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第70話 魔神王

 風の帝国(キリエ)を後にして、俺たちは『風の渓谷ダンジョン』を目指した。その中間にある小屋にトルネードがいるとのこと。


 足早に向かうと、確かに小屋があった。


「あれか……!」


 ちょうど風の渓谷ダンジョンに続く道にボロ小屋があった。どうやら、今は使われていないらしい。

 すぐさま扉を開けると……


「トルネード!!」


 確かに彼女はそこにいた。


 なぜか全裸(・・)で。


「……あ」


「え……うわぁっ、ユメ! どどどどどうしてこんな場所に!」


 真っ白な肌を晒しているトルネード。

 脱ぐと凄いな……意外と胸があるのな。


「お前こそ裸で何やってるんだよ……助けに来たのに」

「助けに!? そ、そういうことだったのか……。いや、実は逃げ出す方法を模索していたのだ。それで鎧を脱ぎ捨てる他なかったわけで――…」


「脱ぐ必要あったか?」


「全身ぐるぐる巻きにされたロープは簡単に抜け出せたが、小屋は何らかの魔力で耐久値が異常に高くてな。武器は取り上げられてなかったので、鎧を代わりに武器にしたのだ……。で、小屋の壁を破壊していた」


「な……」


 なんて発想。すげえな。

 普通、そんな風に思いつかん。けど、彼女は破天荒だからなぁ、やるわな。


「まあ分かったよ。それより、丸見えだしよ」

「わぁっ!!! 馬鹿、見るなぁぁぁ!!」


 トルネードは顔を真っ赤にし、手などで大事な部分を隠す。


「よし、みんなトルネードは見つかった…………うお!?」


 あれ、なんかみんなの顔怖くね!?


「ユメ、それ以上見たら眼を潰す」

 急に肩に乗ってきたフォースは、手で俺の眼を目隠しした。ちっ、見えないぜ。


「ユメ様! なんだかトルネードさんの裸を見て嬉しそうですね!? わたくしではご不満ということですか!? そうなんですか!?」


 珍しくゼファはずいずい来ていた。


「ゼファの方が良いに決まってるだろ!」

「許しました♡」


 許された!


 などとやっとると、ネーブルが呆れた口調でこう言った。


「ああもう、トルネード。そのカッコはユメを喜ばすだけよ。仕方ないわね、こんなこともあろうかと持ってきたシャツを貸してあげるわ」


「ネーブル殿。ありがとう」


 どうやら服を持ってきていたらしい。

 やっとフォースが手をどけてくれると、そこにはシャツ一枚のトルネードの姿があった。……これはこれで新鮮でいいな。


「……ユメ。なぜ私をそんな見つめる!」

「なるほどな~と思ってな。トルネード、お前はそういう感じの方が魅力あるよ」

「う…………」


 何も言い返せなくなったトルネードは、更に顔を真っ赤にした。

 おいおい、なんで今日はこう乙女なんだか。


「まあ、フーコが心配しているし、風の帝国(キリエ)へ帰ってくれ。俺たちはこのまま『風の渓谷ダンジョン』へ入る。そこには母さんたちがいるはずなんだ」


「なんと……。あのチンピラたちの話は本当だったのか。しかも魔神やクリーチャーの道となっていると……」


「そうだ。風の渓谷ダンジョンの先にこそ元凶はある。俺たちはそこを潰しにいく。で、魔王たちを救う。トルネードは、国へ戻って復興を」


「分かった。ご武運を」


 ぺこっと礼儀正しく頭を下げて、トルネードはあのタイトなシャツ姿のまま去った。


 ふう、これで騎士長の救出クエストは完了だな。



 ◆



【 風の渓谷ダンジョン 】



 ここは以前――『ピンクダイヤモンドドラゴン』と戦った場所。

 そのちょっと先に滝はあった。



 名を『エアフォール』。



 誰も近寄らない――いや、何もない場所だからこそ誰も行こうとしない空気(・・)のような場所だった。洞窟ダンジョン・ヴァニタスと同等の概念かもしれない。


 そう、この先も空虚で満ちている。


 だからこそ以前は魔界と繋がっていたのだろう。


 だがそこも今は魔神の巣窟(そうくつ)



