き。あたしもユメを愛してるもん。そうじゃなかったら、あたし、100万回もループしないし。……うん、じゃあ、その約束ならいい。けど、もうひとつ約束して」

「なんだ、言ってみ」


「赤ちゃん欲しい」


「……なぬっ!?」


 そ、それって……あー、つまり。えー…うん。そういう(・・・・)ことだよね。


「いやぁ……さすがにそれは……」

「100万回分、愛してくれるんじゃないの。あたしのこと嫌いなの」

「そ、そうじゃないって! 愛している。すっごく愛してる。好きだ! けど、そういうのはまだダメだって!」


「…………分かった。じゃあ、気持ちい事をしてくれればいい」



 変わらねえじゃねーか!!!



 ……ああ、頭痛い。


「あの~、そろそろ離して戴けませんでしょうか。私は逃げも隠れもしませんよ。戦う気もないですし、メタモルフォーゼの計画は失敗に終わったのですから」


 あ、テスラを忘れていた。

 とにかく……彼女は大事な情報源だ。

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