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第77話 火の王族

【 デイブレイク 】


 全速力で本拠地まで向かった。

 すると既に只ならぬ気配が(ただよ)っていた。


「……もう戦闘が始まっているのか。いや、膠着(こうちゃく)状態か……ん、どうなっている」


 レアやラージ、その他のメンバーが海賊らしき人物と対峙していた。だが、相手が二人いる。……船長だけじゃなかったのか。


 とにかく、前へ。


「みんな、遅れてすまん!」


「ユメさん!」

 俺の登場に驚くレア。


「ユメさんだって!?」

 振り向くラージ。ちなみに彼はギルドの最年少(ショタ)であり、鑑定士だ。しかも、かなりの実力を持つ秀才くんだ。



「話は聞いている。こいつが船長……ん、男と女。どっちが船長だ?」



 男の方はどこかの王子かってくらいにイケメンだった。ありゃ、海賊って(がら)じゃねーな。とすると、女の方が船長か。まあ、そうだよな。よくよく見れば、実に分かりやすい海賊の恰好をしている。


「……これはこれは、まるでワイルドボアの動きだな、少年」

「あんたが船長……」


 まさかの相手は女船長だった。

 しかしこれは……思ったよりも若いし、なんだか……綺麗な女性(ひと)だ。ネーブルと歳も変わらないんじゃ。けど……そんなの関係ない。

 敵が女だろうが略奪しに来たことに変わりはないんだからな。


「港を襲いやがって、あんたには相応の報いを受けてもらう」

「なんだと……副船長(ヤツ)め。襲うなと強く言っておいたのだがな」


 女船長は舌打ちした。


「どういうことだ」


「さあな……とにかく、今はとあるアイテムショップに用事があってね。しかし、その場所が分からない。誰かに案内してもらえないかと、偶然目に入ったこのギルドに踏み入れたのだが、この通り敵対中でね」


「あるアイテムショップ……そこへ行くためわざわざこんな事をしでかしたのか!?」

「言ったであろう。私は少なくとも襲うなと言ったと。だが、副船長のピエトロは野心の塊でね。ヤツは欲望のままに動いたのだろう。やはり、ヤツは信用できなかったな」


「部下の責任は上司の責任だろう。さっさと出ていけ」


「そうはいかん。この男、水の聖国(サンク)の王子をある方の場所まで届けるまではな」


水の聖国(サンク)の王子!? ……あ、あんた!」


 知ってる。

 俺はあの王子を知っている。


「久しぶりだな、ユメ……。君にはかなりの恨みがあるが、もう今更どうでもいい。あの聖女様は君にご執心のようだし、僕の想いは儚く砕け散った……。けどね、今はそれ以上のものを手に入れた。その為にも海賊の力を借りたのさ」


「王子……そこまでして、なにをする気だ」



「結婚さ」



 そう王子はハッキリと断言した。


「結婚……。ゼファは諦めたんだよな、誰と?」

「ユメ、君には関係ないことだ。さあ、案内してもらおうか、サテライト家へ」


 サテライト家!?


 まさか……リサか。そうか、それであの時は元気がなくて。

 リサは何て言っていた。



『結婚することになりました』



 やっと辻褄(つじつま)があった。

 あの言葉は本当のことで、俺に止めて欲しかったのかもしれない。そうか、この水の聖国(サンク)の王子・ヨハンはその為にこんな大胆な事を。


「けど、まて……アイテムショップは……そうなのか」


 王子が俺を(にら)みながら言った。


「ようやく気付いたようだな。だがもう遅い……。さあ、案内しろ」

「分かった。事情はあるみたいだし、見極めさせてもらうよ」


 好き勝手に暴れられても敵わんからな。



 ◆



 あのおばちゃんのいるアイテムショップへ入った。


「よう、おばちゃん。さっき振り」

「あら、ユメちゃん。キャロル様にもう伝えてくれたのかい……おや。随分とお客さんを連れて…………あ」


 おばちゃんは――いや、訂正しよう。

 サテライト家のおばちゃんは愕然(がくぜん)とした。まさかアイテムショップのおばちゃんが『サテライト家』の人間だとは思わないだろう、普通。


「そうかい。正体がバレちゃったのかい。別に(だま)すつもりはなかったんだけどね。娘がユメちゃんの大ファンだからねぇ」


 その娘こそ『リサ』だ。


「つっても、俺、サテライト家のことは詳しくないけど」


 おばちゃんは話を続けた。


「うん、実はねウチは『火の大国(グロリア)』の王族に近い貴族だったのよ。でもね、時は暗黒時代――魔王の大幹部に襲われた火の大国(グロリア)は一度は滅びかけた。……知っているでしょ、大幹部による王族虐殺事件を……。そんな危機的状況の中、私と娘はキャロル様に拾われてね。デイブレイクに招かれたのさ。でもそれからユメちゃんが世界を平和にして、火の大国(グロリア)も立ち直った。そんな時さ、そこの王子は王位継承権を持つリサに求婚したのよ」


「政略結婚か」


「そう。王子はもともと聖女ゼファ様との結婚を望んでいたようだけどね。それは失敗に終わった」


 おばちゃんは俺を優しく見つめた。

 ……分かってる。ゼファは俺が奪った(・・・)からな。


「だから『火の大国(グロリア)』の王族に近いリサを狙ったようだけどね。娘は優しい子でね、火の大国(グロリア)の為と結婚を決めたようだけど……でも、リサはやらないよ。娘はもうパラドックスの民さぁね!!」


「らしいぜ、王子」


 俺が話を振ると、王子は鼻で笑った。


「……フ。で、その本人はいるのかな」

「……だから、娘はやらないと!」


 おばちゃんはキレ気味に()えるが、店の奥からリサが現れた。


「リサ……」


 彼女の顔は吹っ切れていた。

 どうしたのだろう、やっぱり結婚を決めたのか?


「王子様、私はやっぱりユメさんとの結婚を諦められません。ですから、お断り(・・・)させて戴きます……!!」


 リサはキッパリ言った。

 そして、俺の所へ向かってくると腕を(から)めてきた。


「……リサ、あの、え?」

「私は諦めの悪い女なんです。王子様、申し訳ありませんがお引き取りを」


「それは助かった」


「え……」


「実はね、僕も結婚の話を無かったことにしてもらいたくてね。だから、直接話に来たのだよ。……すまなかった」


 王子が謝った!?


「おいおい、どういうことだよ、王子」

「ユメ、僕はね……この美しい女船長・アリアと結婚することに決めたんだ」



「………………は?」



 えーっと…………



「ええぇ!? 王子、お前、リサが目的じゃなかったのかよ!?」

「いやいや、こちらから結婚を申し込んだ以上、直接会ってお断りするのが礼儀というものだろう。だから無理をして海賊に依頼し、パラドックスへ侵入した」


「いや、王子なら侵入せんでも……」


「残念だが、僕はもう王子ではない……! 海賊(・・)だ」

「???????」


 オイ、コイツ、ナニイッテヤガルンダ。


「とりあえず、殴っていいか? 王子」


 冗談で拳を振り上げると、女船長に止められた。


「やめろ。彼に手を出すな。もういいだろ、私と彼を放っておいてくれ」


 女船長・アリアと元(?)王子・ヨハンは仲良く手を繋いで……店を後にした。



 マジ!?



「あー……。うーん……。リサ?」

「いえ、これでいいのです。ユメさんを諦めなくて良かったあ!!」


 あれ、これで良かったのか。



 解決……?

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