「入るぞ……」

「こ、こんなところを入るの!?」


 怖気づくネーブルの足が震えていた。


「落ち着け。俺が守ってやる」

「う、うん……」



 ◆



【 バテンカイトス・軌道上 】



 俺たちの世界が、惑星(ほし)が眼下に広がっていた。

 暗黒の中に大きく映し出されている緑の球体。



 あれこそが――



「バテンカイトス」



 フォースが世界の名を口にした。



 そして、この軌道上にある色即是空こそ――魔神王のテリトリーだった。



「こんなところに繋がっているとはな」

「この場所からクリーチャーが襲ってきていたのですね……」


 微妙な感情でゼファは空虚を見つめた。



「この先に魔神王が? あとユメのお母さんたちも? もしかして、アトリも?」

「そうかもな、ネーブル。どのみち終着点は此処だったんだ。決着の時だ」

「でも、前にカッシーニ? ……だっけ。別の姿で現れたときは、世界に興味がないような口ぶりだったわ、魔神王のヤツ」


「いいや。ヤツは興味津々さ。もし興味がないのなら、こんな通路はとっくに消しているはずだ。だけど、ヤツは残していた。まさかの風の帝国(キリエ)にな。俺はてっきり、闇の覇国(アニュス)と思ったんだがなー」


 今となってはどっちでもいいか。


「さあ、行くぞ。みんな、俺から決して離れるなよ!」



 ◆



多元宇宙(マルチバース)



 真っすぐ向かえば、そこはもう異次元だった。



『――――――――――』



 大きな空間には、ひとりの魔神がポツンと立っていた。



「あれが、魔神王」



 顔はよく見えない。

 なんらかのスキルによる認識阻害か。それとも。



『よく来たなと言っておいてやろう、闇使いよ。だが、お前の命運もこれまでよ。まさかこの魔神王である我自らが戦うことになろうとはな……。このような低級世界、一捻りに出来なくもなかったが……お前を我力で殺さねば気が済まなくなったのでな。気が変わったのだ』


「そりゃどうも。――で、魔王たちは無事なんだろうな? あとアトリもだ」



『魔王は無事だ。彼女等の血は貴重と判明したのでな。今は眠らせている。……それとな、言い忘れていた。そのアトリだが――』



 魔神王は『認識阻害』を解いた。




『それは()だ』




「――――――な」



「…………」「うそ……」「そんな……」


 フォースはともかく、ネーブルとゼファは驚いていた。



『ふん。ブリュンヒルデめ、余計なことを』


「どういうことだ……ヒルデは魔神ではなかったぞ! しかも、あんたを探せと言われた。それが魔神王!? ふざけるな……!」


『ふざけてなどいないさ。ヒルデは実の妹である。――だが、ある世界で私たちは別々の道を歩むことになったのさ。妹は未だに私を救おうなどと考えているらしいが――笑止千万!! 不愉快だ……!!』


「……そうか。ヒルデには悪いけど、あんたを倒すしかなさそうだな。でもな、一応聞いておいてやる。なんで世界を破壊しようとするんだ」



『お前も闇なら分かるだろう。世界――いや、宇宙はもともと『無』だったのだ。であれば、あらゆる生物を――すべてを無に帰すべきだと思わぬか。究極の無価値こそ、この宇宙には相応しい。なにもない世界こそ素晴らしい、美しいのだ』



「……なにを言っている。そんなはずはない。見ろ、あの緑の世界・バテンカイトスを! あの場所には面白いことがたくさんある。でもな、そりゃ人間だから良いところも悪いところもあるさ。争うこともある。でもだからって滅ぼす必要はない。あんたにそんな権利もないはずだ」



『その醜い争いすらもなくなる世界なのだぞ? よりよい世界ではないか』



「そうか、なにを言っても駄目だそうだな。あんたとヒルデに何があったか知らねえけどな……。俺の世界を壊そうとするのなら、容赦しない。いや、もとよりあんたは魔神王だ……倒す!!!」

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